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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第三章:星願祭編
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第十八話:夏の夜の回想


星願祭(エストレージャ)当日、私とジャンナとラロは、途方に暮れていた。


学校の北側に広がる森。

四つの入り口からスタートし、幾つかの試験を突破し、森の奥にある『星の宿りし泉』に皆の願いを集めた箱を沈める。

皆の願いを集めた箱と言うのは、学校の中庭に咲く花の実に願い事を念じそれを中くらいの木箱にクラス分集めたもの。花の実はダイヤモンドの様にキラキラいていて、一つがとても小さいので腰にさげられる位の箱に全部収まった。

途中、色々と珍妙なトラップが現れるらしいが、それら試験を突破出来なかった場合脱落となるらしい。


これが試験内容。


「七夕にする事じゃないぞ」


応援してくれているアレクサンダークラスの人たちの期待を考えたら、適当にやっとけばいいものじゃない。

普段なら面倒なので軽ーくやるのだが・・・、私は頭を抱えた。


もう既に日は暮れ、私達は森の目の前に居る。

他のクラスの代表者を見ると、キャロウからは三人、ベルナップからは二人、しかも一人は昨日図書館で出会った異国の王子フィリップだ、エッジワースからは一人。

流石エッジワース、勇ましく立つ姿は格好いい・・・・・


「って、ジャンヌ!!」


赤いショートカットにオレンジの瞳が暗がりの中私達を捉える。


「あんれ、淋漓さんにジャンナさん。元気だっべか?」


相変わらずのなまりとジト目が、なんとも緊張感の欠片もなくてこっち側も少しリラックスした。


「えぇ元気よ。ジャンヌ、貴方一人?」


んだ。と、答えるジャンヌに不安の色の欠片も無い。


「んまぁ、適当にやってみんべよ。お互い頑張るべ」







クラス皆の願い石が詰まった木の箱をラロの肩掛けカバンに入れ、いざ出発!


時刻は夜の八時、ゴーンゴーン、と時計塔の鐘がなる。スタートの合図だ。


先ずは四つの入り口を早い者勝ち。

他の代表者達は走るか飛ぶかで一斉に入り口へ向かった。

するとあっという間に、入り口には透明の膜が張り、残る入り口は一つになった。


残り物には福がある、と言う言葉が有りますね。

急がば回れ、と言う言葉が有りますね。


「さぁ、行こう」


私達はのんびり出発した。





校内では、カラフルな料理にオーケストラ、ダンスパーティー等が始まっていた。


天井のシャンデリアがギラギラと光り、下のダンサー達を明るく照らす。


俺はダンスの申し出をやんわり断りながら賑やかな人混みを抜け、北側のバルコニーへ出る。

外の空気を吸いたかったので、外に出た瞬間気持ちが良かった。


だがそこには既に先客がいた。


俺が近づくとそいつは一度振り返り、俺をその金色の瞳で認めた後、再び試験の行われている森に目をやった。


手始めに自慢をする。


「ニック、流石だろ?俺の妹」


先客であるニックの隣に行き、森に目をやる。


「あぁ、凄い」


素っ気ない言葉だが、こいつはよっぽどの事が無い限り嘘は言わない。よって今のは本音になると勝手に解釈。


「だろ。俺の自慢の妹だ」


視線を森から空に移すと、星願祭にふさわしい星空が一面に広がっていた。


二年前のこの祭りを思い出す。


この学校に入学したあの日、偶然隣に座ったニックは今以上に感じが悪かった。

目付きは鋭くて怖いし、暗いし、あんまり口きかないし、相部屋になった時は死ぬかと思った。


勉強も魔法も成績は優秀で、顔も綺麗だから女にモテてるが総無視。勿体ない。


だが、決定的ないがみ合いや喧嘩は無く、無視ではないがまるで俺が見えてないように振る舞うニックと、自然とあまり口はきかなかった。

だが同じ学校で同じクラスで相部屋でおまけにとってる教科が殆ど一緒なのだ。こんな偶然はそうそうない。

俺は天から授かった宿命だと思って、ニックに少し話しかけるようになった。

あまり表情には出さなかったが、決して無口とかでは無かったらしくちゃんと会話が成立した。俺の質問に律儀に答えてくれたし、それを嫌がったりする素振りは全く見せなかった。

しかし、本当に無表情だった。笑うと言っても口角を僅か二、三度上げる皮肉笑顔だけで、いつかヒマワリの様に笑う奴の顔を拝んで見たいと思った。


そんな妙な関係が続いてた時、星願祭(エストレージャ)で、アレクサンダークラス代表者になったのが、俺とニックの二人だった。


一体どんな数奇な人生を送ればここまで偶然が一致しようか。


俺はその時思わず空を睨んでいた。


試験中の奴の選ぶ魔法は的確だったし、機転を利かせて物事を運ぶ姿を見て、なんとなくだが、本当になんとなくだが少し奴の事が分かってきた様な気がした。


『星の宿りし泉』に一着で着いた時、ニックは初めて俺の前で嬉しそうに笑った。

それはどう見てもヒマワリみたいでは無かったが、まぁ奴が本当に嬉しそうに笑っていたようだったから、俺も良しとした。



今こそ俺とこいつは仲良くやっているが、昔はこんな仲良くなるとは思ってもみなかった。

正直、絶対口にはしないが俺はこいつに支えられてこの学校生活を楽しんでいる様なもんだ。だから、ひょっこり居なくなられては困る。


こやつが居なければレポートも高得点は狙えないし、授業中起きて聞いていないと授業についていけなくなる。

テストだって教え方が上手いこやつのおかげで満点近くを取れるし、まぁともかく俺はこいつのお友達だから、一緒にいるわけだ。



そう一人悶々と考え別世界を旅行中、ニックの言葉が俺を現実世界に引き戻す。


「懐かしいな。一年の時の星願祭(エストレージャ)

「何だ、今俺もその事を考えてたんだ」


二人で森を見つめ、今我妹達はどこら辺にいるのだろうと想像する。

暗い森は草木が生い茂っていて、こっから見ると真っ黒のカタマリだ。


森に飽きた俺はふとニックの横顔を盗み見る。悔しいが男の俺でも認める端整な顔立ちがジィっと森を見渡す。


「なぁ、ニック」

「何?」


俺は最近思う事が一つ。

こいつ最近よく笑う。

まぁ誠に残念ながらまだヒマワリにはほど遠い。

しかし最近は本当に微笑んでいる時が多い。


まさか・・・


一つ思い当たる節が。


「・・・お前さ、実は結城ちゃんの事好きだろ」

「・・・・・・は?」


何言ってんだコイツみたいな顔してこっちを見る奴。

なるほど気づいてないのか。天然系か。


「まぁ俺は、応援するさ。だがなニックよ、よく聞け?

お前みたいな万年無表情にジャンナは渡さないよ?分かる?誰があんな可愛い妹を渡すか。お前なんかえりまきトカゲで充分だ」

「訳のわからん事を横でペラペラ喋るな」

「それだ。お前の悪い癖。もう少しさー、ヒマワリを見習えヒマワリを」

「何?ヒマワリ?」

「いやこっちの話だ気にすんな。ま、そんなんじゃ結城ちゃんに嫌われるぞー♪」


キッと睨み付けられると同時に鳩尾(みぞおち)に衝撃。


そして冷めた眼で俺を一瞥し、すたすた歩いて中に入ってしまう。

どうせ甘いものでも食いに行くんだろう。


早くも痛みから復活した俺は、追い掛けていって、奴の肩に腕をかける。


「ダンスのお相手はいかがですか?」

「残念ながら俺はそういう趣味じゃない」

奇遇・・だな。俺も同感だ」

「何なんだお前」


他愛のない会話をしながら、俺等は講堂に入った。




どうもこんにちは。

毎度毎度読んで下さって感謝の気持ちで一杯です。


はい、今回はニックとキリルの回想シーンを取り入れて見ました。二人は切っても切れない縁でいてほしい。もちろん淋璃ちゃん達もね。

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