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パンドラ魔法学校と黄昏の賢者達  作者: 東奔西走
第二章:日常編
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第九話:夢と空中散歩


真っ暗な闇だった。


頭の中がぼやぼやしていて、なんだか視界が揺れる。

と言ってもただ真っ暗なんだけど。


多分ここは夢の中。


誰かの声が聞こえた。


「淋漓」


私の名前を呼んでいる。


誰・・・・・・?


若い男の人の声だ。

何処かで聴いた事あるような・・・・・。


「誰なの?」


けれど真っ暗な闇の中には私しかいない。


「淋漓・・・・・・」


「何?何処にいるの?」


「淋漓」「淋漓」


今度は違う声だ。

凛と鈴の様な綺麗な女の人の声と、優しく穏やかそうな男の人の声・・・・・・


全然憶えてない、けれど確かに知っているこの声は・・・・・・



間違いない。




「お母さんとお父さん?」


ねぇ出て来て、何処にいるの?


何処を見ても只の闇しかない。


言いようのない孤独感に、私はただ立ち尽くすしかなかった。






パンドラ魔法学校全敷地の端の端に広い草原が広がっている。



「そうだ!そのまま前だ!」

「無理無理ー!っひゃーー!」

「・・・・・・・・・」


ニックと並行していた淋漓が、情けない声をしながら落ちていった。


「ジャンナ、こうだ!どうだ、すごぉいだろ!!」

「凄いわ兄さん!!」

「あはは、ジャンナこっちだ!」


箒を巧みに使いこなし空中飛行を楽しむジャンナとキリル。


「ジャンナ凄いなー」


ふわふわの草原の上に仰向けになった私は、遥か上空を箒で飛ぶジャンナとキリルを仰ぎ見た。

入学して間もないのに既に箒の上で踊ったり回ったりしている。


入学式から何週間か過ぎたある昼下がり。

天気も良く、空気も新鮮、草木も緑一色で目の健康にもいい。

こんな日にはピクニック。

いや、中庭のベンチで日向ぼっこ読書もいいな。


ま、人生なんてそう簡単には行かない。


今私たちが何をしているかというと・・・・・・


じゃじゃーん!!!

ニック先生とキリル先生のー

レッツ!箒で空を飛ぼう!!

〜楽しく学ぶ飛行術〜


「いやおかしいでしょ。

全っ然楽しくないよコレ。」


のっそり起き上がる。

飛べない可哀想な私にニックとキリルが飛行術を教えてくれる事になった。

全く迷惑な話である。


「何やってるんだ。早く来い」


転がっている箒を軽く足で突いていると、空を飛んでいたニックが華麗に着地した。


ひらりと翻る黒いローブと、風で少し乱れる黒髪、それと対照的な白い肌。

日光の光も手伝って金色の瞳が宝石の様に輝く。

何だか全てが・・・・・・


「眩しっ!」

「何がだ。いいからさっさと飛ぶぞ」

「へーへー」


落ちても痛くないようにニックとキリルが地面に魔法をかけてくれた。

箒にまたがりその地面を軽く蹴る。

するとふわりと私の身体が持ち上がる。


だがこれが中々難しい。


「最初は体勢を低くするんだ」


ニックの姿を見よう見まねで真似するが、


「そんな事したら落ちるに決まってるでひょあーーー」

「・・・・・はぁ」


ファサ・・・・・・


落ちた原っばに寝そべり上空を見上げると、旋回する黒い(ニック)

空の明るさと正反対の黒。

闇の中に立ちすくす夢を思い出す。


「あの夢は何だったんだろう・・・」


私に話しかけたのは誰だろう、もしかしたらあの夢には・・・


「何か理由があるのかも。」


私が呟いたのと同時に、中々起き上がらない私を心配してか、ニックが降りてきた。


「・・・淋漓、どうした?」


降りてきたニックを無視し、私は目を閉じる。


目を閉じると聴覚から嗅覚、身体の神経が研ぎ澄まされる。


そよぐ風が気持ち良くてこのまま眠ってしまいそうになった。

そんな時・・・・・


「淋漓?なんだ寝たのか?」


やけにニックの声が近いのだ。

ゆっくり瞼を開くと、キスが出来そうな程ニックの顔が迫っていた。


「っわあぁぁぁああ!!!」


慌てて起き上がり立ち上がり箒を引っ掴みまたぎ地を蹴る。

すると、ぶわりと風が舞い上がり箒ごと私の身体を持ち上げ、空を舞った。


「・・・・・・飛べた・・・」


下ではニックが眩しそうに私を見上げている。

まぁ、少々やり方は違うが、飛べた事に違いない。


「わっ、ま、まだ心の準備がーーー!!」


ま、人生なんてそう簡単には行かない。


アレクサンダーAAと彫られた箒の柄がガタガタ震え、私は手を離してしまった。


「ひゃーーーーっ!!!」


強い風の抵抗を受けて私と箒は別々に落ちていく。

と、思っていた矢先、私の腰を誰かが支え、落ちていた筈の私の身体をあろうことか上へ持っていく。


「!!」


下を見ると箒はもう地面に落ちていた。


「飛べたな、ほんのちょっと」


すぐ後ろからニックの声が聞こえ、私を支えているのはニックだと気が付く。


腰を支え、右手を掴まれる。


「ちょっと!降ろして!」

「まぁまぁ、お前まだ箒に慣れてないらしいし、せっかくだから高い所には慣れていてもいいんじゃないか?」

「え?」


後ろから支えてくれているニックが横で言う。

そんなニックに私は一つの疑問が浮かんだ。


「ニ、ニック!!」

「・・・ん?」

「箒はっ!?」


なんと私たちは箒無しで浮いていた。


言いようの無い恐怖感。まるで嫌いなジェットコースターに乗っている気分だ。

いやジェットコースターよりも質が悪い。


ふるふると震えながら自然と縮こまる身体を、ニックが笑いながら支える。

腰から左手へと手を移動させ、


「大丈夫だ。これくらい、お前魔法の力を甘く見るなよ。足を伸ばすんだ」


そう言ったニックの顔が案外近くてドキリとする。

ヒューヒューと風の音が耳元で鳴るが、顔の熱さは冷めない。


「さ、行くぞ」

「え?」

「空中散歩だ、歩け」


歩けって、空気の上を?


そっと足を伸ばしぎこちないが歩いてみる。

ふわりと一歩一歩前に進む空中で、私は下を見て感嘆した。


「わぁっ、綺麗・・・・」


学校の遥か上空を飛ぶ。

広がる草原に、綺麗な森が遠くまで続いている。池に森と私たちの影が映る。


「凄い!ニック!綺麗!」


もう恐怖感は無くなっていた。

両手をニックに支えられ、二人で一緒に空中を歩いた。

まるで風になっている気分。


「慣れてきたな」

「うん。・・・素敵!」

「上手だ」


少し笑った顔がすぐ横にいる。

私はすぐまた赤くなった顔を逸らした。


束の間の空中散歩を風や鳥と一緒に翔け、一通り一周するとふわりと元の草原に無事着地した。


「どうだった?」

「凄かった!楽しかったよニック!」


興奮しきった私にニックは笑い、頭をポンポンとした。





「淋漓とニックラブラブだわー」

「んだなー。ちぇ、他の女の子には絶対あんな顔しないのになー」


木の枝で休憩していたジャンナとキリルは二人を見て退屈そうにしていた。


ま、人生なんてそう簡単には行かない。




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