職業【遊び人】空中で地上戦を行う
カリナは走っていた。
3日ほど短剣による空中歩行の練習を行っており、その成果は目に見えるほどのスピードで現れていた。
レッカはそれを支援するようにしていた。彼女から受け取った短刀は「トレーシングダガー」といって、同時に最大十個まで数を増やすダガーであった。
複製すると威力が分かれていき、十個まで分けるとそれぞれが十パーセントほどの力しか出ない。しかし攻撃が本質ではないのでそれで良かったのだ。
「カリナ、もう『念動』使ってないよね!?」
「走ってるときはね! 一度座標を覚えたら後は足していくだけだから」
直線に走る分には【念動】さえ必要ない。
ダガーの座標を覚えて、自分の歩幅が座標にしていくらなのかを計算。ダガーの座標に歩幅の座標を足せば【戦場掌握】でダガーを移動させて走ることができた。【念動】よりも早く移動が済むため便利だった。
カリナの素早さは1のため、飛翔スピードでは下の下だ。しかし、障害物を無視して走ることが可能のため、重宝している。それに、一番の効果は、飛翔族に近接バトルを仕掛けることが出来ることだ。
迅来グリフォン
HP 150/150 MP 100/100
頭と胴体は鷹で、後ろ足と尻尾が獅子のような見た目だ。鋭いくちばしに長い腕、空を掛ける太い足。
こちらに気がつくと速度を増して襲ってくる。
カリナは剣を斜めに構えると、攻撃を受け流す。体が大きく反れて、空中で縦に一回転する。【念動】でダガーを四つほど固定すると、足場を確認することなく着地した。
足場を形成してグリフォンに近づくと、剣を振るった。
カリナの剣は軸が安定している、足場が悪くとも些細な問題であった。
剣で相手をなぞるように切っていく。相手も切られて黙っていない。しかしグリフォンが攻撃を仕掛けようとしても、すでにカリナは距離を取っていた。
グリフォンは痺れる体を制してカリナに対峙する。しかし気づいたときにはもう遅い。一度でも切られれば五つの状態異常が体を襲う。
うなだれる体を持ちこたえようと必死に翼を振るが、【窮地適応】に合成された【異常適応】の効果は絶大だ。
カリナの剣がグリフォンの翼を切り離すと、グリフォンは抵抗虚しく力尽きるのだった。
「すごいすごい! カリナやっるー!」
「これで12体目?」
「いいや、13体目。いやー、レアドロップって言うだけあって、なかなかドロップしないね」
僕達は空中歩行の練習を兼ねて、グリフォンの討伐を行っていた。
グリフォンを討伐するだけで僕はスキルをゲットでき、レッカはアイテムを取得できる。まさに一石二鳥であった。
しかしグリフォンは珍しいモンスターであり、見つけても素早さで負け、逃げられることも多々あった。
そのためスキルもアイテムもまだゲットできていない。
一時休息だ。ダガーを腰の後ろに敷くと、そこに腰掛ける。空中でも座れるなんて便利なものだと、カリナは慢心していた。
「このまま行けば、また統御系スキルがゲットできそう」
「そうなればもうカリナはモンスターの王だね! 魔王じゃん」
「魔王はフラムに譲るよ。それに全員召喚しても、その数のモンスターをコントロールできるだけの技量がなきゃ宝の持ち腐れかな」
そういってカリナは指先から蜘蛛の糸を出す。
糸は重力に従って垂れていた。
「どういうこと? 十分にコントロールできてると思うけど」
「僕って感覚よりも理屈で考える性なんだよね。例えばこの糸なんかも、本来ならもっと有益に使えるはずなんだよ。相手を縛ったり、攻撃したり、移動に使ったりね。でも僕にはそれ分からない」
「確かに、翼も動かないもんね! 案外不器用なんだなぁ」
「だから努力は嫌いじゃないよ」
そうやってニヒルな笑みを浮かべるカリナに、レッカは不思議と惹かれていた。
しかし一時の休息は、唐突に終わる。
一本の矢が、レッカの羽根を貫いた。その瞬間、羽根は消えて彼女は落下する。
「待って、レッカ!?」
高度にして二十メートル付近から自由落下を始めた。彼女を守るすべはなく、手を伸ばそうにも届かない。
カリナはダガーをがむしゃらにおいてその上を駆けるが、どうしても間に合わない。
しかしまだカリナとレッカの距離は十メートルも離れていない。【戦場掌握】の領域内であれば自分のスキルは届く。
「スライム召喚! 【始原顕現】!!」
その瞬間、大スライムが召喚に応じた。第一階層のボスは、スライムの始原であった。
大スライムはレッカの下に回ると、緩衝材となる。
スライムは地面に着地すると、レッカを包むようにその身を賭して守った。
レッカの姿は消えていない。どうやら落下ダメージを軽減できたようだ。カリナは地面へと戻ると、レッカのそばへと寄る。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫だよ、カリナ……それより」
大スライムの陰にレッカを隠し、後ろへ振り返る。
そこには一人の弓士が立っていた。
彼女は白い布のチュニックに、簡素なベストを重ねていた。
弓を引く腕には鉄の腕当てが巻かれ、腰には布製の矢筒が揺れている。防具は心許ないが、動きやすさを重視した装いだった。
首元には六芒星を象った鉄のペンダントが下がっていた。
「なにが目的ですか」
「初めまして、カリナ様。私の名前はサリアと申します。覚えていただけると幸いです」
長い白髪の毛が生き物のように揺れて、隠されていた目が見える。
目があった瞬間、カリナは石像のように動けなくなってしまった。
「私、メドゥーサですので。お気をつけて」




