第十九話:珍妙な同行者
残り物に福は無い。
私達が選んだ道は試験だらけだった。
暗く不気味で、鬱蒼とした森を杖先に光る灯りを頼りに進んで行く。
私達の足音の他に虫の涼しげな声と、フクロウがホーと鳴いている。
「『星の宿りし泉』までは一本道か・・・」
「そうみたいね」
ラロの広げた地図を覗くと、そこには『星の宿りし泉』まで伸びた四本の道が記されていた。
「これ、地図の意味無いね」
「はは・・・・」
「そうね・・・」
若干憂いを含んだ苦笑いの後、突然横の草むらで、ガサ、と何かが動いた。
ラロが素早く反応し、杖を音のした方に向ける。
「何だ?」
カタカタ、と白い棒みたいなものが草むらから姿を表した。
「え、私あれ見たことある・・・」
「淋漓、私もあるわ・・・」
「学校にある人体模型(骨バージョン)・・・」
草むらから出てきたのは、骨だった。あの学校の理科室にちゃっかり居座るあの骨だった。
カタカタと音を発しながら、見事に全パーツ揃ったガイコツが私達の前でお辞儀をした。
「ヒッヒッヒッ。ようこそ諸君!我が輩の名はガイコツ伯爵。これからの試験の相手は我が輩じゃ!ヒーヒッヒッ」
ガイコツ伯爵とか訳わからん事ホザきだした骨が飄々と歯をカチカチ鳴らしながら喋る。
陽気にタップダンスを踊りながら、カタカタ私達の周りを回る。
「試験って一体どんな内容?」
私は忙しなく移動するガイコツ伯爵にきくが、ガイコツ伯爵はそのシャレコウベを傾けた。
「む?そんな面倒臭い説明してられるか。大体試験内容などやる前から明かすか!貴様はなにか?期末テストの問題を予め先公に教えてもらっておるのか!?なんちゅう図々しさだ」
一体何なんだろうこの骨は。
私達は目を見合わせ、これから先の事を案じた。
「それでは試験を開始する」
不格好に仁王立ちしたガイコツの後ろからザッと、いきなり周りの木や草に炎が燃え上がった。
「あっつ!」
「ヒッヒッヒッ。さて君達にこの炎の熱さに耐え、我が輩を倒す事が出来るかね?」
「あちち、何だあの骨を倒せばいいんじゃないのか!?」
「お主も馬鹿よのぅ!我が輩を倒す前に周りの炎を消さなければ試験合格にはならんぞ!」
そうカタカタと笑う骨はともかく、私達の周りは火で囲まれていて、動くようにも動けない。
炎のパチパチという音と、だんだん広がっていく炎の熱さに、じわじわ汗がにじむ。
「ラロ、熱には強いんじゃないの?」
「熱に熱で対抗してどうすんだ。・・・あちーな」
「どうやって火消そうか」
この炎にどんな魔力が有るのかは解らないが、異様に熱い。
頭までぼーっとしてくるし、体も思うように動かない。
目の前でヒッヒッヒッと笑ってるガイコツを一睨みし、懐から杖を取り出し頭の中で呪文を用意する。
「消火!」
「ヒッヒッヒッそんなチャチな魔法じゃこの炎は消せんよ!ほれっ!」
少しは弱まった炎が再びガイコツの所為で大きく揺れる。
熱い・・・・。
そして骨はこ憎たらしい。
どうやら思考までも鈍らせる魔法がかけられているらしく、こんな時なのに人間の骨は焼いて食べると美味しいのかどうか考えてしまう。
おまけに意識や視界がぼやけてきている。
「あの骨、一発蹴りいれて色々と再起不能にしてやろうか」
「やったれラロ」
「お言葉ですけど伯爵」
それまで黙っていたジャンナが突然口を開いた。
手には何処から取り出したのかステッキを持っている。
「これは立派な環境破壊よ!骨しか残ってない程歳とっている筈なのに、そんな事も解らないなんて・・・」
「なぬ。我が輩は年寄りではない!環境破壊なんぞしてはおらんぞ」
「世も末ね!!」
カンッとステッキで地面を一つ叩くと水色の魔方陣が出現した。
「水よ、さぁ火を消すのよ!」
「なぬ!?」
ジャンナの命令と共に、魔方陣から水が噴き出した。
骨の間抜けな声と共に、炎はどんどん消されていく。
魔方陣から溢れる水は、私達にもかかりびしょ濡れになる。
冷水を頭から被り、色々とシャキッとしたところで・・・。
「さぁ骨。覚悟しろ」
「木っ端微塵に粉砕しちゃるかんな」
私とラロは指をポキポキ鳴らしながら、すっかり涼しくなった体を存分に動かす。
「や、やめい!こら叩くでないやめんか!痛い痛い。あ、肋骨が!これ、ああ!蹴るな!上腕骨が!ああーーーー!!」
◆
◆
◆
「今魔法界めちゃくちゃ環境が危機なの知ってる?」
私も最近知った。
「そうよ、私達が森林を守らないで誰が守るのよ」
「なんならその骨も燃やしてやろうか?」
丸焦げに焼けた森達を背に私達は容赦なく骨に罵声を浴びせる。
ざまぁみろ。
三人揃ってチェシャ猫の様に笑う姿を見て、ガイコツがため息をついた。
「全く失敬な奴等だ。我が輩は自然界をも司るガイコツ伯爵だぞ!」
「あそ」
あの後、私達はこのガイコツをバラバラにしてみたが、結局五分位で元に戻ってしまった。
このままガイコツと話していても時間の無駄なので、さぁ旅の続きだ、と気を取り直して再び杖にライトをつけた。
「次はもう少しマシなのがくるといいね」
カサ、カサ、と私達の足音。
カタ、カタ、と・・・・・・
「・・・・い、一位の賞品って何なんだろう?」
「確か兄さんが貰ったのはメダルだったわ」
「そうか、メダルかー」
「特に魔力が宿ってるとかそういう訳ではないみたいよ」
「メダルね」
カサ、カサ、と私達の足音。
カタ、カタ、と・・・・・・
「・・・でも今年の賞品は少し特別らしいぞ?」
「・・・そうなの?」
「うん、まぁ噂だけど」
「宝石とか」
「淋漓、宝石好きなのか?」
「綺麗じゃない?」
「私も好きよ!宝石」
カサ、カサ、と私達の足音。
カタ、カタ、と・・・・・・
「何でついてきてんだよっ!!!」
「ひょぇっ!!!」
気付いてはいた。あえて言わなかったのだ。
しかし痺れを切らしたのか最終的にツッコンだのはラロだった。
「失敬だな。我が輩は泣く子も黙るガイコツ伯爵だぞ」
「伯爵って、一体どこの家の方?」
「何をわけのわからん事言っとるのじゃ。ガイコツ家に決まっとるじゃろ」
「訳のわからん事を言ってるのはお前だろ!」
何だか不気味な筈の森が、このガイコツの所為で、只の黒かびだらけのブロッコリーにしか見えない。
「我が輩の名はガイコツ伯爵、別名魔法界の黒幕じゃ!」
「おい骨それ以上言ってみろ。アウストラロピテクスの化石だつって博物館送りにしてやるからな」
「ぶ、物騒な事言うでない!」
ラロとガイコツの会話を聞きながら、私は隣のジャンナに顔を向ける。
「そういえばさっきの魔方陣って何?」
「あ!それはね、このペンタクルステッキって言うんだけどね!」
ジャンナがカバンからニョキっと出したステッキを私に見せてくれた。
なんの変哲のなさそうな木で出来たステッキ、よく見ると先端に透明の水晶がついてる。
「自然界の物、水、大地、火、風とかを簡単に起こす事が出来るの。自然魔術程の威力は無いけど、便利な道具なのよ!」
「へぇ便利だね。ジャンナっていつも色々な魔法具持ってるよね」
「ええ、兄さんが持たせてくれるの。これはね、私の七つ道具なの!」
ジャンナが肩に掛けていたカバンの中身を見せてくれた。
カバンに魔法がかけられているから、カバンに合わせて物が大きさを変えられる。便利だ。
カバンにはさっきのステッキを小さくした物の始め、何に使うのか見当もつかない魔法具がごっそり入っていた。
「凄い!青ダヌキの四次元ポケットみたいだ!」
「青ダヌキ?」
「うん、そういうキャラクターが居るんだけど、そいつもポケットの中に沢山の道具が入ってるの」
「変わったキャラクターね!」
クスクス笑ってるジャンナに、ここの世界ほどじゃないよ、とツッコミを入れつつ私は前を向いた。
突然静かな森に、突然爆音が鳴る。
「!?」
ゴォンと伝わってくるのは足下からの振動。
「何かしら?」
「結構遠いな」
確かに音からして近くではない。
「ふむ・・・。これは他のチームが暴れておる可能性が高いの」
「骨、何でお前が解析してんだよ」
他のチームは今どこら辺に居るのだろうか?
「ま、一位なんぞ最初から狙って無いけどね」
「さ、急ぐのじゃ。モタモタしとると一位を取り損なうぞ!」
ホント、何なんだろう、この骨。