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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第三章:星願祭編
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第十六話:パンドラ夏のお祭り



朝、私は目覚めた。チョキチョキという不思議な音によって。

もそもそと起き上がり、部屋の反対側のベッドを見るとそこにジャンナは居なかった。


謎のチョキチョキは洗面所から聞こえる。


音の正体を確認すべく私は洗面所を覗いた。


「ジャンナ?」

「あ!おはよう淋漓」

「え誰ですか貴方」


見知らぬ人がハサミを片手にこちらを振り返った。


「もう私よ!見て、髪を切ったの!似合うかしら?」


ハサミを洗面台に置いてこっちを向いたその子は、髪をバッサリ切ったジャンナだった。

今まで背中まであったフワフワの髪が、今じゃ肩より上でフワフワしている。


「髪の切る音か。随分切ったね」

「ええ。結構鬱陶しかったし、今の季節暑いのよね」

「そっか。似合ってるよ」


ふふふ、と照れたように笑ったジャンナとぱっぱと支度を終え、講堂に向かった。


「夕べの事、これからどうするの?」


お墓の事だ。


「うーん、どうしよう。他の創設者のお墓参りもした方が良いのかな?」

「とりあえず、他のお墓も探してみましょ」

「そうだね」


談話室を出て長い廊下を二人で歩く。

すると別の廊下からニックが颯爽と歩いてきた。


「おはようニック」

「ニックごきげんよう」

「ニックおはよ」


しかも女の子からの黄色い挨拶をオール無視だ。


私とジャンナは顔を見合わせた。

ヘラりと笑い、後ろから声をかける。


「おはようございますニック♪」


おー、我ながらキモい。


「・・・何なんだお前」

「あれ?無視しないんですか?」

「・・・はぁ」


どうやら目的地は一緒らしい。

ニックの歩幅に合わせて私達はちょこちょこと歩く。


講堂に入るとラロとキリルが睨み合っていた。なにやら口喧嘩している様だ。


私達は三人で顔を見合わせる。


「ほっとくぞ」

「おけ」

「わかったわ」





「で?どうなった、墓は」

「引き続き調査を」


今日最後の授業を終えた私達三人は談話室でくつろいでいた。

ジャンナが今日習った魔法を杖を使って復習している。

それをじっと凝視しながらラロが口を開いた。


「本当に五人目の墓、あるかな?」


私はマントルピースに目を向ける。


「さぁ。でもジャックがそう言ったからなぁ」


ふう、と息を吐きながらソファにずっしりと体重をかけた。


「ま、そのうちわかるさ。飯食べに行こう。さ、早く早く」


ラロが立って伸びをし、私達を促す。


講堂にはいつ見ても豪華な食事が並んでいた。


その食事の間をちょこちょこーと駆け回る何かに気がついた。


「?」


よく見るとそれは火で出来た棒人間だ。

ひょろひょろの体をふにゃふにゃさせながらテーブルの上の障害物を抜け走っていく。


「なんじゃこりゃ?」

「火の人形よ。校長先生の(しもべ)よ。何か校長先生から皆に大事なお知らせがある時とかに、皆に集合をかけるのよ」


思わず素頓狂な声を上げてしまった私に、ジャンナが説明してくれる。


「へぇ、火の人形ね」


ちょこまかと食事の間を行ったり来たりするその姿はなんとも可愛らしい。

私は席につきまだ湯気がたっているスープを飲みながら火の人形の観察に勤しんだ。


夕食の時間を利用して、校長が全生徒に話があると言うので皆が席につき校長の話に耳をかたむけた。


「集まったの。今日はの、重大発表が有るのじゃ」


私はチョコレートジュースをズルズルと啜る。


ズルズルズルズルズルズル


「甘過ぎてまずい・・・・・・」


んーっと唸っていると、

ズルズルズルズルズルズル

と前から聞こえる。


うるさいな、と思い音の根源に目をやると、前に座るニック(いつの間に?)が凄い勢いでチョコレートジュースを飲んでいる。


何だが恐ろしい光景だった。


「もう、暑い時期が始まったの。夏は空が晴れ、星空がとても綺麗な季節じゃの!そこで、毎年好例、パンドラ魔法学校星願祭(エストレージャ)じゃ!」


周りが一気に騒めく。


「筋トレ?何だって?」

「淋漓・・・、それ素?」


何で魔法学校に筋トレが必要なんだと思ったら、隣からラロの声が聞こえた。


「すみませんね。残念ながら外国語は私にとって天敵なの」


そもそも何故この世界で人と言葉が通じるのか不思議だ。

どうせ魔法だろうけどさ。


前を見るとニックとキリル(だからいつの間に?)が揃いも揃って青い顔をしている。


星願祭(エストレージャ)はね、夜空に出る星へ願い事をするお祭りなの!」


隣に座っているジャンナがうっとりする。


「素敵よねロマンチックよね・・・」


只の七夕もどきじゃないか。

おっと、これ以上は夢が壊れてしまう。


星願祭(エストレージャ)は一週間後。各クラスから代表で選ばれた者は、皆の願いを星の宿りし泉に届けるのじゃ。一番早く着いたクラスには、素晴らしい賞品を与えよう。良いかの?質問は・・・無いの」


各クラスの代表って誰だろう?


「代表者は多くて三人。淋漓達の学年、つまり一年生から選出される。代表者は校長が選抜するんだ」


前に座るニックがミルフィーユを食べながら説明する。


「スタートは森の入り口。四つの入り口を早い者勝ちで一クラスずつ入った後、課せられる試験を突破する。

ちなみに、四つの中で一つだけ、試験が無い道がある。運の良い奴は、試験をせずに楽々と星の宿りし泉に辿り着けるんだ」


いつの間にかニックの食物が白玉ぜんざいに変わっている。


「ニック達の学年からは誰が選ばれたんですか?」


ニックとキリルの表情がだんだん暗くなっていく。


「あ、もしかして、二人が?」


心底疲れた表情をする二人を見て、私達三人はケラケラ笑った。


するとジャンナが私に耳打ちをする。


「実はね、兄さんとニックが仲良くなったきっかけなのよ!最初はスッゴク仲が悪かったのに!男って本当よく解んないわ!」

「そうだったんだ。フフフ。面白い」


今はいつも一緒にいるのに、最初は仲が悪かったなんて以外。


「ま、主に一年生の為の祭りさ。楽しむといい」

「へぇ」


まぁ私にはあまり関係無いし、普通に星にお祈りするとしよう。


「代表者の発表は星願祭(エストレージャ)前日じゃ。本人の前に急に現れるのでな、少々用心した方がいいの」


急に現れる?


「おっと、忘れるとこじゃった。星願祭(エストレージャ)当日には、ダンスパーティーもあるからの。早いうちにペアを決めておくんじゃぞ。へっへっへっ♪」


校長のその言葉に周りが一斉にざわざわし始める。


「ダンスパーティーって、私ステップとか踏めないしな・・・」

「私もよ。平気よ淋漓、私と踊りましょう!」

「俺も一緒に踊る」


三人で一緒に踊るなんて変わったダンスパーティーになりそうだ。


「淋漓、そこのフルーツサンドとって」


情けない会話をしていた私の目の前に、フルーツサンドのお皿が置いてある。

そのフルーツサンドを見つめるニックの声に、私は呆れた。


「さっきから甘い物食べ過ぎです。死にますよ」


どうやらニックは極度の甘党らしい。

何であんなに細いんだろう?


「いいから・・・」

「ダメです!」


魔法で皿ごと持っていこうとするニックに、それを魔法で阻止する私。


「もうっダメだっつってるでしょ!往生際が悪いなぁ!こんな物ばかり食べてると、いつか水晶玉に映ったニックみたくなっちゃいますよ!」


早口で言った後、私はフルーツサンドをパクっと口に入れた。


「あっ!」


ニックの声が聞こえたが時既に遅し。




・・・・・・甘っ!!





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