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職業【先導者】暗い底を覗く

「スライム、錯乱ホーネット召喚」

「ん? そいつらは?」


 穴に入ろうとして、カリナがモンスターを召喚しているのに気がつき声をかけた。

 カリナも穴に入ってきたため体を支えてやる。慣れない手つきで降りていくと、そこは薄暗い洞窟であった。カリナの頭に鹿の角が生える。


「蜂にはさっき会った鳥と戦ってもらおうかなって、スライムは火傷耐性の強化だね。最近召喚したモンスターからもスキルがゲット出来ることに気がついたんだ」

「ちょっと待ってくれ……」


 フラムは眉を引きつってカリナをジロジロと見る。

 まるで当然のように生えた角に動揺してしまった。それによく見ると角は薄暗く光っていた。しかし光源としては心もとなく、せいぜい足元が見える程度であった。


「これ? これは光源。目線の先が照らせるから近くのものを見るのにはいいかなって」

「いや、さっきの魔法セットの中に光属性の魔法があったろ? それを使えよ」

「確かに、フラムは賢いね!」

「この程度で賢いと思われるのかよ……」


 半径三メートルほどの円形の道が続いていた。上下左右に道が分岐する箇所があり、迷ってしまいそうだ。

 フラムは光属性の最下位魔法である「光点」を使用すると、あたりが明るくなったことに満足する。

 しかしカリナはそうではなく、二人の二歩先と一歩後ろにスライムを召喚する。スライムに魔法を使ったのか、道が見えるほどには程よく光っていた。

 モンスターを召喚するのは便利だと思いつつ、本来テイムモンスターは使い捨てるものではないので複雑な気分を覚える。

 そんなことを気にせずスタスタと歩いていくカリナに着いていく。


「気をつけろよ、この洞窟には不死族(アンデット)がいるらしい」

「了解! 今はスライムが【挑発】を使ってるから万が一のことはないはず。それに【戦場掌握】で近くのことは常に見えてるよ。遠距離攻撃にだけ気をつけよっ!」

「そ、そうか」


 二人は黙々と歩いていった。

 分かれ道は下に向かう道へ、左右は常に左を選択していた。上がるときに迷わないようにとフラムが意気揚々と説明をした。しかし、カリナ曰く後ろのスライムが【始原同一化:粘糸スパイダー】を使って蜘蛛の糸を使えるようになっているため、帰りは糸を辿れば帰れるらしい。それに、糸は【不落要塞】による強化で簡単には壊れないそうだ。


「……」


 フラムは負けず嫌いであった。しかしこの性格は最近知ることになった。

 彼女の本名は佐田真央といい、「天才」と称されていた。それは勉強、スポーツ、ゲームにおいて類まれなる才能があったためだ。

 彼女の字は印刷のように美しく、テストは全クラスで最高得点を叩き出し、スポーツではいくつもの金メダルを首にかけることとなった。

 また、趣味はゲームだ。それは、必ず一位になるということがなかったからだ。確かに課金必須のゲームやスピードを競うゲームでは差が生まれる。しかし買い切りのゲームであれば、彼女は上位に食い込むことができた。そこから努力を重ねることで、上位勢を蹴散らすことが出来る。彼女はそれが楽しかったのだ。

 しかし彼女に悲劇が訪れたのだ。それが進学であった。

 天笠秋は、何もしていなかった。

 字を書かせればそれは子供の絵のようだし、授業は聞いている方が稀、スポーツの授業には参加すらしていなかった。

 彼女はそんな秋を不思議に思った。どうして、自分と同じ学校に進学できたのだろうかと。

 そして、テストの日にそれを理解した。

 何が起きたのだろう。彼女は三桁のテスト用紙をバッグの端に詰め込むと、また何かを考え込むような表情をして机に座っていた。

「やればできる」という言葉の意味を、秋は違う意味で理解している。

 テスト以外で秋が目立つことはなく、幸いにも彼女は「天才」の称号を剥奪されていなかった。

 しかし彼女の心はすでにズタボロであった。


「なぁ秋」

「ん? ……ど、どうしたの?」


 道に転がる不死族(アンデット)のモンスターを無視して二人は話し始める。


「あんたはどうして、そんなに器用なんだ?」

「器用、とは思ったことはないよ。僕なんてまだまだできないことだらけだよ」


 そう言ってヘラヘラと笑うカリナに、彼女は息が詰まっていた。

 秋の生きる世界が狭すぎたのだ。しかし秋の視野を広げたくなかった。


「私はあんたにオセロ、チェス、将棋と一度も勝ったことがない。これは私が弱かったということか?」

「お、恐ろしいこと言うよね……フラム、真央はすごく強いよ。下手すりゃ負けてたでしょ?」


 彼女は鮮明に覚えている。

 オセロは34対30で負けた。チェスではキングのみが残り、将棋では3日間の格闘の末に負けた。

 将棋の試合をするとなって、盤面を写真に残して次の日に持ち越すなんて初めての出来事であった。

 しかしこれらの全てが彼女には信じられないものであった。何度挑んでも、全てが接戦で終わっているからだ。

 オセロの試合なんてゆうに百回を超えているがいつも34対30で負けている。

 これが示すことは、それらが全て彼女の思い通りだということであった。


「よく言うぜ」


 そういって笑ってみせるが、心では憔悴しきっていた。

 彼女は表面心理を取り繕うことに心血を注いでいた。

 せめて世間知らずの秋のために、自分にできることをしようと考えていたのだ。


「ねぇフラム。この奥に大きな広場があるみたい」


 そういって走っていくカリナについていく。

 彼女は【遊び人】であった。


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