職業【選ばれし者】不安を打破する
トトは走っていた。
エレンとコロンがやられたのを確認して汗を拭う。
第二階層へと上がり森の中へと隠れる。こうすればもしカリナ達が追いかけていても見つけるのは困難なはずだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
トトはガチャをひたすら回す。彼女は不安を紛らわすためにガチャを行うのだ。
ガチャを回していると、体力が回復していく。これを戦闘中に引いていればと、後悔の念が強くなる。
二人は自分の為に必死に戦ってくれているのに、自分はのうのうと逃げ隠れている。
自責で心が挫けそうだ。少女が木陰に座り込み、ガチャで当たって空から落ちてくる短剣を掴もうとした時。
「もしかして、トトさん……?」
「へ……?」
見上げると、短剣を握ってこちらを見る一人のプレイヤー。
血の気が引く。まずい、逃げなければ。
頭が真っ白になり手足をバタつかせると、プレイヤーがそれを止める。
「ちょ、ちょっと待って! 私は襲わないよ!!」
「で、でもっ」
「私のこと知らない? レッカだよ、錬金術師の!」
「錬金術師の……」
トトは振り向きその姿を凝視した。
赤い短髪に橙の軽装、辺りを飛び回る三匹の鳥をみて、少女は確信した。
それは動画の中で、いつも楽しそうにこのゲームのプレイ動画を上げている青年だ。
胸の奥で、何かが弾けた。トトはレッカに抱きついていた。
「ごめんなさい。わ、わたしっ……」
「大丈夫だよ、守ってあげるから」
トトが息を乱しているのを胸に、彼女は頭を撫でた。
息を整えて木陰で二人して座ると、トトがこれまでのことを話しだした。
レッカは必死に話す少女の話に耳を傾けていた。
「だから、私逃げてきて……」
「なるほどね! もう大丈夫だよ、二人は私の仲間だから! 次会うことがあれば、私が仲裁してあげる」
「っ! あ、ありがとう……ございます」
「だから一旦は私とトトでチームになろ。エレンとコロンに会うまでの布石ってことで!」
レッカは立ち上がって手を差し伸べると、トトはおもむろにその手を取る。
少女はレッカを初めてこの目で見て、気付いたことがある。
(レッカさん、ボロボロだ。だけど、どうしてこんなに笑顔なの)
レッカの服装は乱れており、肌には傷が浮き出ていた。
それに武器である棒を手放さない。
「レッカさん……?」
「んー? どうしたの?」
「レッカさんは、どうしてこのイベントに参加したんですか?」
トトは心の内に抱いた疑問をそのまま言葉にした。
今回のイベントは上位者が武器やスキルを貰えるというもの。正直生産職には参加するメリットがない。
特にトトのような戦うことが苦手なプレイヤー達は不利である。そんな中武器を握って戦うレッカの存在に少女は憧れを抱いていた。
レッカは空を見つめる。
「そうだねー、仲間が皆参加する気満々なんだよね」
「でもそれって、レッカさんは参加しなくてもいいんじゃ……」
「私は私の出来ることを探したくてね、チャレンジだよ」
「……」
トトは懐かしんでいた。
それは三人でこのイベントの準備をしていたことである。
「平気だ! 私たちがトトを守る、すでに神は我々を味方している!」
「えっと……?」
「僕達が無事にイベントの上位に入れるってことだよ。ハズレ職業ばっかの『エレメント』が有名になれば面白いだろ?」
「そのとおりよコロン! 『魔法使い』『冒険者』『選ばれし者』というハズレ職業の三人が、この世界の頂点に君臨すれば、世界は平等になる!」
エレメントの三人は皆、このゲームではありきたりな職業に選ばれていた。
カリナのように趣味が多すぎて定まらないわけではなく、膨大な可能性が秘められているプレイヤーがこれらに該当する。
それに気付けない多くのプレイヤーはそれを『ハズレ』と断定してゲームを辞めていった。その現状が許せないのが二人だ。
そして二人は職業を進化させた。
エレンは『魔道士』に、コロンは『遊撃手』としてトトをサポートした。
だが、肝心のトトは職業を進化することができていない。
「大丈夫だ、僕が君の武器でどんどん強くなってやる」
「そうよ! 私が貴方のアイテムを掛け合わせて、新たな魔法を作ってあげるわ」
そう言ってトトを励ます二人だが、少女は諦めかけていた。
トトが諦めないのは、それをすると二人に悪いからである。
いくらガチャを回そうとも、少女は報われない。己の職業への限界を感じていた。
『選ばれし者』の欠点が露呈し始めて、このゲームでの役割が失われていた時、トトはレッカの動画を見つけた。
「……楽しそう」
作成者という職業はアイテムを購入することができない。
そのデメリットを帳消しにして、生産職の頂点にまで上り詰めるレッカは、たった一人で新たな武器を生み出す。
トトは羨ましいのだ。エレンが武器とアイテムを掛け合わせて、コロンがそれを使用し、『エレメント』は成長した。
三人が一人に負けるなんて、トトは許せなかった。
それは、今日まで感じていた意地である。
「トト! チーム名決めよ!」
「チーム名?」
「そうそう! 例えば、レッカとトトで『レットト』とか、どう!?」
憧れを目の前に、トトはガチャ画面を閉じた。
彼女の強みは己を超える原動力にあるのだと。
トトは自分にも出来ることを探し出す。
少女は拳を握る。レッカの熱い闘気に、トトも心を燃やした。




