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5話 たこ焼き、町を席巻す


 リリアに導かれ、薄暗い森を抜けたワシらの目の前に、そいつは現れた。

 天を突くような、高い城壁。

 活気のある人々の声。

 アルク村とは比べモンにならん、巨大な町――城塞都市グランツや。


「おお……! 久しぶりに見る、ちゃんとした道や……!」


 ワシはアスファルトではないが、綺麗に石畳が敷かれた道を見て、心から安堵した。

 しかし、その安堵も束の間。

 町の巨大な門の前で、屈強な鎧姿の門番たちが、ワシらの行く手を阻んだ。


「待て。身分証を提示しろ。持っていないなら、滞在税として一人銀貨2枚を支払ってもらう」


 若い門番が、マニュアル通りの事務的な口調で言う。


「なんやて!? ワシら、見ての通り一文無しやぞ!」

「規則は規則だ! 払えなければ、この町には入れん!」


 こいつ、融通の利かん奴やな。

 ワシは隣に立つ、面倒くさそうな顔をしたベテラン風の年配門番に、ターゲットを切り替えた。

 そして、おずおずとワシの後ろに隠れるリリアの肩を、ポンと押した。


「おっちゃーん! 見てくれや、このいたいけな少女の姿を!」


 ワシはここぞとばかりに、浪速節を炸裂させた。


「森で恐ろしい魔物に襲われ、九死に一生を得て! 三日三晩ろくに眠れず、木の根をかじり、泥水をすすって! やっとの思いでこの町に辿り着いたんや! この子に、温かいスープの一杯も飲ませてやりたいんが、親心ってもんやないか!」


 ワシの熱弁に、若い門番は呆気に取られとる。

 年配門番は、じっとリリアの目を見て、やがて深いため息をついた。


「……お前の話は十中八九、胡散臭いが、嬢ちゃんの目は嘘をついていないようだ」


 ワシは畳みかける。


「おおきに、おっちゃんなら分かってくれる思うとった! 通してくれたら、必ずこの恩は返す! ワシ特製の、腰抜かすほど美味いもん、ご馳走しまっせ!」

「……分かった、分かった。今回だけだぞ。変な騒ぎを起こすなよ」


 こうしてワシらは、無事、グランツの町に入ることができた。

 とはいえ、金がないことには変わりない。

 活気のある市場を歩きながら、ワシは商売のネタを探した。

 夕暮れ時、店じまいをしようとしている、古びた屋台が目に入った。


「はぁ、今日もさっぱりだったわい……」


 疲れ切った顔の爺さんが、一人ため息をついとる。

 ワシはすかさず【商人あきんどの勘】を発動した。


『【ガス爺さんの屋台:味はそこそこだが、立地は最高。本人はやる気を失いかけている。少し強気に交渉すれば、話に乗ってくるで】』


 これや!

 ワシはガス爺さんに声をかけた。


「おっちゃん、商売はな、やる気なくした時点でお終いやで」

「なんじゃ、若造が……」

「まあ、これ食うてみぃ」


 ワシはたこ焼きを一個創造し、爺さんの口に放り込んだ。

 爺さんは、その味に目を丸くした。


「な、なんじゃこの食べ物は!? 美味い……美味すぎる!」

「どうや? 今晩、この屋台をワシに貸してくれへんか? 明日になったら、今日の売り上げの3倍にして、場所代として払ったる。悪い話ちゃうやろ?」


 爺さんは、たこ焼きの味とワシの妙な迫力に押され、何度も頷いた。

 こうして、ワシとリリアの即席たこ焼き屋台は、グランツの町で産声を上げた。


「へいらっしゃい! 浪速名物たこ焼きやで! 美味なかったら、金は要らんで!」


 ワシの威勢のいい声と、ソースの焼ける香ばしい匂いが、あっという間に人だかりを作った。

 看板娘のリリアが、ぎこちなくも一生懸命に「おいしいですよ…!」と微笑むと、客は皆、財布の紐を緩める。

 一口食べた客が「なんじゃこりゃあ! 美味い!」と叫んだのをきっかけに、噂が噂を呼び、屋台には見たこともないような長蛇の列ができた。


「兄ちゃん、マヨ多めな! そこのお嬢ちゃんには、かつお節サービスしといたるわ!」


 ワシは水を得た魚のように、軽快な手つきでたこ焼きを生み出し、客を捌き、冗談を言って笑わせる。

 ああ、これや。これこそ、ワシの生きる道や!


 あっという間に空は暗くなり、営業は終了。

 ずっしりと重くなった金袋を手に、ワシとリリアは顔を見合わせて笑った。


 儲けた金で、ワシらは清潔な宿屋に部屋をとった。

 久しぶりのフカフカのベッドに、ワシは思いっきりダイブした。


「あ゛~~……極楽や……。やっぱり布団が一番やで……」


 温かい食事と風呂で、森での疲れを癒す。

 ようやく人間らしい生活に戻れたことに、ワシは心から安堵した。

 寝間着に着替え、ベッドに入り、さあ寝るかと目を閉じた、その時やった。


 コン、コン……。


 控えめなノックの後、ワシの部屋のドアが、静かに開いた。

 そこに立っていたのは、月明かりに照らされた、薄いネグリジェ一枚をまとったリリアやった。

 頬を上気させ、少し潤んだ瞳で、ワシをじっと見つめている。

 ワシの頭の中は、一瞬で沸騰した。


(あかんあかんあかん! これはアカンやつや! 保護者責任! 青少年健全育成条例!)


「り、リリア!? な、なんしとんねん、こんな夜中に! は、はよ自分の部屋に戻らんかい! 風邪引くで!」


 ワシの慌てっぷりをよそに、リリアはか細い声でこう言うた。


「あの……一人でいると、なんだか寂しくて……」


 彼女は一歩、部屋に足を踏み入れた。


「大ちゃんの、そばにいたくて……」


 どうする、堂島大悟!?

 おっさん、人生最大のピンチ(?)到来!


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