第三階層ボス【甲鎌針禍蟲】姿を顕す
三人は第三階層の北部に来ていた。
森を抜けた先にあったのは大きな広場、そして最奥には一つの巨木。
「僕、友達と第三階層の大きな木の下で待ち合わせをしてるんだけど……」
「それは多分第四階層まで来いってことだな」
「あの木の下に行けば第四階層に行けそうだね!」
アントは銃を構えた。それにつられて二人も複製された銃を手に取る。
使う銃はレッカが作成したフルオートの銃でではない。それは俗に言うスナイパーであった。
銃身は長く、末尾が大きい。アントに使い方を学んだ二人だったが、反動が大きいがために使いこなせてはいなかった。しかし二人の役割は遊撃であるため熟練度は勝利に直結しない。
三人は広場の中央へと向かう。すると流れてくる派手な音楽。そして姿を表す階層ボス。
宙から大きな羽音を響かせて降りてくるその巨体に、皆は目を見開いた。
そして、このゲームはまだ始まっていなかったと皆は気づく。
甲虫類特有の硬い羽、しかし六つに別れた脚には黄金色の鎌、長い胴の終端には純白の針、頭部には二つの複眼。
甲鎌針禍蟲
HP 500/500 MP 100/100
アントは構えを解いてしまった。レッカから笑顔が失われた。カリナはそれを虫と認識することができなかった。
体長三メートルはある巨躯が、翅音を響かせる。巨大な蟲が存在を顕すと、他にも多数の虫が集結する。
錯乱ホーネット
HP 100/100 MP 80/80
粘糸スパイダー
HP 100/100 MP 50/50
中空から蜂の群れが、地面から蜘蛛の集団が黒の粒子と共に出現する。
そのモンスター達は大きさが人と同じくらいの体格を持っており、カサカサという音と共に素早く行動を開始した。
その瞬間、カリナは恐怖を感じ、視界から色が抜ける。喉から空気の抜けた音がなり、二人は正気を取り戻す。
「行くぞ! 二人は遊撃だ!!」
「う、うん! カリナ、行くよ!!」
カリナは手を引かれてハッと目を覚ますと、すかさず三種類のモンスターを召喚する。すかさずレッカの補助が入った。
「やるよ、【複製】! 【模倣:統御・淡光バンビ】!!」
その瞬間、あたり一面にモンスターが召喚される。
イノシシ達は蜘蛛と接敵すると、すかさず体当たりを仕掛けていく。鹿の群れは、地面に魔法陣を描き、空にいる蜂に対して火球を放っていた。
「鹿さんたちも『火球』使えるんだね」
「カリナのステータスを参考にしてるみたい!」
「気を抜くなよ、来るぞ! 『狼尾』」
アントは銃を両手に持って走る、その速度は蜂よりも早くあっという間に蟲の足元へとたどりついた。
「スライム! アントとレッカを守るように守ってあげて!」
「それ大丈夫!? スライムって体力すごく少ないと思うんだけど!」
「大丈夫、レッカもスライムの陰に隠れてて!」
カリナの召喚するモンスターにはカリナのスキルが反映される。
アントの周りに根を張るスライムは、動かずアントを守ることだけに集中しているため『不動』や『素寒貧』に『要塞』の効果が付随している。
その守りは要塞の名を冠しているだけあり、大スライムの踏みつけ攻撃ですらダメージを受けることはない。
しかし虫の数は多くその一匹一匹が魔法を飛ばしてくるため、守りが度々砕けていた。
蜘蛛と対峙するイノシシは、その大きな脚で体を貫かれて、動きを封じられている。どうやら『鈍足』の状態異常が付与されているようで、ダメージを少しでも受けたイノシシは動作を遅らせる羽目になっていた。
蜂と対峙する鹿達は、魔法で牽制はしているものの、動きに翻弄されて思うように攻撃を当てられていなかった。さらに蜂の針には『混乱』の状態異常を与えることができるようで、鹿の放つ魔法がたまに別の属性に変わっていた。
個々の威力は伊達ではなく、召喚したモンスターは次々に倒れていく。しかし二人が攻撃を仕掛ける間もなく召喚をするため、防御が保たれていた。
つまりは彼女らが攻撃をできていないということになり、結果として消耗戦になっていたのだ。
カリナは解決策を模索するために、冷静になり虫の数を数え始める。
地上にいる蜘蛛は三十匹程度、どうやら空中にいる蜂も三十匹程のようだ。
ちょこまかと動いているためその数は正確ではない。しかしカリナは一つの作戦を思いついていた。
それはカリナの防御をしているモンスターを捨てることになるのだが、本人の防御は頑丈のため迷いなくその作戦を実行する。
「レッカ、ごめんね! ちょっと試したいことがあるんだ」
「試したいこと……よくわからないけど、分かった! 信じてるよ!」
「任せて!」
アントの方を見ると、どうやら蟲に苦戦しているようだ。蟲はその巨躯を動かすことなく魔法によってアントに攻撃の隙を与えていなかった。
しかし彼も素早さだけでは負けておらず、攻撃を避けるように動いたり、スライムを盾にしている様子が確認できた。
だがこちらも防戦一方。アントは苦痛の表情を浮かべる。
「アント、もう少し待っててね」
カリナはイノシシを眼の前に並べると、蜂と蜘蛛に目をつける。
「【挑発】」
カリナの一言で全ての敵のヘイトを一点に集中させることに成功した。
第三階層に上がったときに習得したスキルである挑発は、対象者を中心に半径五十メートルの範囲にいるモンスターの注目を強制的にこちらに向けることができた。
しかし、蟲に寄って来られては困る。そのため、そちらの注目はアントの近くのスライムに向けていた。
対象を選び、特定のモンスターにヘイトを強制させる技をカリナは容易に試して見せたが、これは実に高度なプレイであった。
そもそもモンスターを意のままに操るスキルは、召喚上限である五体が前提であった。普通召喚系スキルをいくつも手に入れるプレイヤーは少なく、それは調教師のする行為であった。
しかしカリナはそれに加え複製をしており、今操っているモンスターの数は計四十五体。
四十五体ものモンスターの行動を操り把握、倒されればすぐに召喚し、そして今新たな作戦を遂行する。
普通のプレイヤーには無せない技であろう。しかしカリナはそれをやってのける。職業【遊び人】の名は飾りではないのだ。
「飢餓イノシシ、【始原顕現】」
カリナの眼下に並んだ十五体のイノシシは、その掛け声と同時に、白いオーラを纏った。
その場の光が全てイノシシに吸収されたような感覚、肌がピリピリとひりつく。
レッカはそれを口を開けて見ていた。常軌を逸した光景に目を疑っていたのだ、自分の知っている彼女ではないと混乱が止まらない。
しかし彼女の口角は自然と上がっていた。これが信用した友人の力なのだと、自分も彼女に貢献できているのだと思うと嬉しさが溢れるのだ。
「行くよ! 体当たりと【ハイジャンプ】を組み合わせて、突っ込め!!」
地面の土を押しのけるようにして、イノシシがその体を敵へと向ける。
銃弾の如き速度と熱を持ったイノシシ達は蜂と蜘蛛の群れへと体当たりを仕掛ける。爆風が轟き、空気が揺れているのが分かった。
その衝撃が、二度三度と響いた瞬間に、カリナは宣言する。
「【自爆】」
一瞬、時間が静止した。その光景は、まるで原子炉に体を突っ込んだよう。
空間そのものを揺らす衝撃は、敵の命を一瞬で刈り取る。あたり一面が閃光によって白に覆われた。
体が自然と宙に浮き、気がつくとスライムに守られるように体が地面へと押し付けられていた。
爆発が終わり、世界が色を取り戻していく。残る敵は、一匹だけだ。
全ての音が鳴り止み、蟲がこちらを睨みつける。静寂の中、スキル取得音が鳴った。
スキル取得
【統御・錯乱ホーネット】
【統御・粘糸スパイダー】
【始原・錯乱ホーネット】
【始原・粘糸スパイダー】
「駄目だよ、僕に数で勝とうとしちゃ」




