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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第二章:日常編
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第十五話:天井から落ちて来る者あり


「アレクサンダー鬼の寮長の説教!」「いやーっ、ご苦労さん!」


ルカとルナがケロリ笑いながら談話室に戻って来た。


「お前等・・・・・・」


ニックとキリルはギロッと一睨み。

寮長の説教は短いが恐ろしい。たかが五分の説教でも寿命が十年縮む。


「おい双子!俺の可愛いジャンナを何処へやった!?」

「淋漓は?確実に安全なんだろうな?」


ニック達の喧嘩腰な言葉に、双子は柔らかく笑う。


「大丈ー夫!」「心配無いさ。な?ルカ?」「ああ!その内ひょっこり空から降ってくるさ!」


能天気な声にキリルが吠える。


「空から人が降って来る訳ないだろうが!寝言は寝て言え!寝言は!」

「やだなーシスコ・・・、いやキリル君!」「僕達は起きてる!」「覚醒している!」「つまり、寝言ではなーい!!」「淋漓達は必ず!」「「空から降ってくるー!!」」


どこから来るんだ、その根拠は。


「やかましぃーーー!!」

「お前がやかましい。もう寮長に説教されるのはごめんだからな」


一際大きな声を上げたキリルを殴って黙らせ、ニックは双子に向き直る。


「お前ら淋漓達が何処に行ったのか知ってるのか?」


同じ顔が二つこちらを向く。

人が良いのが一目で解る瞳が四つ真っ直ぐこちらを見る。


「いや」「知らない」

「即答かよ。何か聞いてないのか?」

「暖炉の前で何かしてるのは見たけど」「それ以外よく知らないな」

「暖炉・・・?やっぱりマントルピースに何か有るのか?」


自分たち以外誰も居ない談話室を見渡すが、やはり何もわからなかった。

隣ではキリルがのびている。


「淋漓達にだって色々あるんじゃん?」「俺たちには感傷されたくない事があっても不思議な事じゃぁない」「僕たちだってそういう時あるよね」


いつ聞いてもテンポのいい会話だ。

顔も体型も同じならば考える事も全部同じらしい。

見ただけじゃどっちがどっちだか全く解らない。


だが今の会話・・・


「お前ら、一人称が違うのか?」


ルカとルナが一瞬驚いた様な顔をしたが、直ぐにニンマリと笑いニックに駆け寄る。


「な、何だ・・・」

「おめでとうニック!」「僕たちを一人称で見破ったの!」「黒猫!」「君が初めてだ!」


同じ顔が目の前まで迫ってきて、ニックは自然と後ろに仰け反る。


「へぇ、ちなみにどっちが『俺』でどっちが『僕』なんだ?」

「『俺』はルカなんだ」「『僕』はルナ」


ただの自己紹介の様にしか聞こえないので、


「待て。ルカはどっちだ?」

「俺!」


ルカは元気に手を挙げる。


どうやらこの双子は一人称が兄と弟で違うらしい。

三年間も一緒に居たのに、今まで全然気がつかなかった。


「やったねルカ」「これで見分けてくれる人が一人増えた!」「僕たち姿形が全く同じなんだもんな」

「この学校で他に見分けられる人ってどれくらい居るんだ?」

「ルナ誰だっけ?」「校長先生にー」「ケリーさんだろ」「ボブにマックス」「ジョージにキャサリンもだ」「それと淋漓も」


思わぬ人物が出てきてニックは顔を上げる。


「淋漓が?」

「ああ、淋漓も」「俺達を見分ける事が出来る」

「そうなのか」

「最初は全然わかんなかったけど」「でも喋ってる内に分かってきたって」「もう今では雰囲気で見分けられる」「って言われて僕たち正直びっくり」


楽しそうに当時の淋漓と自分たちの会話を表現するルカとルナが騒いでいると、隣でのびていたキリルがのっそりと起きだした。


「ん?あれ?ニック、ジャンナは?」

「まだ帰ってきてない」

「何だと!!」


キリルが周りを見渡しジャンナが居ないことを確認すると、血走った目を双子に向ける。

それに気がついた双子がピンと何かに弾かれた様に上を見た。


「おいお前たち!さっさとジャンナの居場所を教えろ!」


大声で叫ぶキリルを一瞥しニックはため息をつきながらふと双子を見る。

二人してキリルをシカトし、じぃっと宙を見つめている。


何があるのだろうと双子の視線を辿るニック。


「あ・・・・・」


そこでニックは思い出した。

こいつらの得意科目は確か・・・・・。


「お前達いい加減に・・・」

「まてキリル。ルカとルナは・・・」


グイン――――――――――・・・・


「わーーー!!」

「きゃーー!!」


キリルとニックの声を遮り、空から淋漓達が降ってきた。





ワープリングって、色々な場所や時代に行ったりする事が出来るの。

物によってはとっても高性能だけど、私が持ってたのは場所(・・)だけしか行き来できないの。

中には時代を越え、何世紀も前に(さかのぼ)ったりする事だって出来るわ。



何やらジャンナの解説が聞こえたと思ったら、


「わーーー!!」

「きゃーー!!」


ドタッと落ちた。


「うぇ!!」


目を開くとピントが合っておらずボヤボヤしていたが、暫くするとここは談話室だと分かった。


上を向くと、天井にあったワープリングがジャンナの手に戻る頃だった。


「天井から落ちてきたの?」


本当に談話室に戻ってきた。

そう思いながら、高い天井を見上げる。


高い所から落ちてきたのに、この微妙な鈍痛はなんだろう?


痛くはないが痛い。

不思議に思っていると、私が座ってる地面が揺らいだ。


「わっ!」


その次に不機嫌そうなニックの声が聞こえた。


「いきなり上から降ってくるな」

「ありゃま、これはこれは・・・・・こんばんは」

「ふざけるな。どこ行ってたんだ」


どうやら私は、ニックの上に落ちてそのまま踏み潰していたらしい。

立ち上がりながら周りを見回すと、何だがおかしな事になっていた。


私はニックの上に落ち、ジャンナはキリルの上に落ち今も目の前でイチャしてるし、その奥では何故かラロが双子と悪戯の話で盛り上がっている。


「帰ってこれた・・・」


さっきまで緊張で強ばっていた身体も、落ち着きを取り戻す。


「そうか、ルカとルナは予言術がずば抜けて得意だったな」

「ああ、つまり・・・、そういう事だ」


ニックとキリルが私達を見て何やら話している。

コクっと首を傾げたが、何もわからなかった。


時計を見ると針は夜の九時を回っていた。

もう部屋に戻ってさっさと寝よう。

今日は疲れたし、お墓の事は明日また皆で考えよう。


そう思い私は重い体を動かす。

が、しかし。


「で?」


ニックの顔が私を見下していた。


「・・・え」

「何処に行ってたんだ?」


何だろうこの有無を言わせぬ酷い圧迫感は。


「え、えっと。ちょっと」

「ちょっと何だ」

「お墓参りに」

「・・・は?」


呆気に取られているニックのスキを見て私はひゅっとその場から逃げ出した。


「あ!こら待て!」

「いやーもう眠たいんです!」


女子寮へ繋がるドアを開け逃げようとする私をニックが捕まえるが、その時。


「ねぇ君」


低い声が聞こえ、ピタッと私たちは動きを止めた。

ジャキ、と金属が擦れる音がする。


珍しく固まって動かないニックに違和感を覚えひょっこり覗くと、彼の後ろに濃紺に近い色の髪が見えた。

その前髪の間から鋭く突き刺す様な瞳がニックを捕らえている。凄い殺意だ。


誰だろう?

首にぶら下げてる赤いペンダントからアレクサンダークラスの人だってことがわかる。


「女子寮に押し入ろうなんて、君、殺されたいの?」

「ニック、この人誰ですか?」


私がニックの後ろからひょっこり顔を出し小声で聞くと、ニックの前にいる人が私に顔を向けた。


「君、一年生?」

「は、はい」

「淋漓、こちらはアレクサンダー寮の寮長だよ」


寮長?

そんなの居たのか。


「は、初めまして」


私が軽くお辞儀をすると、その人はいかにもつまらなそうに背を向けて行ってしまった。


「感じ悪」

「しっ!あの人は鬼の寮長って呼ばれてるんだ」

「鬼の寮長?」

「逆らうとろくなことがないからなるべく逆らうなよ」


ニックが疲れたように言って、欠伸を一つした。

それが私にも移り私も大きな欠伸をした。


「ふぁああぁ、にゃむにゃむ・・・・」


眠くて視界が霞む。

隣のニックがクスっと笑ったのが聞こえた。


「まぁいいや。怪我とかはないな?」

「怪我?なんのですか?」

「いや、もういい。引き止めて悪かった。おやすみ」


そう言ったニックはドアを離し行ってしまった。


私は一刻も早くベッドに入るべく階段をのそのそと登った。





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