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囚執愛 ― 愛してる、だから奪った ―  作者: 婀娜
第二章 距離と優しさ
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第四話 蜜の誘い

数日後の夜。

圭介のスマホに、見覚えのある名前からメッセージが届いた。


《お仕事の件で少しご相談があります。社外の方が安心かと思いまして——》


送り主は、橘凛。

地図のピンは、都心の落ち着いたバーを示していた。


(……やっぱり、俺に気があるんだな)


 都合のいい解釈に、口元が緩む。

鏡の前でネクタイを締め直し、圭介は軽い足取りで家を出た。



 バーの中は、柔らかなジャズと琥珀色の照明。

カウンターの奥で、凛がグラスを指先で回していた。


黒のワンピースに身を包んだ彼女の横顔は、学生時代よりもずっと冷たく、美しい。


「いやぁ、綺麗になったよな」


圭介が笑いながら隣に腰を下ろすと、凛はわずかに目を細めた。


「お仕事の話をしましょうと言いましたよ」


「まぁまぁ、そんな真面目な顔すんなって。今夜は二人きりだろ?」


 軽口を叩く圭介に、凛は小さく微笑んだ。

けれど、その笑みは氷のように薄い。


「……奥様は、お元気ですか?」


唐突な問いに、圭介の眉がわずかに動いた。


「元気? あいつはもう家政婦みたいなもんだ。

飯作って、ガキの面倒見て……それだけだ」


氷がグラスの中で静かに鳴る。


凛の目は笑っていたが、その奥には静かな炎のような光が揺れていた。


「……そうですか。では、理想の奥様像は?」


「そりゃあ……凛みたいな女だよ。

綺麗で、賢くて、俺を立ててくれる。あんなのと違ってな」


 酔いが回り、言葉がだんだんと軽くなる。

凛はグラスを口元に運び、赤いルージュをわずかに残した。


「——正解、ですか」


その声は、柔らかいのに冷たかった。


圭介はその意味に気づかないまま、さらに身を寄せる。


「なぁ凛……今夜はこのあと、どうだ?」


 返事はなかった。

ただ、凛の目の奥で小さな光が弾けた。


——それが、静かに開かれた“罠の扉”だった。


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