金平糖の姫と明るい聖女
『ルナ・ソーレ・エターナル』
それはこの世界の始まり?
それとも終わり?
それは誰も知らない
秘密の合言葉
絶対に口にしてはいけないよ
世界が壊れてしまうから————————
その日、ふたつの国の歯車が、目に見えない糸に引かれるようにして噛み合った。
ルナマリア国、第九王女。フィア・ルナマリアは、薄暗い自室の鏡の前で、冷たいハサミの音を聞いていた。
「――よし、今日もきれいに揃いましたよ、フィア様」
そう言ってハサミを置いたのは、専属の優秀なお忍びである二十四歳の女性『ミレア』であった。
「ありがとう、ミレア」
フィアは短く答えた。
毎日、きれいに十センチメートル。
フィアの髪は、まるで呪いのように夜の間に伸びる特性があった。
世間は、彼女を「月の魔法」を操る物静かで控えめな姫と呼ぶ。
(なぜお父様とお母様は、毎日私の髪を切らせるのだろう……)
切られた髪を見つめながら、フィアは胸に小さな違和感を抱えていた。
この白銀の髪が伸びるたび、自分の中に眠る「何か」が目覚めようとしている気がしてならなかった。
この切られた髪は、床に落ちた瞬間に淡い光を放ち、色とりどりの『金平糖』へと姿を変える。
その金平糖は、甘くて美味しく、食べれば魔力を回復することができる不思議な性質を持っていた。
侍女がこれを見つければ宝石のようで美しく可愛らしいと勝手に食べてあまりのおいしさに夢中になり、仕事がおろそかになるので、フィアの髪を切る役目は、秘密を厳守でき、食べても冷静に仕事ができるミレアの絶対の役目であった。
床に散らばった金平糖を一つ拾い上げ、ミレアは自身の口に放り込んだ。
「……うん。今日も極上の甘さですね、フィア様」
「もう、ミレア。私の髪からできたお菓子を、そんなに美味しそうに食べないで」
「魔力回復の効果もありますが、何より美味しいですから。フィア様の心が穏やかな証拠ですよ。ずっとこの甘さが続くと良いのですが」
ミレアはふっと微笑み、残りの金平糖を素早く回収して懐に収めた。
***
一方、その頃。
フェリーチェ国、第三王女。
天真爛漫な「聖女」、エリア・フェリーチェ。
彼女は、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながら、城下町の人々に囲まれていた。
「エリア様! 今日も癒やしの魔法をありがとうございます!」
「ううん、みんなが元気になってくれるのが、私の一番の幸せだよ!」
向日葵のような笑顔を咲かせ、人々の傷を「光魔法」や「治癒魔法」で癒していく。
周囲の領民たちからは、「いつも本当に助かっているよ」「エリア様と遊べて楽しかった!」と、口々に感謝や親しみの声が上がっていた。
エリアはその一つ一つに、優しい言葉と笑顔で返していく。
天真爛漫で誰からも好かれる彼女は、聖女としても人としても、眩しいほどに立派であった。
「ミモザ~!おいていっちゃうよ~!」
「お待ちくださいエリア様ぁ~...........うわっ⁈」
パリン、と軽い陶器の割れる音が響いた。
「あ、やらかしちゃったね、ミモザ。」
エリアの侍女、ミモザの運んでいたお皿が一枚割れてしまった。
「も、申し訳ありません、エリア様! すぐにお片付けいたします!」
「うーん……さて、どんな処罰を下そうか~……なんてね。嘘だよ。今回は私の不注意で走らせちゃったようなものだし、気にしないで。」
「はい……! 左様でございますか。寛大なご処置、感謝いたします」
「ですがエリア様、もしこれをお父上様が知られたら、『お城の廊下を走るなど王女としていかがなものか』と、私よりもエリア様が厳しく怒られてしまいますよ?」
「う、ミモザ……それは卑怯だってばー」
そう言い、二人は顔を見合わせて楽しげに笑い合った。
……結局二人とも怒られた。
異なる国に生まれ、普段はまったく関わりのなかったフィアとエリア。
だが、過酷な運命は唐突に、二人を同じ暗雲の渦中へと巻き込んでいった。




