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囚執愛 ― 愛してる、だから奪った ―  作者: 婀娜
第二章 距離と優しさ
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第三話 再会の罠

 証券会社・東邦セキュリティーズ本社・会議室。

取引先から「リスク説明が不十分だ」というクレームが入り、緊急の会議が開かれていた。


「……たかが一件二件だろ」

圭介は苛立ちを隠さず、スーツの袖口をいじる。


 自分は営業部トップ。

数字で勝負してきた自負がある。

小さな顧客の不満など、煙のように消えると思っていた。


だが、役員席の法務部長は険しい表情で言った。


「金融商品取引法違反に問われかねない。外部の意見も聞く」


そのとき、扉が開いた。


「本件について、助言をさせていただきます」


 黒いスーツに身を包み、静かに一礼する女性。

涼やかな声と冷えた眼差し。


「橘凛です」


その名を聞いた瞬間、圭介の鼓動が跳ねた。


「……嘘だろ」


 学生時代、後輩として見せていた柔らかな笑顔。

だが、今の凛には微塵も残っていなかった。


「契約書のリスク説明義務は明確です。

 “元本保証に近い”といった表現は、虚偽の安心を与えるおそれがあります」


凛の声は冷えきっていた。


圭介は笑ってごまかそうとした。


「いやいや、リスクなんて誰だってわかってるさ。顧客だって承知で——」


「承知していないから、問題になっているのです」


 凛が切り返す。淡々と、迷いなく。

その横顔に学生時代の面影を探そうとしても、そこに柔らかさはなかった。


 ——凛の瞳には、かつての笑顔の残滓すらなく、

ただ、計算された冷たい光だけが宿っていた。



会議が終わったあと、圭介は廊下で彼女を呼び止めた。


「……なぁ、久しぶりだな。元気にしてたか?」


凛は立ち止まり、振り返る。


「偶然、ですね。——お仕事中ですので、失礼します」


短くそう告げ、踵を返して去っていく。


「おいおい、ちょっと待てって。これ、俺の名刺。

 今夜空いてるなら、飲みに行こ?」


 軽い笑みを浮かべても、凛はにこりと笑うだけだった。

その笑みは氷のように薄い。


彼女が去ったあと、圭介はポケットの中の名刺を見つめて呟く。


「……やっぱり、綺麗になったよな。今度こそ、落としてやる」


 だが、彼はまだ知らなかった。

その再会こそが、静かに仕組まれた“罠の始まり”だった。



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