資産家独居老人の道楽15
ワシはエルミン・キルヒアイスとザエモン辺境伯領軍の組織変革について話し合っていた。
まあ、ほとんどワシが話しているのをエルミンがうなずいて聞いているだけではあったが。
「お呼びですか?」
スパルタンがやって来た。その後で騎士団長のゴウンも現れた。
「2人とも良く来てくれたのう」
「お召しでございましたので」
騎士団長ゴウンは背も高くひと際異彩を放つ男であった。辺境伯領騎士団長では少しもったいない人物である。その用兵の技量も素晴らしいと聞いている。
「2人が来てくれたので本題に移ろうかのう。ワシは個の戦闘力ではスパルタンらが勝っていると思う。しかし組織戦となると騎士団が上じゃの。じゃからのう今から模擬戦をしたいのじゃがどうかの?」
「ご要望とあらば」
スパルタンはどちらかと言うと標準的な体格なのじゃが、身体から放たれている覇気は常人を捨てているのじゃ。
ワシらは場所を練武場のグラウンドに移して、ゴウン率いる騎士団50名、同じくスパルタン率いる50名が互いに距離を置き布陣している。
武器は木剣と盾である。
勝敗は寸止め方式で離脱した兵が先に20名出た方が負けとし、もう片方が勝ちとする。
「はじめ!!」
騎士団はゴウンの指揮の元で盾を並べて敵の攻撃を受ける構えを取った。
スパルタンは先頭を切って走り出し味方も追従してくる。自然と錐行の陣の形になり騎士団の盾に突っ込んで行った。
ドガーン!!
ふむ。すごい迫力じゃし、スパルタンの突破力は素晴らしいのう。
あっという間に騎士団10名がギブアップして戦線を離脱した。
ゴウンも負けてはいなかった盾を張り巡らせてスパルタンたちをいなすようにいなすように立ち回りながらスパルタンたちから離れた兵1人に対して4人で打ち掛かりギブアップさせる。
残存兵力は騎士団35名でスパルタン40名じゃ。
さてどうなることじゃろうなあ。
観ていて飽きることはないのう。
ワシは自分でも気が付かないうちにニヤリと笑っていることに気が付いた。
あ、ほら出たのじゃ!!ゲームチェンジャーの登場じゃ!
まあ、これはこれで楽しいから良いかのう。
「手出し無用!!」
騎士団長ゴウンとスパルタンの一騎打ちである。
明らかな体格差をスパルタンがどう守り攻めるのか?
互いに打ち掛かった!ゴウンのほうが木剣の振り出しが速い!スパルタンはゴウンの木剣をよけるとゴウンの木剣を自らの木剣で叩き落とした。その後の左ストレートが前かがみになったゴウンの右顎を打ち抜く!!
バチーン!!
何という身体能力じゃ!
ゴウンはふらつきながらも盾を捨ててボクシングスタイルに構えを変更した!
スパルタンも木剣2本を捨ててボクシングスタイルで向かい合う!!
「やっちまえーー!!」
もう一騎打ちからタイマンじゃのう。
これも楽しくて良い良い。
しかしこれが決着がつかんのじゃよ。
かれこれ小1時間は殴り合いしてるからか猫パンチまで出てきておる。いやあ若者はこうでなくてはのう。
ワシは立ち上がって猫パンチの応酬を続ける2人のところまで行った。
「そこまでじゃ!握手して2人とも寝ろ!」
2人は握手して抱き合って倒れた。
「皆!良く聞くのじゃ!今回の模擬戦は本来の集団での戦闘スタイルの違いを理解させるためのものじゃったが、とても良い交流戦になったのじゃ!今日は天気も良いので皆に肉と酒を振る舞うので大いに語り合うが良い!」
砂地にシートが何枚もひかれて、およそ2万人が思い思いのところに座る。
料理と酒が運ばれて来た時にやっとスパルタンとゴウンは目を覚まして頭を振っていたのじゃ。
「さて!諸君!主役の2人も目を覚ましたことだしのう。乾杯と行きたいところじゃが、良いか騎士団はスパルタン達に組織戦闘を訓練するのじゃ!スパルタン達は騎士団に個人戦闘の基礎から教えるのじゃ!よいな!では!今日という良き日に乾杯じゃ!!」
「乾杯!!」
圧巻の大宴会の始まりじゃ!エルミンもグイッとワインを飲んでいる。
「のう?スパルタン、ゴウンどうじゃったかの?」
「いや、久しぶりに楽しかったです。はい」
スパルタンは意外と顔が腫れてない。
「スパルタンが真剣であれば負けていたでしょう」
ゴウンは恥ずかしそうに酒を飲んでいる。
「上手くやっていけそうかの?」
スパルタンは酒を置いてこう言った。
「ゴウン殿の腹の底はもうわかりました。信頼できる男です。これからは兄弟と呼ばせてもらいます」
「そこまで言ってくれるのか…。スパルタン殿!で私は弟にしてください!」
「ゴウン殿兄弟は兄弟なんだ。兄も弟もないんだよ」
ほう、これは別の意味で収穫があったのう。組織と組織を合併するときは合併症が起きるのじゃが、余計な心配じゃったようじゃのう。
ワシは久しぶりに酒を飲みながらひと通り全員のところを回った。それだけで2時間かかったのじゃ。2万は恐ろしいのう。
元の席に戻るとエルミンが真っ赤な顔をしていた。酔っておるのう。良いことじゃ。
「ザエモン辺境伯?村の自警団は強化しないのですか?ヒック!」
「忘れておったわ!でかしたぞエルミン!」
そう一言残してエルミンはスヤスヤと寝始めたのじゃった。
自警団の強化は目下の課題であるな。
すると館を警備していたものが、ふらふらの男を連れてやって来たのじゃった。
「辺境伯!ただいま早馬でこの男が報告に来ました。魔国より防壁に救援の使者あり。魔国にて黒龍ナーガが災害級の暴れ方をしているようです。いかがなさいますか?」
あの馬鹿黒龍め、何をやらかしておるんじゃ!!
「伝令御苦労であった。その者にはここの肉と酒を与えて休ませてやるのじゃ。ところでゴウンよ魔国の防壁は、あっちの方角であっておるかのう?」
「そうですね、方角はあちらですが早馬でも1週間はかかりますぞ」
そんなに時間が過ぎておるのか!?
これは急がんといかんのう。
ワシは身支度を確認したのじゃ。黒剣ある。義手もある。
トイレはどこかで済ませればよかろう。
「でわ、皆の衆楽しむのじゃぞ!」
ワシはシュワッチと言い残して空へと舞い上がった。




