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ー 後宮入り




 力の強い龍人を代々皇帝とし、いくつもの領に獣人や人族が住まう帝国。


 西領を治める猫獣人のサイ家に一通の書簡しょかんたずさえた使者がおとずれる。


 皇帝の印が押された書簡の内容を要約すると「年頃の娘をひとり後宮に一年住まわせること」と、書かれていた。



 使者が読み上げる内容を耳にしたサイ家の当主は、頭を抱える。


 皇帝の新たな伴侶(はんりょ)選びに、こんな最果ての地を治めるネコの一族まで駆り出される事態になったのか、と。







   ──────────────────


   〜黒龍皇帝の快適抱き枕は眠りの猫姫〜

               【R15版】

   ──────────────────









 西の最果てから、サイ家の二の姫が到着したとの知らせを受けた。現在、後宮の取りまとめ役である人族のシャナは、出迎えのために後宮と本殿を繋ぐ巨大門の方に歩みを進める。



 今回で四期目となる妃の後宮入り。他の妃三名はすでに各自の宮で荷解きどころか、部屋の模様替えもませた中。


 最後に到着したサイ家の姫は後宮入りの期日を明後日にひかえ、これからあわただしく準備をするのかと思うと、シャナは思わずため息をついた。


 妃達の実家からは生活をつつがなく過ごすために二名までの付きいを許しているが、贅沢な暮らしをして来た姫達の対応では、到底とうてい、手が足りるはずもなく。

 


 シャナをふくめた後宮の女官達はご用聞や食事の支度、部屋付きに何名も手をわずらわされる事になる。

 一緒に連れて来られた侍女達は、後宮から出られない妃のもっぱら遊びや話し相手だ。



 前皇帝陛下が散財に散財を重ね、現皇帝即位後の後宮も、ある事件により再度解散。


 現皇帝陛下は金食い虫である後宮の縮小をはかるばかりか、妃を一年の任期制にして家臣に下げ渡すばかり。


 その際に、気に入った後宮の女官をとつぎ先に引き抜く妃もいる。


 何が言いたいかと言うと、現在の後宮は優秀な人材どころか、慢性的まんせいてきに人手自体が少なかった。



 巨大な門の近くまで来たシャナは数名の人影を見つけて急ぎ足をゆるめ、なるべく優雅に見えるよう、しずしずとした足取りに変える。


 妃との顔合わせは最初が肝心だと、これまでの経験から学んでいる。


 まず見えたのは「白」。猫獣人と聞いてはいたが、これまで見てきた妃の色味で、こんなに色素の薄い者もいなかったと内心(おどろ)く。

 薄い蒼衣のよそおいと合間って、遠目から見ても何ともはかなく、触れたら消えてなくなってしまいそうなほど。


 見惚みほれている場合ではないと目前まで来て慌てて気づき、ヒザを折って、幾度いくどもして来た形式的な挨拶の口上こうじょうべる。


 身に染みた所作しょさに、シャナは今は只々(ただただ)感謝した。


 サイ家の侍女が主人の代わりに返事をし、次いで直答ちょくとうで二の姫も自己紹介後に「これからよろしく」と鈴が鳴るような声で言うものだから、予想外の出来事にシャナは一瞬の間を置いて固まり、何とか言葉を返した。



「主は気さくな方なので」



 笑いながら言うサイ家の侍女に、元来なら堅苦かたくるしい事をあまり好まないシャナは、この方々なら上手くやっていけそうだと胸をで下ろした。






 これから滞在する宮に案内されたサイ家の二の姫であるリン。

 輿入こしいれの際に持って来た荷物が侍女の手によって運び込まれる中、間取りを確認するように宮を一周する。


 生活空間は手狭てぜまだが、掃除の手間がなくて楽である。自分を含めて三人しかいないので、何部屋もあったらどうしようかと、侍女と旅路の馬車で話していたくらいだ。


 何より、玉砂利のめられた庭があるところがとても気に入った。


 今は草花は植えられていないが、ところどころに花や実をつける木を見つける。


 き物を脱いで、数段ある木製の階段を上がった先には両開きの扉。庭を見渡せる居間(真ん中)と、続き部屋の寝所(左)に衣装部屋(右)。

 部屋をかこう外廊下でつながった侍女が使う生活部屋。数段下がって、屋根付きの渡り廊下の先は小さな台所にお手洗い。

 風呂もついているのは、何とも贅沢な作りだと流石は天下の後宮である。


 飴色あめいろの年月を感じる、足の低い書き物机をなでつけていれば、荷物の運び入れが終わったと声がかかった。


 備え付けの家具や用意された寝具類はそのまま使える。

 しかし、消耗品はこちらで買うとは事前に決めていたとはいえ、 三人分なら結構な量の荷物。


 特にリンの荷物は輿入れと言う事もあり、自身の衣類と献上品けんじょうひんの実家西領で作られた高価な布が多い。



「あれ? シャナさんは?」



 双子の片割れの侍女に聞くと、もう片方とこの宮の外の案内のついでに、夕餉ゆうげの食材やら食器類、火をもらいに行ったらしい。


 仮初の夫となった皇帝陛下への献上品や父から持たされた手紙が残っている。

 後宮のまとめ役であるシャナに先に渡しておけばよかったと、リンは頭の上にある三角耳をへにょんと下げた。


(父に真っ先に渡せと口を酸っぱくして言われていたのにぃ〜)


 残った二人でテキパキと荷物を片付けていく。しばらくしてから、茶器と茶菓子をたずさえたシャナが先に戻って来た。侍女が入室の許可を出すと、その後ろには数名の若い女官達。


 シャナ以外みな驚いた顔でリンを見るので、見られているとうの本人は荷解きの手を止める。

 最初に口を開けたのはやはり年嵩としかさのシャナだった。



「お連れの方には他の案内を頼みました。人手をと思いましたが……」



 部屋を見渡し、半分以上空になっていた少ない数の箱をながめて「いりませんでしたね」と、シャナは連れて来た侍女を下がらせる。


 ひと息つかないかと提案されたリンは献上品と献上品の目録もくろく、父からの手紙を先にシャナにあずける。すすめられたお茶を飲みながら、シャナから妃に対しての質問を受ける運びとなった。


 具体的には次の嫁ぎ先の希望だ。後宮に入ってその日の内に聞くのも変な話だが、いつかはたずねなければいけない事。


 場合によっては、妃の実家と妃本人の嫁ぎ先の希望がみ合わない時もある。



血塗ちぬれの黒龍皇帝」の異名いみょうを持つ現皇帝。即位後いくらもしないで後宮にいる自身の妃を十人殺めたと言われる、気性が荒い皇帝フェイロン。


 任期制にした後も二名の妃に毒杯をさずけ、新たに送られて来る妃の親である家臣は、実家で冷遇れいぐうされている娘を送って来る事も少なくない。



 見極みきわめのために吐いた言葉。

 返答を待つ間にリンの様子に細心の注意をはらいながら、シャナは西領サイ家から来た姫の顔色をうかがった。



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