第五話:魔法使いは案内人?
淋漓こと私とニックは広い庭園を横切る。
宿泊用の部屋に案内してもらいがてら、簡単な校舎説明をしてくれるそうなので、私は少しワクワクしながらついて行った。
「この学校のクラスは全部で四つ」
前を行く案内人ニックが白い指を四つ立ててクラスを教えてくれる。
やや大きな声で喋り歩くニックの後を、私は忙しなくパタパタかける。
「正義感が強く勇猛果敢な生徒が集うアレクサンダークラス。
上品で華麗な女子だけを集めたキャロウクラス。
努力家な博学多才が集うベルナップクラス。
強い精神力があり騎士道精神が溢れた者が集うエッジワースクラス。
それぞれのクラスの寮の前に立っている銅像は、クラスの創設者達だ」
流暢に説明されながら見て回った所は、四つのクラスの寮だった。
広い校舎を東西南北分けるように寮は立っていた。
螺旋階段状に部屋が男女別になって配置されている。
その寮の入口には小さな談話室と大きな銅像が勇ましく立っていた。
「・・・?」
アレクサンダークラスと呼ばれる寮の銅像を見た途端、どこか懐かしい気持ちになった。
昔の友人にでも偶然会ったかの様な感覚。
・・・・なんだろう?
私はもう一度銅像を見上げ、既にこの場から消えているニックの後を追った。
「クラス分けは明日。講堂で行われる。
この講堂は食堂としても利用される。
その講堂が・・・・ここだ」
大きく開かれていた扉から中を覗くと、私は目を見開いた。
「広い・・・!」
横の幅は勿論、縦も凄く高い。
何台も置かれたテーブルの上には何本もの暖かい光を放つ蝋燭が立っている。
「あ、でもクラス分けって一体どうやってするんですか?」
お前はもう手遅れです。
バカだからクラス分け出来ません、何て事にならないだろうか?
なりかねない。
「クラス分けにバカかどうかは関係ない」
そうかそれはよかった。
・・・・・・って勝手に心読むな!!
ニックはひらりと黒いローブを翻しながら長い足で歩く。
足の短い私は小走りで追いかける。
「クラスにはそれぞれカラーがある。
そのカラーでクラス分けする。
先ず、カエルの舌とヌマジ草を減エタノールで煎じた壺の中に、無色透明のペンダントを入れる。自分の手でだ。」
そのカエルとかナンチャラ草とか聞いた事ない薬品が出てくる時点でもう色々手遅れかもしれない。
「次に魔法瓶に入った真水を壺の中に流す。
そうすると、・・・・・・
ちょっと待て。
ここら一帯が占星術、薬草術、魔法理論とか、授業をやる教室になる。」
寮に東西南北を守られる様に立つ本館の三〜五階迄に、沢山の教室が詰め込まれていた。
途中、階段の踊り場では地面から白いオバケが飛びだしてき、
途中、廊下の壁に飾ってある肖像画からギャグを一発吹き込まれ、
途中、喋るお皿とフォークとスプーンに喧嘩を売られ、
途中、なぜかフクロウからピタゴラスの話を延々と聞かされ、
と、色々災難だった。
もしかして私は今年、厄年なのかも知れない。
「さっき君が行った校長室はここ本館の六階。最上階だ。
本館にはエレベーターが有るが、魔法で出来ているからな。ちょっとした事故が起こる」
「ちょっとした事故って何ですか?」
「閉じ込められるかいきなり落ちる」
ちょっとどころの話では済まないじゃないか。
「それって物凄く危ないんじゃ」
ニックを見上げると、歩きながら中々ニヒルな顔をしていらっしゃる。
「経験者が言うんだ。間違えない」
「経験者?」
問題のエレベーター前に立ち止まる。
おとぎ話によく出て来るような可愛いエレベーターだ。
「校長室に行くときに何回も死にかけた。・・・・・・あのタヌキめ。
あいつが裏で操ってたんだ」
そういって自重気味に微笑むニック。
その表情は不気味だった。
と、いうか普通自分が通っている学校の校長先生の事をタヌキ呼ばわりするだろうか。
「あの、ニックさんって校長先生と仲良いんですね」
私は可笑しくてへらり笑いながら言うと、ニックはキョトンとした顔になった。
「そんな風に見えるのか?」
「はい。何か親子みたいな」
歳離れすぎだろ。
と自分でつっこんでしまった。
「まぁ、俺はあのタヌキの孫だしな」
・・・・・・・。
「・・・・・・・。コホン。今なんて?」
ニックが階段を降りながら、何を今更、な顔をしながら言った。
「俺は校長の実の孫だ」
「えーーーっ!?」
「気がつかなかったのか?」
気がつく訳なかろう。
どこで気づけと言うのだ。
私は頭上に漫画の吹き出しを出す。
モクモク形の吹き出しの中に校長を写し、目の前のニックと比べる。
「似てない・・・・・・」
三角帽子被ってふぉっふぉっふぉ笑ってる校長。
凄く整端な顔をしているけど突き刺すような金色の瞳のニック。
「最高の誉め言葉さ」
ニヤリと笑った顔に不覚にもドキッとしてしまった。
「さて、一通り説明したし、そろそろ時間だ。俺はこれで失礼する」
気付けばもうとっくに日は暮れ、学校が綺麗にライトアップされている。
本館を出て、庭園を横切る通路を歩いていたら、道が左右に別れていた。
「この通路を真っ直ぐ行くと、直接宿泊用の部屋に繋がる」
「分かりました」
私はさっきニックから手渡されたガラス玉を確認する。
じゃぁ、と言い歩きだそうとするニックの黒いローブを私は無意識の内に掴んでいた。
怪訝な顔をしてニックは私を見た。
金色の瞳が本当に綺麗だ。
「あ、あの、えーっと、今日はありがとうございました。
ニックさんのおかげで学校の事知れて」
正直、私は数学しか取り柄が無い。
「知れたのはいいんですけど、私、大丈夫ですかね?」
ここまで来てこんな事聞くのもちょっとアレだが、聞かずにはいれなかった。
「大丈夫だ。何かあれば聞きに来い。
俺じゃなくてもさっき会った双子でもいいし。
あいつらはああ見えて中々できる魔法使いだ。大いに利用するといい」
ニックはそう笑って歩いて行ってしまった。
黒いローブをひらひらさせて歩く背中を見送っていると、ニックは振り返り口を開く。
「後、名前に『さん』なんかつけるな。ここではそれが普通だから」
この五年制(らしい)の学校で、何年生なのかも何処のクラスなのかも解らない(ただ聞くの忘れた)ニックの言葉に、何故こうも安心させられるのか。
一人でトボトボとそれほど長くない通路を歩いた。
「あ!結局クラス分けはどうやるのよ!」
ニックの姿が消えた通路の真ん中で、一人で騒いでる私の横を、箒の集団が横切った。
・・・・・・箒が歩いてる。
私はどっと疲れが出てきた。
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ニックが階段を上がると、廊下の窓から下を見ていた友人を発見。
「何見てるんだ?」
「あ?おうニック。あの子新入生?」
クスクス笑いながら友人が指さしたのは、歩く箒に絡まれ青い顔をしている淋漓だった。
「ああ、そうらしい」
「歩く箒に絡まれるとか!!」
隣で大爆笑しだした奴は放っておき、ニックは何十本もの箒に担がれ、ひゅーーっと宿泊用の部屋まで連れて行かれる淋漓を見送った。
自然と頬が緩むのをニック自身感じていた。
それを見た友人はわざわざ笑いを止めて一言。
「ニヤニヤするな変態」
途端にニックの雷が落ちた。
その内、キャラクター説明や学校内の説明などを、更新していくつもりです。