表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第二章:日常編
12/29

第十一話:他人に迷惑をかける魔法禁止




夕食後。


アレクサンダー寮の一階、談話室で私は水晶玉とにらめっこをしていた。

ジャンナとラロは今日が提出期限の、薬草術のレポートを提出しに行った。


「んー?この水晶どういう仕組みなんだ?何で映像が映るんだろう?」


ここが魔法の世界って事も、水晶に映る映像も魔法の力、って分かっている。

これでも随分魔法に慣れた。


「でも性格柄考えちゃうんですよねー。」


元居た世界が科学に囲まれていた分、この世界の物は余計摩訶不思議に見えた。


どっからどうみても透明のガラス玉だ。

特別な光等が無いかぎり映像を作る事は難しいだろう。


今日の授業で映った森とライオン・・・・・・。


どういう仕組みだ?


私が水晶玉を持ち上げたり掌で転がしたりしていると、不意に水晶に人影が映った。


「あれ?」


よく注視するとその人物はニックだった。


相変わらず仏頂面で、ていうか何か太った?

いつもスラっとしているニックが、何だか横に広がっている。


「ぷっ、あはははは!」

「何一人で笑ってんだ」

「うわあぁぁぁああ!!!」


突然の本人と思わしき声が後ろから聞こえ、私は絶叫だけでは飽き足らず水晶を持っていた手を振り上げてしまった。


「あ!」


宙に弧を描いた重たい水晶は、落下速度を増し落ちていく。


割れる!


「止まれ(スターティル)!」


水晶の割れる音の代わりにニックの声が聞こえた。

最初に目に入ったのは、水晶に杖を向けてるニック、その先には地面すれすれで宙に浮く水晶だった。


「凄い・・・」


ニックはひょいと水晶を引き寄せテーブルの元の場所に置いた。

そして顔をしかめる。


「危ないだろ」

「む、急に後ろから声かけない下さいよ!」

「お前の後ろに立った俺の姿が、水晶の曲面で太って見えてただろ」


それを見て一人(・・)で笑ってたから、気付いてたと思ったんだがな。


上から目線でニックが言う。


「・・・・・・・」


そこで私は気が付いた。


・・・・・そうか、反射か。

確かにあの微妙に薄暗い教室と、天井に飾ってある奇妙な人形達。何かの具合で偶然・・・・って事にはならないかしら?

ならないな。


「どうした?」


急に黙りこくる私に、ニックが夕食後だと言うのにチョコを口に放り込みながら尋ねる。


私は今日占星術の授業で起こった事と、さっきまで私が考えてた事をニックに話した。


「魔法に理屈なんか無いんだよ」


非常に残念ながら、私の質問はその一言で終わった。


「そんなもんですか」

「そんなもんだ」


私だって科学だけを信用してる訳じゃない。

ここに来てから、魔法っていいなぁ、と思うようになったのは確かだ。


空も飛べるし、物が生きているかのように動くし、色々な事が自分の思い通りになる。


けれど時々不安になる。


どこから発生しているのか分からない魔法。

それを扱っている時の浮遊感が不安を生み、私の中でじわじわ広がり自分の立っている場所を見失う。


今日の占いだってそうだ。

何の根拠も確証も無い水晶占い。

当たる可能性が百パーセント有るわけでもないのに、こんなにゾワゾワするのは何故だろう。


黙りこくる私の目の前に、飴玉が乗っかった白い手のひらが現れた。

顔を上げるとニックが私を安心させるように笑った。


「大丈夫だ。この学校に居る間は、死ぬ様な危険はまず有り得ない。タヌキの結界はああ見えて相当強力だからな」


私は飴玉を手にとり、コクりと頷く。

すると談話室の外から騒々しい声が聞こえた。


「どうしてついてくるのよ」

「だから、行く場所が同じだったからつってんだろ!誰もお前の後を追っ掛けてた訳じゃ無い」

「少年!俺の妹に手を出してはならんぞ!」


どうやら薬草術の教室から戻ってきたジャンナとラロがまた他愛のない喧嘩をしているらしい。

何故かキリルも居る。


「は?妹?女なんて何処にいんですか」


ラロの心底不思議そうな顔を見たキリルがスっと手を上げた。

隣でニックがため息をついた。


「少年には死んでもらう」


キリルのどう聞いても冗談の様な声が聞こえた瞬間、コポっと音を発しながら私達を何かが包み込んだ。


「っ!?」


水だ。


しかも見渡すと水に囲まれてるのは私とラロだけ。

ジャンナとキリルとニックには何の変化もなかった。


「少年、あんまり調子に乗ると、どうなるか・・・・・」


キリルの不適な声が聞こえる。


いやいやいやいや、何で私まで巻き添え食らってんの!?

ありえん!いくら妹バカだからと言って、さすがにこれは死ぬ。

めっちゃ苦しいんだけど!

息が出来ないよー

苦しいっ苦しいっ!


「んんーーっ!!」


ブクブクと気泡が上に向かっていく。

その気泡を名残惜しそうに見つめていた私の腰が引っ張られ、水中から抜け出す事が出来た。


「はぁ、ゲホゲホッ」

「大丈夫か」

「結城ちゃん、ごめん!」


ラロから目を離さずにキリルが謝ってくる。


「この恨みはいつかきっと」

「・・・・・・・・」


背中を(さす)ってくれるニックの大きな手に大分落ち着いた私はラロの方に顔を上げた。


空中に浮く丸い水玉。

その中にふよふよと、ラロが浮いている。

何だか・・・・・


「北海道土産のマリモみたいだ」

「あれはキリルの自然魔法だ。あいつは水を自由に操れる」

「わぁーーー!!」


ニックがわしゃわしゃとタオルで頭を拭いてくれた。

制服はもちろん、身体中がびしょびしょなのに何故か寒く無い。逆に暑いくらいだ。

ニックの魔法だろうか?


「兄さんもういいわよ。死んじゃうわ!」

「んーそっかぁ、ジャンナの頼みだったら兄さん何でも聞いちゃうぞー!」


シスコンのシスコン具合にいい加減飽きがきた。

シスコンが魔法を解こうとした時、ラロの入っている水玉がシューっと音を立て煙を上げた。


「?!」

「・・・水が、蒸発した。なんで?」


私はニックの顔を見る。

あっという間にラロの周りの水が蒸発し、水が一滴も付けていない体が地面に着地した。

ラロはニヤリと笑った。


「・・・・へぇ、中々やるじゃないか。発火魔法か」


ニックの言葉に、私はキョトン、ジャンナもキョトン、シスコンはポカン。


「はっかまほう?」


ニックの代わりにラロが口を開いた。


「本来火は水に適わない。けど、火が駄目なら熱に変えればいい」


そうか、さっきまで異常に暑かったのはコイツのせいか。


少しクルクルした茶色い髪の間から、同色の瞳が覗く。

ニヤリと笑うラロ。

悔しそうに舌打ちするキリル。


「俺はスペイン生まれスペイン育ち。紅き闘牛士(マタドール)で有名な街で培われてきた炎だ。『熱』に関しては負けない」


そんな子供騙しの『水』にやられて堪るか。


仮にも先輩(・・)のキリルに向かってそう吐き捨てて、談話室から男子寮へ繋がる扉へ向かう。

私の横を通る時ニンマリ笑った。


「おやすみ」

「・・・おやすみ」


返事した時には既に扉の向こうに消えていた。


へくしっとくしゃみが出た。

ラロが居なくなってから急に部屋が冷え込んだ。


「早く部屋に言って着替えろ」


壁に掛かっている時計を見るともう九時を回っていた。


「げっ、もうこんな時間!?ジャンナ、もう部屋行こうよ。」

「えぇ、私も眠いわ。兄さん元気出してね!」

「あぁ可愛いジャンナ、おいそこの少女!ジャンナを宜しく頼むぞ!ニック行くぞ」

「そうか忘れていた。俺はお前と相部屋か。最悪な気分だ」


キリルが足早に階段を登る。その後をニックがついていくが、振り返り一言。


「風邪ひくなよ。おやすみ」


ニックの言葉に、今自分の体温を改めて感じる。


背中に寒気が走り、


嫌な予感。


「へっくしょーーん!!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ