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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第二章:日常編
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第十四話:地下のお墓


階段を全部降りると、そこから狭い一本道に通じた。

硬い岩石で出来た洞窟の様で、手で触れるとゴツゴツとした感触と冷たさが伝わってきる。


「暗くて寒いわ・・・・・」


ジャンナの口から呟きと共に白い息が出た。

ぴちゃん、ぴちゃんと水の滴る音が洞窟内に響き、更に冷たく感じる。


「パンドラ怪談の一つ。地下に住む亡霊」


三人でゆっくり道を進んでいたら、一番後ろを歩くラロが誰にともなく言った。

パンドラ怪談。

確か魔法理論の初授業で、先生に喧嘩を売られオチを聞けなかったやつだ。


「パンドラ階段は七つあるんだ。その中の一つなんだけど」


ラロの声は大きな声じゃないのに、洞窟内では大きく響く。


「ラロってそう言うのやけに詳しいけど何で?」

「へ?いや両親の母校だしさ。そういう話沢山聞くし」

「え?じ、じゃあ親も魔法使い!?」

「うん」


なんだか奥が深いな魔法界。


「この学校の同級生だったんだ。それで結婚したの」

「それで?その亡霊は何処に居るの?」


ジャンナが話をすり替える。

他人の家族などどうだっていいという風だ。


「うん、その亡霊、実は一人だけじゃないらしいんだ」

「いっぱいいるのかしら?」

「あぁ、父さんの話だと五人」

「五人も居るの!?」


一体ジャックは私に何をさせたいんだろう?

全く意図がわからん。


暗闇の道をゆっくり進んでいく。

杖先の灯りはずっと同じ岩を照らしていく。

しかし、急に視界が広がった。そこに広がっていたのは広い円形状の穴だった。


「淋漓?」


いきなり立ち止まった私の後ろからジャンナとラロが顔を覗かせる。


「何かある・・・・・」


ぽつんと真ん中に何かが立っている。

光を当ててないのに、何故かそこだけ青白く浮かび上がっていた。


一歩一歩ゆっくり進むと、見えてきたのは地面から出ている十字架。

その下の石盤には何か彫ってある。


これってまさか・・・


「墓だな」

「あっさり言うな」


冷静なラロの呟きに、場の緊張感が一気に失せた。


「誰のお墓かしら」


よく見ると十字架の中心に、アレクサンダークラスのペンダントが掛かっている。

埃が被っているが若干赤いのが見える。

私達のと全く一緒だ。


ジャンナが名前が掘ってある墓石を見るが、埃がもっさりかかっていて何て書いてあるのかさっぱりだ。

石も大分古く苔も生えている。


「相当古いなー。ホコリが積もってる」

「そうね。手入れも全然されていないし。普通に考えてアレクサンダークラスの生徒のお墓かしら?」


手で十字架をさっとなでると、もわーっと埃が舞い視界が霞む。

ジャンナと私で墓全体の埃を払っていると、ラロが後ろで分析を始めた。


「でもこんな地下に墓を立てるということは・・・学校にとって、とても重要な存在か、それとも・・・」


だんだん楽しくなってきたのか、ホラー調に変わっていくラロの口調に一抹の不安を感じつつ私はラロの方を見る。


「・・・・・それとも?」


案の定ニカリと楽しそうな顔を浮かべ、杖の光を自分の顔に当てる。

不気味だ。


「学校にとって、こんな地下に閉じ込めて置かないとヤバい存在、それつまり罪人」


洞窟の所為かよく通るラロの声音に背筋が凍った。


「それは違うわ。もし閉じ込めて置かないといけないとしても、どうして淋漓の夢に出てきて、しかもここまで来れる暗号を教えてくれたの?」


埃を吸わぬ様鼻を摘んでるから、声が可笑しい。


「そりゃ、決まってるだろ。淋漓を利用して、墓から解放される為さ」


冷たいラロの声に、洞窟の冷気も借りて背中にゾクリと寒気が走った。


「それだとしても、学校側がそんな危険人物こんな所に埋葬するはずないわよ」

「まぁ確かに、淋漓がマントルピースに入るときも、『我が友』つったしな。悪い意味合いは無いと思う」


杖の光をまだ顔に当てたまま私を見る。

不気味だ。


「けど、用心するに越したこたぁない。淋漓、この墓に心当たりとかないんだろ?」

「うん、無い」

「じゃぁこれは一体誰の墓なんだろうな」


眠そうに大あくびしたラロが、石盤を覗き込む。

埃が取り払われた石盤には、もう随分昔に書かれたであろう文字が羅列していた。


「何々、本当に古いなコレ。文字が消えかかってる。えーっと、『永遠に眠りしジャック・アレクサンダー』・・・って、」

「え?」

「ジャ、、ジャック?」

「ジャック・アレクサンダー!?嘘でしょ!?」


ジャンナがびっくりしてラロと一緒に文字を追う。

そこには確かにジャック・アレクサンダーと掘られている。


「ジャックって私の夢に出てきた人と同じ名前」

「ジャック・アレクサンダーっていったら、アレクサンダークラスの創設者で、パンドラ魔法学校の一代目校長よ!」

「はい!?」


なんじゃそりゃ!?

わたしゃ知らんぞ!!


「こりゃえらい墓を見つけちまったもんだ」

「まって、それってつまり私の夢に出てきたジャックって・・・?」

「間違えないわね。ジャックアレクサンダーよ!」


頭が痛くなってきた。


「淋漓お前今まで気がつかなかったのか?」


ラロが呆れを含んだ声で問うてくる。


「すみません」

「はっははは!淋漓案外鈍いんだな!寮の入口にジャック・アレクサンダーの像が立ってるのに!」


私は最初にこの学校に来たとき、ニックに学校内を案内された事を思い出す。

あの時ニックが紹介してくれたアレクサンダーの創設者の像。

夢に出てくるジャックは像のジャックよりも随分若いが、言われてみれば顔の輪郭や目鼻立ちがそっくりだ。


そうかだからあの時、どこか懐かしい気持ちになったのか。


「なんてことだ・・・」


知識豊富なジャンナとラロに比べ、私ったら何をしてるんだか・・・・。

頭を抱えながら呟く。


「でも何でそんな人が私の夢に出てきたんだろ」


ジャックの墓を前に、彼が私に何をさせたいのかを考えるが、どうにも巧く頭が回らない。


「待てよ、淋漓はジャックになんて言うよう言われたんだっけ?」

「アレクサンダー寮マントルピースよ、我が友への道を開きたまえ、って」

「我が友って事は、ジャックは自分の墓じゃなくて、自分の友人の墓に行けって事じゃないかな?」


ラロの普段と違う頭の回転の速さに関心しながら頷く。


「ここは多分方角からしてアレクサンダー寮の真下だ。おそらく他の寮の真下にも地下があってそれぞれの創設者が眠ってると見た」


青白い光に照らされたラロが自信満々に言った。

十字架を見ると、アレクサンダーのペンダントが輝いている。


「その可能性は高いわね。そこでさっきラロの言っていた五人の亡霊よ。本来、クラスは四つ。それなら地下に出る亡霊は四人の筈」


ジャンナの青い瞳が光る。

私はジャックの墓に触れ顔を上げる。


「そっか、五人目!」

「それが本命かもな」

「でも五人目って誰かしら?」


五人目の亡霊が、ジャックの言っている『我が友』なの?


「それを今から探しに行くんだよ。どこかに、他の墓と繋がる道が有るといいんだけど・・・」

「しっ!!何か近づいて来るわ!」


ジャンナの緊迫した声に、身体に緊張が走る。

私達が通ってきた狭い通路から、小さな足音が聞こえてくる。

通路の奥は真っ暗で何も見えない。


「おかしいな。確かにマントルピースは閉じたはず・・・」


私達が通って来た道は一本道。

誰も入って来られる状態じゃないはずなのに。


「ヤバいな、ここには隠れる場所が無いぞ!」

「と、とりあえず杖を構えて・・・」


やっぱりニックとシスコン、連れてくるんだった!


今さらだが、我がアレクサンダークラス三年の主席はニックらしい。そして次席がキリル。

今こんな事を思い出したってあとの祭りだ。

ふざけた話に私は後悔した。

ニックはともかく、あのシスコンまで成績上位とは、私は光り輝く神になれるかもしれない。


足音はどんどん近く大きくなってくる。

気配で分かるその不気味さに、思わず戦慄が走る。


「仕方無いわ!ここは」


小声でジャンナが私達を連れて十字架の裏側に息を潜める。


コツコツ、とゆっくりだが、着実に近づいてくる足音。


「いい?これはワープリング」


ジャンナが自分の薬指から抜いたシルバーの指輪を私達に見せる。


「兄さんから貰ったの。これを使えば談話室に戻れるわ」

「よし!」

「でかしたジャンナ!」

「さ、早く輪になって、手を繋ぐのよ」


足音がさっきよりも大きくなっている。

もうすぐ近くだ。


「手は絶対話しちゃ駄目よ!」


チャリン、とジャンナがリングを親指で弾く。


「アレクサンダー寮談話室へ!」


ジャンナの叫びにリングが大きく光り、私達は手を固く結んだ。








しん、と静まり返る墓場。


そこには誰も居なく、時が止まっている様。


青白い光だけが儚くジャックの墓を照らしていた。




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