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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第四章:夏休み編
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第二十三話:時計塔ティータイム


早速夏期休暇に入り、閑散とした学校内で私は暇をもて余していた。


ぶらぶらと無駄に長く広い廊下を目的もなく歩いていると、普段は周りの音にかき消される様な靴音や、鳥の鳴き声がとても新鮮に聞こえた。

そんなのどかな空間に一人、私はこの間校長に言われた言葉を思い出した。


「闇・・・ってなんだろう?」


あまり聞いていていい響きではないその言葉。

今のところは直接私に絡んではこないようだけれど、これからどうなるんだろう。


「一体私が何をしたのでしょう・・・」


ふう、と私はため息をついた。


最近の悪夢と言えば、この間の総テストだ。

休暇直前にあった魔法のペーパー&実技試験(学校用語でシステムテストと言うらしい)はとっても難しかった。

けどまぁ、魔法が得意なジャンナの協力もあって無事、ラロを含め私たちは三人で良い点をとることが出来たわけだ。


そんな事を考えつつ歩いていると、杖を持ち魔法で大荷物を運んでるニックがひょっこり現れた。


「あ!ニック!」


知り合いの居ない学校内で知人に会えたことで、私はご機嫌になった。

つい、にっこり笑って名前を呼んだら、ニックはキョトンとした様子から直ぐに目を逸らされた。


「何してるんですか?」


とことこ近寄って訊ねると、ニックはぷいと顔を上げた。

若干、顔が赤い。


「薬草と魔法薬を運んでるんだ」


ニックの頭上でいくつもの瓶が浮かび、両手からは沢山の薬草が生えて、いや、ぶら下がっていた。


緑黄色野菜みたいだ。


「手伝いましょうか?」

「いや結構」

「うわ、随分な返答」

「結構体力使うんだから、邪魔しないでくれ」


素っ気なく言うが、彼なりに私を気遣ってくれているのが解る。

今日はどうせ暇だし、目の前に丁度いいカモも見つけた。


私は長い足を駆使し前を歩カモ、いや失礼ニックの後を追いかけた。


「・・・なんで着いて来るんだ?」

「だって暇なんですもん」


間髪入れずに答えた私に、ニックはため息をついた。





ニックの荷物がだんだん減っていき、最後の荷物を薬草術の部屋に置く。


「ふぅ、終わった・・・」

「お疲れ様です」

「お前は何がしたかったんだ?」


ニックの疲れた表情が、ただ着いてきた私に向けられた。


「いや暇だったので」


ただ着いていっただけ。


「ニック、喉が乾きました」

「そうか、なら明日から水の尽きることのない魔法瓶でも持ち歩くんだな」


そんな都合のいいもの無いに決まってる。

いや、どうだろうか?ここは魔法界だった。


私が喉が渇いたと連呼していると、ニックは何を思ったのか一度校舎を出て時計塔の中に入っていった。

キョトンとしている私を振り返りニックが笑う。


「時計塔何かに来てどうするんですか?」

「喉渇いたんだろ?美味しい紅茶があるんだ」


こんな所に?


ニックは時計塔の扉を閉め、その後扉の横にある窓を開けた。そして螺旋状の階段を上り始めた。

時計塔の中は細長い筒状になっており、壁に沿って螺旋階段が連なっている。


所々壁に埋め込まれているステンドグラスが、外の強い日光に当てられ中で綺麗に光っている。


こんなステンドグラス、外からじゃ気が付かなかった・・・。


そう思いながらコツコツと階段を登っていくニックの後ろを追う。

上まで上りつめるとそこにはカタカタと音を立てながら回る巨大な歯車があり、その大きさと埃っぽさにビビっているとニックが歯車のしたにある当て木をゴトゴトと動かした。


「この当て木を取ると時計塔の外に通じるんだ」

「へぇ」


カタカタと規則正しく動く歯車の下、私は薄暗い中で当て木を慎重に動かすニックの白い手を見ていた。

パカッと外れたそこから、外の光が一筋入ってきた。

薄暗い時計塔内に入って来た光にニックが指を指す。


「先に外に出てろ。ここは埃っぽいから」


私は頷きその通路に潜った。

スルッと下に滑り込み、外に出ると学校敷地内全域が見渡せ私は目を見開き身を乗り出した。


「わぁ・・・・・、綺麗・・・」


思わず感嘆。

一面に広がる深緑と湖。

強い風が私をぶわりと包み、私はそれをグっと肺に吸い込んだ。


微かに聴こえる水面の揺れる音と、風が葉を揺らしている音。


夏のカラッとした暑さの中に心地いい風が私を抜けて時計塔の中に入っていく。

すると中からヒューーっと笛の様な音がした。


「何今の音?」

「この通路が開いていると、笛の筒の役割をする時計塔に風が入る」


思わず後ろを向くと、ティーカップを持ったニックが通路を潜ってきていた。


「さっきここに入ってすぐ窓を開けただろう。その隙間に今入った風が抜けて音が鳴るんだ」

「この時計塔自体が笛なんですね」

「あぁ」


ニックが紅茶を私に差し出した。

ティーカップから湯気がたち、甘い香りが鼻にきた。


私は猫舌だから、慎重に冷ましながらカップに口をつける。


「学校どう?」

「え?」


ニックがこちらを見ずに私に問う。


「楽しいか?」

「はい。こうゆう生活もアリです」

「そうか」


あ・・・笑った。


レアなニックの笑った横顔。

普段とのギャップに思わずドキリとする。


一瞬、ニックにこの間校長から聞いた事を相談しようか迷った。

あの場にニックも居たから、相談と言っても今後の事についてなんだけど・・・。


でも・・・。

私っていつも人を頼ってばかり・・・。

時には私自身で解決きゃ。


そう思い直し、私は話題を変えた。


「え、えと・・・、あっ、ニックって何処に住んでるんですか?」

「あっち」


随分具体的だな。

ニックの指は本校舎の裏辺りを指した。

ニックの指さす方向を色々迷い、やっと校舎裏から少し離れた所にある赤い三角屋根を見つけた。

よく絵本とかに出てきそうな可愛い家だ。


「可愛い家ですね!」

「普通の家だろ」


箒が勝手に掃除してくれたり、家の下から車輪が出てきてバスになっちゃう家のどこが普通の家なのだ。

魔法界にある家は大抵こういう感じらしい。この間ジャンナが言っていた。


「そういえば何でニックは今日学校に?」

「家に居てもつまらないし、学校も家同然だからな。暇潰しに図書館に居座ってたらタヌキから荷物を各教室に届ける様パシリにされたんだ」

「ニックも暇だったんですね」


私はフーフーと紅茶をチビチビ飲む。


「淋漓・・・」

「何ですか?」

「いや何でもない」

「何なんですか一体」


ニックのあの鋭い目がこっちを向く。強靭な精神力や意志、思いやりや優しさが沢山詰まってる金色の瞳がこっちを見る。

最初に会った時も、あの目は凄く印象的だった。


「家に帰りたいか?」

「・・・」


ニックが真っ直ぐに言う。

私は一瞬迷う。


帰りたい・・・・・けど、帰りたくない・・・。


うーーん、と悩むが、


「今のところ帰りたくありません」


本心だった。


「そうか」


ニックが満足そうに笑を浮かべ、紅茶を飲んでいた。

そんな光景に、私も自然と笑みが溢れる。


「それでいい」


心臓辺りに、紅茶ではない暖かいモノが流れ込んでくる様な気がした。


不思議とニックの側に居る時、安心感で満たされる。


それは多分ニックが持つ力なのだろう、と勝手に解釈。


「明日、キリルとジャンナが戻って来るって、連絡があったぞ。」

「本当に!?」

「あぁ」

「やった!」


にゃはりにゃはりと笑うと、ニックが突然頭を撫でてきた。

しかも真顔で・・・・


「あの・・・・こわい・・・」


私の非難の声をスルーし、ニックは紅茶を飲み干した。

そこで私は思いつく。


「あっ!あの、折り入って相談があるんですけど」

「・・・何だ?」


何か察したのか、少しニックの顔が面倒そうになった。


「宿題手伝って下さい!」

「・・・・・・・・・・」



ゴーンゴーン、と三時の鐘が時計塔全体を揺らした。


私は紅茶の最後の一口を飲み、もう時計塔の中に入っていったニックについていく。


ニックの淹れてくれた紅茶は、とっても美味しかった。




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