第二十二話:朝、アンパンマンと遭遇
夜が明け、学校は休み。
朝日が窓から差し込む講堂で、キムチ丼を乙女らしくかきこんだ。
「男らしいわね、淋漓」
前に座るジャンナが笑顔で誉めてくれた。
ジャンナの綺麗な髪が日の光で輝く。
「ジャンナ、優勝おめでとう!」
ドッタンバッタンと登場したのは、ジャンナと同色の髪を輝かしながら歩くキリルと、私の食べてるものを青い顔して直視しているニックだった。
「お前・・・何食べてんだ?」
「激辛キムチ丼」
「・・・・・・・・」
信じられない、と言った風に顔をしかめたニックは、私の隣を陣取り大きなパフェを食べ始めた。
朝っぱらからよくそんなもんが食べられるものである。
「お前に言われたくない」
「勝手に人の心を覗かないで下さい!」
「そんな事より。優勝おめでとう」
「・・・ありがとうございます」
金色の瞳が微かに笑っている。
昨日の星願祭では、一位がアレクサンダー、二位がエッジワース、三位はベルナップ、そして四位がキャロウの結果に終わった。
機転をきかせ時間魔法に対応したアレクサンダーとエッジワースだが、頭はいいはずのベルナップは律儀に道を歩いて来たらしい。
「試練なしの道を選んだキャロウクラスは・・・最下位ですか。なぜまた・・・」
一体何があったのだ。
「夜道が怖くて歩けなかったらしい」
「はぁ?」
まぁ確かに夜の森でいきなり、訳のわからん伯爵だと喋る骨とか出てきたら、色んな意味で怖いさ。
「びっしり五寸釘が刺さった蚩人形がナンパしてきたり、」
「五寸釘が怖すぎてナンパが洒落になってません」
「変態星人猟奇的連続百人殺し、と叫びながら包丁持った奴等が全速力で追ってきたり、」
「怖いです。怖すぎます。そんなん来たら直ぐにゴールしちゃいます」
「笑う猫の胴体と首別々で脅かしてきたり、」
「某物語のシマシマ猫ですか」
「逃げ惑う内に辿り着いた墓場で、数百体にも及んで血を撒き散らしながら迫ってくるゾンビ」
「怖いわ!ってかそれ普通に試練じゃん!普通どころの話じゃ済まされないじゃ!」
何、今の語尾。
「へへへー。君達面白いねぇ。漫才コンビか何かぁ?」
私達以外の聞き慣れないマヌケな声が聞こえ、私達はピタリと止まる。
「ねぇもっと面白い話してよ!」
声の主は私の一メートル程距離を置いた隣に座っていた。
妙な間である。
コロッコロの体型に天然パーマであろう赤毛。ほっぺたはふっくらとし、ソバカスがのっていて、何だかアンパンマン、違う、あんパンみたいだ。
ムシャムシャと次から次へと口に入れてるのはあんパンだ。
「僕アレクサンダークラス二年の、ドン」
ドンって何。効果音?
「僕の名前さ!ところで、君、例の数学少女で有名な結城淋漓ちゃんだよねぇ?校長先生が君にって」
ドンが渡してくれたのは便箋。
宛先も送り主も書いていない手紙だった。
「じゃあ渡したからぁ」
そう言って完食した皿を残しデプデプと歩いていってしまった。
私はキムチ丼でヒリヒリする口の中に、名付けて「凍っちゃってる紅茶」を流し込む。
「どれどれ・・・?」
パラパラと便箋を開け中の紙を取り出すと、紙が手を離れ私の顔真正面に来た。
何も書かれていない紙から、校長の顔が浮き出てきた。
「わっ!!」
ニックも紙を覗き込む。
「淋漓じゃの?無事手紙が届いて良かったわい」
喋って動く校長からの手紙。
いつの間にかジャンナとキリルも私の後ろから手紙を覗き込んでいた。
「淋漓、まずは星願祭優勝おめでとう!」
ニンマリと校長の顔が嬉しそうに笑う。
しかし一変真剣な顔をした校長。
「うむ本題じゃ。最近変な夢を見たかね?」
私とジャンナは目を合わせる。
星願祭の件があったから、夢やら墓やらは記憶の端に追いやっていた。
「ジャックの言う通りにするんじゃ。いいかね?もう既に闇が動き出している。用心するのじゃぞ」
闇?何だそれ?
嫌な響きを纏うその言葉に、心拍数が高まる。
紙に目を向けると、校長の顔が消えかけていた。
「あ!待った!」
「おっとそうじゃ!大事な事を忘れておった。淋漓、エストレージャの景品は今しばらく待つのじゃ。よいな?」
おう、そうかまかしとけ。
っていやいやいや。
まだ聞きたい事が山ほどある!
そう思い畳み掛けた紙を掴むが、時既に遅し。
私の手に乗った校長からの手紙は、ただの紙っぺらと化した。
何故この世界は、そういう話をいつも出し惜しみするのだろう。
中途半端に聞かされても、
「わからーーーん!!」
「およ?今日の朝食はクロワッサンかー♪」
私の叫びを華麗に無視して入ってきたのはラロだった。
ドスンと私の隣に座り、何がそんなに楽しいのか私の顔を見てニカッと笑った。
「淋漓、もうすぐ夏期休暇だぞ!」
そうか。
魔法学校と言えど、夏期休暇と冬期休暇はしっかりあるらしい。
休暇中、家に戻る生徒も居れば、学校に残り友人と過ごす生徒も居る。
といっても私は、家に帰りたくても帰り方をを知らない。
何と悲しい事か。
その上、さっきの様な校長の妙な話を聞かされたのである。
帰って一人で過ごすより、魔法が存在する世界にいた方が身のためかもしれない。
「淋漓とジャンナさ、俺の家に遊びにこいよ!」
ラロがベーコンを食べながら嬉々として喋る。
「父さんが友達連れて来いってさ!」
そういえばラロは魔法界に住んでいるらしい。
「ジャンナ、夏期休暇に予定はあるの?」
「少年、それは駄目だ。可愛い妹を一人男の家になど」
私が隣のジャンナに問うのに対し、ビシッと指をラロに向けキリルは睨む。
「一度家に帰るけれど、特にこれと言った予定は無いわ」
皆、家に帰れて羨ましい。
「じゃぁ行かない?ラロの家」
「淋漓が行くのなら私も行くわ!」
「え、うそ?」
「よし決まり!」
最後のラロでこの話は決まった。
後ろでキリルがなにやら騒いでいたが、誰も聞いちゃいなかった。
こんにちは。
更新大分遅れてすみません…。
次の展開にどう持っていこうか試行錯誤している内にどんどん日数が!
これからも更新に時間がかかってしまう事があると思いますが、気長に付き合ってくれると、私泣いて喜びます。