第四階層ボス【多貌翼禍鳥】蹂躙
アントはショットガンを持って走り出す。
ここからは作戦外だ。カリナは遊撃に長けている自信はある。
「錯乱ホーネット、炎禽スパロー召喚、攻撃を受けてあげて!」
それぞれ五対ずつ召喚する。大雑把な命令では思うような操作はできないが仕方ない。
ダガーを操作してアントへ向かう魔法を相殺する。
アント自身も巨狼を使って魔法を相殺している。それなのに魔法の数はどんどんと増えていく。
「【始原同一化:炎禽スパロー】」
灼熱の翼を纏ったカリナは、炎に包まれた羽根を飛ばす。
羽根は指で花弁を摘んでいるような操作感で、翼を動かすよりも直感的で分かりやすい。
それでもカリナは悲鳴を上げていた。モンスター計十対、ダガー十本、羽根数十枚を操作するのは彼女にとっても厳しい。
それにアントは怪鳥に向かって走っていっているが、『大火魔球』の威力は爆発を生み、怪鳥に思うように近づけない。
「【大水魔打】!」
アントの銃口から高威力の魔法が放たれる。最下位魔法の【水打】とは違って魔弾が水属性になったような見た目だ。
怪鳥は苦痛を訴えるように甲高い声を出す。六つの目が全てアントの方を向く。
「ア、アント! 逃げて!!」
怪鳥の体が勢いをつけてアントのいる方へと向かっていく。
その途端、煙幕が彼を覆う。先程の戦いで見せた技だ。それを怪鳥は翼を荒々しくバタつかせると、煙幕を容易に晴らしてしまった。
彼は巨狼の腕を交差させて守りの姿勢に入るが、丸く太った怪鳥からすればあってないに等しかった。
まるで車が小石を吹き飛ばすように、アントの体が宙に浮く。
「アント!!!」
彼は銃を手放していた。巨狼もすでに姿を消していた。そこへ追い打ちを駆けるように斬撃が飛ばされる。
それはカリナの間合外であり、そこまで飛ばせるような魔法やモンスターはいなかった。
「あぁっ」
彼の体が光の粒子を発して消えていく。
負けたのだ、それを理解した頃にはすでに遅かった。
目の前に迫る火球にカリナは口を開けて見守ることしかできなかった。
「駄目だ……!」
カリナは自分の頬を叩くと、翼で自分の体を覆う。
その直後、カリナと火球の隙間へモンスターが割って入ってきた。
攻撃を受けろと命令したからだ、命を賭して主を守ろうとしたのだ。
それを見て、カリナは自分がしていたことを理解した。
「っ!」
どうして命あるモンスターを盾にしていたのだろうという、後悔の念が襲いかかってくる。
どうしてモンスターを使う物だと思っていたのだろう。
天はその声を聞き逃さなかった。
スキル取得
【魔覇転臨】
最悪のスキルを取得する。
スキル取得と共にあたりが薄暗くなる。
黒の粒子が集まると共に、形成されるのはモンスター。その数四十体。
彼女が召喚出来る全てのモンスターが現れる。
「ぁ……」
その全てが主の命を守るために現れたのだ。
【魔覇転臨】とは『固有級』のスキルであった。
スライムは主を守るように囲う。
飢餓イノシシと電痺スネークは主から斬撃を守るように飛び出し、淡光バンビは魔法を魔法で相殺する。
草食アゲハと錯乱ホーネットは体で火球を受け、粘糸スパイダーは糸を飛ばして攻撃する。
炎禽スパローは羽根を飛ばして怪鳥に攻撃する。
そのスキルは主の思考に作用されない。召喚出来るモンスターが全員召喚されて、ただ主を守り敵を排除するスキルであった。
だが彼らに出来ることは、主のために死ぬことだけだった。
行われるのは蹂躙。
「やめて……」
全てのモンスターは怪鳥の魔法の威力に耐えきれていなかった。
スライムは魔法の威力に耐えきれずに灰になる。
イノシシ、ヘビ、鹿は斬撃により胴体を二分される。
虫の群れは炎の火力に苛まれて、飛ぶことを許されずに力尽きる。
そして今、最後の鳥がカリナを庇って死んでいった。
「……」
カリナは、動かなかった。
それは【不落要塞】の効果を最大限引き上げていた。
そんな彼女を灼熱が包む。彼女もまた、光の粒子となって消えたのだった。




