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囚執愛 ― 愛してる、だから奪った ―  作者: 婀娜
第三章 揺れる距離
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第五話 優しさの檻

 朝の光が白く差し込み、リビングを満たしていた。

テーブルの上には、凛が焼いたパンと温かいスープ。

香りは穏やかなのに、空気には昨夜の影がまだ残っていた。


「昨夜、眠れましたか?」


 キッチンから凛が静かに声をかける。

優香はスプーンを止め、少し考えてから頷いた。


「うん……でも、夢見が悪くて」

「当然です。怖い思いをしたんですから」


 凛はそう言って微笑む。

けれど、その笑顔の奥には、わずかな鋭さが潜んでいた。



 午前十時。

凛は防犯カメラの設置業者を呼び、玄関とリビングの窓に小型カメラを取り付けていた。


「これで、もう安心です」


 そう言って、彼女はタブレットを操作し、映像を確認する。

優香は戸惑いながら尋ねた。


「……ここまでしなくても、いいんじゃ……?」

「いいえ。備えすぎることなんてありません」


凛の声は優しかったが、断固としていた。


翔が寝室から顔を出す。


「ママ、遊ぼー」

「あとでね。今ちょっと大事な話してるから」


 優香がそう言うと、翔は不満そうに頬を膨らませ、戻っていった。

その小さな背中を見ながら、胸の奥が少し痛んだ。


(守られているのに……息が詰まる)



昼下がり。

三人でスーパーへ行こうとした時、凛がふと口を開いた。


「今日は私が行きます。優香さんは家にいてください」

「え……? でも、翔の服も見たいし」

「外に出るのはまだ危険です。何かあってからでは遅い」


 その言葉に、優香は何も言い返せなかった。

“守ってくれている”はずの言葉が、なぜか胸を締めつけた。


 リビングのソファで翔と並んでテレビを見ながら、

優香は窓の外をぼんやりと眺める。

青空の下で、誰かの笑い声が響いていた。


(……私、外に出たいだけなのに)



夜。

凛が買い物袋を抱えて戻ってくる。


「ほら、翔くんの好きなゼリーも買ってきました」

「わーい!」と翔が笑う。


その無邪気な声が、少しだけ救いになった。


「助かるわ、ありがとう」

「いいんです。私がいれば、あなたは何もしなくていい」


 凛の言葉に、優香は一瞬だけ笑みを返した。

だが、その言葉が胸の奥で静かに響く。


“何もしなくていい”

——それは優しさか、それとも檻の鍵か。


 翔を寝かせた後、

凛はカーテンを閉め、窓の鍵を確かめ、玄関のロックをもう一度押した。

カチリという音が、夜に吸い込まれていく。


「これで安心です」


 微笑む凛の声に、優香は静かに頷いた。

だがその瞳には、かすかな怯えが映っていた。


 外の世界を閉め出したその部屋で、

三人の生活は確かに“安全”になっていく。

けれど同時に——

その安全の中で、自由はゆっくりと息を止め始めていた。


——守られるほど、心は狭くなっていく。



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