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第十一話 同居
調停を終えた夜、冷たい風が二人の頬を撫でていた。
街灯が並び、交差点に映る影は、優香と凛の二人だけ。
「——次に住む場所は、もう決めてありますか?」
凛がふと問いかける。
優香は小さく首を振った。
「……実家に戻るつもりです。でも、翔の学校も転校しなきゃいけないし……」
凛は足を止め、まっすぐに優香を見た。
「それなら、私の家に来てください」
「え……でも——」
優香の声が震える。
凛は静かに首を振った。
「迷惑なんかじゃありません。むしろ、その方が安心できます。……翔くんのことも、必ず守りますから」
その瞳は温かく映った。けれど奥底に潜む光は、誰にも読み取れなかった。
優香の目に涙が滲む。
「……ありがとう」
凛はそっと優香の手を取った。
「大丈夫。もう二度と、あなたを孤独にはしません」
交差点の信号が青に変わる。
二人と一人分の未来は、同じ方向へ歩き出した。
だがその道が「救い」か「束縛」かを知る者は、まだいなかった。