職業【信仰者】推しとの初対面
「私、メドゥーサですので。お気をつけて」
サリアは小さく会釈した。
体が動かないが、指先や表情は動く。どうやら大した拘束効果はないようだ。
「レッカになにしたの? どうして飛べなくなったの?」
「カリナ、目を見ちゃ駄目だよ」
レッカのアドバイスに従い視線を逸らす。徐々に体が動くようになり、剣を構える。
「PvPはまだ実装されてない。僕からスキルは奪えないよ」
「いえ、そのようなことはしません。カリナ様は私の神でありますから、そのような愚かな行為は致しません」
「じゃあどうして!」
「すこし、ゴミが目に入りまして」
サリアはこちらへと歩み寄ってくる。
剣を構えて走り出そうとした刹那、レッカがそれを制した。
カリナの目の前に立ち、武器を取り出す。
「もしかして、その『ゴミ』って私のこと」
「間違ってませんでしたか? いや、私に気がついていない……?」
「いいや、気づいてるよ」
「なら良かった! ほら、これ以上カリナ様のお目汚しをしないように捌けてください」
「カリナは友達だよ」
「あら、私はそうでないと?」
レッカの表情が見えない。しかし指先が震えており、今にも倒れそうだ。
「ねぇレッカ。あの人のこと、知ってるの」
「……」
小さく頷くと、ゆっくりと歩を進めた。サリアの眼前に立つ。
サリアは口角を上げて話す。その声には粘り気があり、聞くものを毒で殺しそうだった。
「どうしました? ほら行きましょう。私たちにはすべき話があるはずです」
「もう、済んだんじゃ……」
「それを決めるのは、私ではありませんか?」
サリアは腕を伸ばしてレッカの腕を掴んだ。レッカは体を強張らせていた。
「ねぇ待って! どこに行くの!」
「カリナ様にはご関係のない話ですので」
「関係あるよ、レッカは僕の友達だから」
「ほう……」
「君は誰なの?」
髪で目を隠した彼女は頬を赤らめた。
レッカの腕を離して嬉々として話し出す。
「聞いてくださりありがとうございます!! 私の名はサリア、職業【信仰者】のメドゥーサです。目を合わせると私の意思とは関係なく動きを止めてしまうので注意してください。とは言ってもカリナ様はその心配がございませんでしたね! 素敵なお方で私はあなたに恋を、してしまいました……」
「は、はぁ……」
「私の動きを止めてしまう力は『強い意思』があればそれを払いのける事ができます。私は今まで何度もカリナ様をこの『目』で見てきましたが、あなたが動きを止めることはありませんでした。貴方様のそのプレイングは私の心を魅了する。あぁなんて素敵でしょうか。こうしてお話ができているこの時間こそが至福……」
再びレッカの腕を掴むと、首に腕を回した。
レッカの首が締め付けられる。
「そしてこれはレッカ。ご存知の通り【錬金術師】です。これは私の旧友でして、カリナ様のそばにいるべきではございません」
「やめて! そんな事思ってないよ」
「カリナ様の恩寵に私、心を揺らがされてしまいます……しかしこれはカリナ様にとって最悪の選択となるでしょう。やめておいたほうがよろしいかと」
サリアはレッカの首を持つと、自分と目をあわせた。体が硬直して、震えが止まった。
レッカから手を離すが、硬直は解除されない。
「レッカ、座標を教えて」
「無駄です。私と至近距離で目を合わせたので、声すら出せないでしょう」
「じゃあ僕が遠ざける!」
カリナは剣を振ってサリアに攻撃を仕掛けた。弓士相手には近距離戦闘は勝てると考えたのだ。
サリアの弓は木製で、金属の補強がされていた。その金属部分でカリナの剣を受けると、弓を捨てることなく立ち向かってくる。
目を見た瞬間、一瞬動きが鈍ってしまう。しかし攻撃を仕掛けては来ないため、剣で弓を誘導し空いた胴体に左手で触れに行く。
「あ、あれ!?」
カリナの【常在異常】は触れた相手に全ての状態異常を付与することが出来る。
しかしサリアは当然のように動いていた。
「私はカリナ様を熟知していますので、想定通りです。それよりも、今はお手に触れられたことが嬉しくて……」
薄気味悪い笑みを浮かべて、彼女は笑っていた。しかし、レッカに近づけた。
レッカに触れた瞬間、あっけなく硬直が解除される。
「レッカ、駄目だ。逃げよう」
「わ、私……」
「レッカ!?」
レッカは遠い目をしており、カリナの声が届いてなさそうだった。
【念動】でレッカを持つと、その場から離れる。
「どうして逃げるんですか」
「レッカ! 大丈夫!?」
「友情は儚いものですね……」
サリアはカリナを追わなかった。
それでもレッカの中で、あの視線だけが消えなかった。




