第二話 崩れ始める虚勢
昼のオフィス。
ホワイトボードには「米ハイテク株連動仕組債」と大きく書かれていた。
圭介は胸を張り、営業部の面々に向かって笑う。
「これだよ。利回りは高いし、安心して売れる。これからの看板商品だ」
部下たちは一斉にメモを取った。
だが、一人の若手が恐る恐る口を開く。
「……でも課長、最近ナスダックの動き、不安定ですよね。
お客様に突っ込まれたら、どう説明すればいいのか……」
圭介は鼻で笑い、豪快に言い切る。
「市場なんて上下するもんだ。長期で見りゃ必ず戻る。安心させろ、数字は俺が取る」
会議室の空気が固まる。
誰も反論できなかった。
その沈黙の中で、圭介の笑みだけがやけに明るく響いた。
*
数日後の夜。
高層マンションのリビング。
ブランデーを片手に、圭介はニュース番組を眺めていた。
《速報:米ハイテク株、過去最大の下落幅》
《ナスダック、一日で8%安》
テロップに、手がわずかに止まる。
だが、すぐに笑みを浮かべた。
「ふん……一時的なもんだ」
グラスを傾ける手は、わずかに震えていた。
*
翌朝。
営業部のフロアに足を踏み入れた瞬間、電話の音が鳴り響いた。
「課長! 顧客からの問い合わせが殺到してます!」
「『元本は守られるって聞いたのに!』って……!」
部下たちが青ざめ、次々とメモを差し出す。
圭介は眉をひそめ、強気の笑みを作った。
「心配すんな。俺が全部対応する」
言葉は強かったが、掌には冷たい汗が滲んでいた。
*
夜。
クラブのソファに沈み、圭介はシャンパンを煽った。
隣には、新顔のホステス・みくる。
「圭介さん、今日は疲れてる顔してますね」
あざとく首を傾げる声に、圭介は苦笑した。
「客がうるさくてな……でもすぐ戻る。俺に任せときゃ大丈夫なんだよ」
みくるは微笑みながら、グラスに酒を注いだ。
その瞳に、圭介の知らない冷たい影が一瞬だけ浮かんだ。
──それが、すべての“始まり”だとも知らずに。




