職業【遊び人】翼を得る
「そうだよ、ここだよここ!」
「この広場になにかあるの?」
「それはあいつに勝ってからだな」
洞窟の最下層に位置する巨大な空間に生息するのは数多の不死族。
そして中央にはそれを指揮する一体のスケルトン。
頂脳リッチ
HP 200/200 MP 100/100
亡失ナイト
HP 100/100 MP 0/0
「すまんがここは譲らせてもらうぜ!」
「ふ、フラム!」
彼女は翼を広げると、スライムの光によって姿を現したリッチに攻撃を仕掛ける。
それは成功した。彼女の手斧による打撃はリッチの頭部を破壊して粉々に砕いた。
「他のガイコツも倒すぞ」
「ま、待って!」
その瞬間、フラムに心臓を縛られたような鈍痛が襲った。たまらず体を横転させてしまう。
目線を上げると、影の腕のような闇の塊が自身の体を掴んでいた。手斧で無理やり解く。
ステータスは敵に遭遇した瞬間以外には見れない。しかしリッチを倒したのは間違いない、そう思い込んでいた。
しかし相手は不死族だ、簡単に倒せるわけがなかった。
リッチの砕けた頭部は消え去るが、新たな頭部が闇の粒子とともに現れる。
「クソっ! 呪われた!」
「『呪い』! 状態異常か……」
「受けようとすんなよ! 呪いは相手に攻撃できなくなっちまう!」
「ほ、本当……!?」
手斧を二本取り出してリッチに斬りかかるが、その攻撃はキャンセルされた。
距離をとり魔法を放つ。「魔撃」を放つ。
魔法は当たるが、ダメージを受けた箇所をほろほろと崩して、本体は逃げていく。
リッチの体は時間をかけずに回復を行うと、闇属性を纏った「魔弾」を放ってきた。黒い弾を断続的に飛ばしている。
手斧で攻撃を相殺するが、脇でうめき声を上げるガイコツが近づいてくるのが分かる。
天井が低いので上手く飛べない。
「魔法って相殺できるの?」
「それよりも強い攻撃を与えれば出来る。カリナはやらないほうがいいかもな」
「タイミングを掴むのが難しそうだね……」
「あんたなら出来るだろうけどな」
そう呟くがカリナには聞こえていなかった。
フラムは周りのリッチに魔法で攻撃を与えていく。さすがの不死族も復活できる本体がなくなれば消滅すると考えた。
カリナはヘビとスライムを最大限召喚して洞窟の中へばら撒いていた。召喚したモンスターに触れたガイコツは剣を落として動きを止めていた。
不死族には珍しく状態異常が効く。いや、本来は効かないのだがカリナの【常在異常】による四つの状態異常の圧に負けたのか。
「ゲームのルールまでは捻じ曲げないでくれよ」
祈るようにそういう。しかし戦闘は停滞に追い込まれた。
フラムはリッチへ遠距離による攻防を、カリナ本人と召喚モンスター達は、数の多いガイコツを減らすのに手一杯であった。
たまに伸びる闇の手は「呪い」を付与するため絶対に避ける。
「しまったな……このままだと消耗するのは私だ」
ガイコツだって不死族である。時間が立つと地面から起き上がってくる新たな個体。
状態異常だってすぐに解けてカリナへと襲いかかる。
彼女の「不落要塞」は止まれば止まるほど防御力を上げるが、止まっていれば呪いの手に捕まってしまうため止まれない。
「カリナ! 火だ、不死族の弱点! MPが少ないから気をつけて打て!」
飛翔してリッチのそばへと寄ると「火球」を胸に押し当てるように放つ。
すぐに離れると、寄ってきたガイコツの頭を飛びながら粉砕していく。
振り返ると、リッチの胸は穴が空いたままだった。しかしゆっくりと回復しているようで穴が塞がるのは時間の問題だ。
火球を連続で当てたいがあいにくフラムは戦士を目指していた、MPはあまり上げていない。
リッチは魔法を撃つ。それは魔撃による攻撃だが、今回はレーザーのように放たれる。
魔弾と違って避けきれない。魔撃は追尾してくるのでカリナですらダメージを負ってしまう。
「まずい、カリナ……!?」
振り返りカリナを探し出すが、どこにもいない。
その刹那、聞き慣れない効果音が響いた。そして、声が聞こえる。
スキル取得
【統御・炎禽スパロー】【始原・炎禽スパロー】【火傷の体】
『【統御・炎禽スパロー】を【統御生多相】へ統合、【始原・炎禽スパロー】を【始原同一化】へ統合、【火傷の体】を【常在異常】へ統合しました』
リッチの真後ろにカリナがいた。
【戦場掌握】は瞬時の移動が可能だ。それには現座標、目的座標、差分のデータを出して初めて移動が可能であったが、彼女はこの瞬間に計算を終わらせていた。
「【始原同一化:炎禽スパロー】」
背中に灼熱の翼が生える。
そして洞窟内に炎を纏った羽が縦横無尽に駆け巡る。カリナは剣を抜くと、慣れた手つきでリッチの体を斬る。
【異常伝播】による火傷の剣は、リッチの再生を拒む。不死の体は死へと向かっていった。
「……」
カリナの剣技は見惚れる程美しい。彼女に剣の知識はないが、それでもそれが正しいと分かる。
その斬撃はリッチの再生速度を上回る。気がつくと、リッチを構成する全ての骨が切断されていた。
眼の前の光景にフラムは口を開けて見ておくことしかできなかった。
洞窟を埋め尽くす熱は、フラムを避けるようにして回っていた。
しばらくのうち、一斉に火を発散させた羽は、力を失ったように自由落下を始める。
そこには、不死族の姿はない。あるのは燃え盛る翼を背にしたカリナの姿であった。




