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囚執愛 ― 愛してる、だから奪った ―  作者: 婀娜
第四章 影の守護
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第四話 小さな違和感

 夜のリビング。

書類の山を閉じ、凛は静かに立ち上がった。


「少し出てきます。今日も戻りは遅くなるかもしれません」


 声はいつも通り穏やかだった。

だが、その言葉に優香の胸がわずかにざわつく。


「こんな時間に……本当に、お仕事お疲れさまです」


口ではそう言いながらも、胸の奥で別の言葉が渦を巻いていた。


——また、夜に。

——どこへ行くんだろう。


「ええ。なるべく早く帰りますね」


 そう言って、凛は柔らかく微笑んだ。

けれど、その笑顔が少しだけ遠く見えた。


 ドアが閉まる音。

静けさが部屋を包み込む。


(……なにか、大事な案件でも抱えてるのかな)

(もしそうなら、私、何かできること……)


そう思うたびに、心の奥で小さな棘がひっかかる。


「信じているのに、なぜ不安になるんだろう」


言葉にならない違和感だけが、部屋の中に残った。



 その週末。

青空の下、翔は凛と砂場で夢中になって遊んでいた。

小さなバケツに水を汲み、凛が砂山を固める。翔は笑い声をあげる。


 優香はベンチからその光景を見つめていた。

平和で、あたたかくて、何もかもが“理想的な日常”のように見えた。


——なのに、胸の奥が少し冷たい。


「……凛ちゃん」


 思わず呼びかける。

けれど、言葉が続かない。


(どこに行ってるの? 誰と? ……どうして言えないの?)


「砂、固まってきましたね」


 凛が笑いながら顔を上げる。

その笑顔は、何も変わらない。


 だからこそ、言えなかった。

その完璧さが、少しだけ怖かった。



 遠くで子どもたちの笑い声が響く。

けれど優香の胸の奥では——

“小さな違和感”が、確かに息をしていた。


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