第二十一話:星の宿りし泉
時間魔法を無事解けた私たちは、薄暗い森を突っ切った。
黒カビだらけの森を抜けると、先の方で微かに光るものと水の音が聞こえた。
「星の宿りし泉だわ」
青く光る草の真ん中に星の宿りし泉はあった。
さらさらと水音がする泉の真ん中に、大きく育った樹が生えていた。
樹には白い光を帯びた実が実っていて、私はそのまばゆさに目を奪われた。
「綺麗・・・」
「此処が星の宿りし泉か」
「素敵だわ・・・」
白く輝く実が、水面に映りゆらゆらと揺れている。
「この水でこの樹は育ってきたのね」
ジャンナが泉から小さな手に水をすくった。
「あの白い実には、星が宿っているのじゃ」
私達はキラキラと輝く星たちに照らされ、ゆっくりと泉のほとりに腰をおろした。
「俺等が一等賞みたいだな」
ラロがカラッと笑い周りを見渡しながら願い事が入った箱を開いた。
中にはキラキラ輝く、みんなから集めた願い事が詰まっている。
「これをこの泉に流すのね」
そっと手を添え箱を傾ける。
するとキラキラ光る石が、透き通った水に沈んでいく。
そのあまりの綺麗さに、私は感嘆した。
今までこんなに綺麗なものを見たことあっただろうか。
青白く光る樹に、それを反射する泉、そこに沈んでいく願い事・・・。
その光が私の心の溝を全て埋めてくれている様で、涙が出そうになった。
けれどグっと堪え、一度目を瞑り上を向く。
「淋漓?」
周りの木々が揺れ、ジャンナの声と共に風が私達を取り囲む。
夏なのに冷たいその風は、髪を通り抜け水面を揺らす。
目を開け深く深呼吸した。
「とっても綺麗だわ・・・」
ジャンナの青い瞳に、白く光る実が映る。まるでプラネタリウムみたいだ。
樹にぶら下がる星たちは、空から降ってきた星屑がそのまま実になって輝いている様。
想像以上の美しさに、私達は暫く黙って星の宿りし泉を見つめていた。
「この泉には、どんな願いも叶えてくれる力が有るのじゃ」
「どんな願いも?」
「そうじゃ」
私は泉の水をすくってみた。
手にひんやりとした感覚と、只の水の筈なのにキラキラと煌めく水。
それぞれの想いが詰まった願いが、この泉に集まる。
木々の葉っぱのざわめきと、水のさらさらという音。
何処からか、カエルの声が聞こえた。
そんな静かな空間に、突然、何かが近づいて来る様な音がした。
「何かしら?」
「人間じゃないな」
「どんどん近づいてきてる・・・」
ザッザッと草の上を駆ける音。
もの凄いスピードで走っているのは確かだ。
「来るぞ!」
「グアァァア!」
ラロの声と共に、別の叫びが響く。
空気までもを揺らす大きな声と迫力。
思わず後ろにつんのめり、危うく泉に落ちそうになった。
声の主を見るとそこには、
草に立つたくましい四肢。
真っ直ぐに前を見据える瞳。
勇ましく風に揺られるたて髪。
「あ、あれ・・・」
「すげぇ!」
「・・・ライオンだわ・・・」
「あまり老いぼれを驚かすもんじゃないわい」
百獣の王、ライオンが立っていた。
◆
◆
◆
「あんれー、二位だっぺか」
赤いボサボサの髪、オレンジ色のジト目、まの抜けた訛り、勇ましく張る胸には緑色のペンダント。
大きな雄ライオンから降りてきたのはジャンヌだった。
「ジャンヌ!」
「一位はアレクサンダーだべか。いんや、おんめでとだぁ」
にやり、笑いながら頭をかくジャンヌの腰には、大きな剣がかかっていた。
「ジャンヌ、このライオンは貴方の?」
「そうだべよ。おらの相棒、ファウストってんだべ。」
ゆっくりこちらに向かってくるファウスト。
ジャンヌと並んだ時、軽く頭を下げた。
「我はの名はファウスト。以後、お見知りおきを」
「喋った!?」
私の素頓狂な声にジャンヌが笑う。
「召喚獣なんだべよ、ファウストは。召喚獣はほとんどが言葉しゃべれるっぺよ」
この世界の生き物は召喚獣でなくとも喋るじゃないか。
ここに来てからというもの、ティーカップが喋ろうが、箒が喋ろうが、あまり驚かなくなった。
「かっこいい相棒だな」
ラロがそっと手をファウストのたて髪に乗せる。
ファウストはおとなしく目を閉じた。
「他の皆遅いべな」
願いの石を流し終えたジャンヌが周りを見渡す。
「あら?淋漓、ガイコツ伯爵が居ないわ」
「?あれ?本当だ・・・。どっかに消えちゃった」
周りをぐるりと見渡したけど、ガイコツの姿は見当たらなかった。
そういえば、カタカタという音もいつの間にか聞こえなくなっていた。・・・ような気がする。
「棺桶に帰ったんだろ。今度墓参りに行ってやろうぜ」
ラロの言葉に、「棺桶でない、ガイコツ家じゃ!」と、骨の言葉が聞こえた気がした。
「ふぁあ。眠いわ」
ジャンナが欠伸をする横で私はもう一度星の宿りし泉に目を向けた。
「だべなー。おらも眠い」
「帰ってシエスタシエスタ」
「シエスタはお昼寝でしょ」
三人共、あくびが横へ横へと移って、しまいには私があくびをした。
他のクラス代表者が着くのを待ってるのは、非常に面倒臭い。
そう思ってるのは私だけじゃないと思う。
ゲココ、とさっきのカエルが鳴いた。
「カエルも鳴いてる事だし、帰りましょ!」
「カエルが帰る」
「・・・・・・・・・・淋漓」
「すみません」
ゲコゲコ
カエルも私の言葉に返事をした様だった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
無事に星願祭編が終わりました!次の回からもじゃんじゃん書いていきたいと思います!