第十話:水晶に写る不吉な陰
少々薄暗い教室に、天井からぶら下がる幾つもの人形。
その人形は私と目が合うとニヤリと不気味に笑った。
「ひっ」
まん丸の顔に単純な目と口と鼻がくっつけてあるのだが、その内口だけが動くもんだから自然と背筋が凍る。
周りを見回してみると窓にかかる赤黒い幕が目につく。それは外からの光をきっちりと遮断している。
部屋の中の明かりは全てランプだった。
それぞれ天井から吊るされたお粗末なランプと、机に一つずつ置かれたランプ。
ランプの明かり自体は綺麗だし温かみもあるし悪くないのだが、何だろう・・・この何かが違う感じは・・・・
「綺麗なランプがこの部屋の装飾で台無しだわ」
原因はそれか。
となりのジャンナがげんなりと周りを見回した。
悪趣味極まりないこの部屋、実は占星術の教室。
この不気味な飾りや人形は、授業をする最も理想的な造りらしい。
今日の占星術の授業は、アレクサンダークラスとエッジワースクラスの合同。
それイコール男子が多い。
つまり・・・・・
「男子って本当に嫌だわ」
隣に座るジャンナが心底嫌そうな顔をする。
ジャンナは男子が嫌いなのだ。兄には普通に接しているが、同じクラスの男子とまともに口を聞いているのは、今ところラロだけだった。
と、言ってもラロとも暫くすると口喧嘩が始まる。その仲裁は私の役目だ。
「本当に男子ばっかりだね」
周りを見渡すと、緑と銀のシマシマネクタイを身に付けた男子が目に着く。
今のところ女の子はまだ見つかっていない。
「よっこいしょ!」
ラロが忙しなく教室に入ってきて、私たちの座る机にジジくさく座った。
教室の机はほとんどが三人がけなので、いつの間にかジャンナ、私、ラロの順で座るのが習慣になっていた。
「今日はエッジワースとか。皆しっかりしてそうだな」
「確かに」
あまり軟弱そうなのはいない。
「でも男子は嫌いよ。」
「そうかいそりゃ残念。」
シエスタシエスタ(昼寝)、そう言いながらラロは眠りについてしまった。
まただ。彼はいつも授業が始まる前に寝てしまう。
スペイン人(ラロはスペイン人らしい。ちなみにジャンナはロシア人。)の特色だから仕方が無いらしい。
なのに何故か授業内容を把握しているのだ。是非私にも教えて欲しいもんだ。
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『四人で一組になり、水晶玉を囲み未来を見つめる』
一見女とは思えないおぞましい占星術教師フラン先生が、両手を上に上げ気味悪い声で授業を始めた。
「さぁー!皆さん、四人にぃ、なるのぉですっ!!はぁ、未来を見るのでぇすっ!!!」
ジャラジャラジャラーーーー
フラン先生の腕には数え切れないほどの腕輪がはめられており、先生が何か動くと同時にジャラジャラと大きな音がする。
喋るのと同時に腕を激しく振るもんだから、元々のかすれ声が全然聞こえない。
「四人組みになれって」
「ラロ何で今の聞こえたの?」
隣のラロはそういうなりまた眠りについてしまった。
私達三人は、男子だらけエッジワースクラスの中から超レアな女子を見つけた。
赤髪のボサボサ頭に、鮮やかなオレンジ色の瞳。
その瞳は、クリっとしている、・・・・・筈なのだが何だか半分閉じられている。
所謂、ジト目ってやつだ。
「わたす、ジャンヌ・ギャロワと申しますだ。宜しくだ」
それに、ひどく訛りのある喋り方。
だが、ピンと張った胸と真っ直ぐな視線(ジト目だが)がとても頼もしく見える。
・・・・・いや見えないかも。
「私の名前とそっくりだわ。私ジャンナっていうの」
「たすかににてんねー。よろしく」
「よろしく。貴方凄く訛ってるけど、それ何とかならないの?」
「ジャンナさん、そりゃ無理があんべよ。」
所々濁点がついているジャンヌの訛りと、何のクセもないジャンナの会話が面白い。
隣で寝ているはずのラロも、時々笑いだす。不気味だ。
「まぁいいわ。さ、早く占いを始めましょ!」
四人(一人シエスタ中)で水晶玉を囲み、ジャンナが教科書通り手をかざす。
「汝の行く先、姿を映せ!」
凛とした声で呪文を発すると、水晶に映像が流れだした。
「これは?」
「どうゆーこったべなー?」
「大きな樹に大きなライオン?一体何を表すのかしら?」
私は手元にあった分厚い魔本を開き調べてみる。
水晶には、薄暗い森の中に一頭のライオンが映っていた。
一体これは何を表しているのか?パラパラと捲っていると、よく似た挿絵の載っているページにたどり着いた。
「これじゃない?」
「あんれぇー!挿絵で見っと、余計不気味んだな。」
「薄暗く陰湿な森は、何か良くない事が起こる前兆・・・怖いわね・・・・」
「特に大きな樹には要注意、大きな災いが起こる」
だがこのページにはライオンの事が載ってない。
一旦目次に戻り、動物欄を見るとそこにライオンはあった。
「ライオンは貴方にとって大きな味方、どんな災いにも大きな守護神となる」
「少しこれから注意して行動したほうがよさそうね」
「んだな」
ジャンナとジャンヌが話してる横で、私はもう一度水晶玉を見た。
けれどもうそこには何も映ってなかった。
何だろう、この胸騒ぎは・・・。
何かこれから良くない事が起こりそうで、私は水晶玉から目を逸らした。
不吉ですね。
これから色々勃発して行きます。あんな事や変な事、もぞもぞと創作していますので、これからも宜しくお願いします!