3日目
キャンパの街。
空は雲ひとつない晴天。
暗い表情の男が広場のベンチに座っていた。
〜〜〜〜数時間前〜〜〜〜
寝室で目覚めた後、ただ抜け殻のように起きることができなかった。
「・・・・・」
ただ茫然と天井を見つめ、ため息をつく。
部屋の隅に脱ぎ捨てられた防具。その横に落ちている短剣。
「・・・・・・・」
あまり視界に入れたくなかった。
「はぁ・・・散歩でもいくか」
ベッドから這い出て、着替えを始めた時に、ふとテーブルの上の魔結晶が目に入る。
「あれは、結局なんなんだ?」
知識が足りない。
そうだ。圧倒的に知識が足りないんだ。
そう考えると、次の目標が決まり、足早に部屋を出て行った。
「まずは本屋か図書館だ」
次の目標はこの世界の情報収集だ。
この世界の常識を補充しに行く。
そのためには本を読む。新聞を読む。スマホ的なものがあればなお良し。
とにかく、この世界を知りたい。
「お、なかなか大きい本屋だな」
早速、店の中に入る。
そして、期待は裏切られる。
「なんだこれは!?」
本に鎖が巻かれている。
「いらっしゃい。なんの魔導書が欲しいんだい?」
気難しそうなおばあちゃんが話しかけてきた。
どうやらここは魔導書を売っている店らしい。
「あー、ただ眺めているだけなんだ。魔法が使えないから、羨ましくてね。へへ」
適当なことを言って誤魔化す。早くこの店を出よう。
おばあちゃんが首をかしげる
「・・?あんた本当に魔法使えないのかい?わたしも鈍ったのかねぇ」
「・・・?魔法なんて生まれてから一度も使ったことないよ」
なんだ?魔法の素質があるのか?
「あんたから微かに魔力を感じるのにねぇ。不思議なこともあるもんだ」
魔力?俺から?何も感じないぞ
「まぁ、言いたくない事情もあるんかね。あっちにいるなら魔導書買うんなら持ってきな」
おばあちゃんが店の奥に消えていく。
「・・・なんだ?」
とりあえず店を出る。
ふと、疑問を感じた。
俺は何者なんだ?日本での"佐藤翔平"ではないのか?
一体、この身体は誰なんだ?
名前は?出身は?家族はいるのか?
知りたいことが多すぎる。
「一度部屋に戻ろう。まずは自分のことだ」
部屋に戻る。
棚の本を片っ端から読み漁る。
すると、手帳が出てきた。
「手帳?」
最初のページを開く。
「ダラス.....ローレライ.....?」
次のページを開く。
すると写真が出てきた。
さっきのは名前だ。自分の名前だ。
両親と自分の名前。
しかし、両親には日付も書かれていた。
手帳というよりはなんでも書き留めるメモのようなものだった
「亡くなっているのか......?」
ダラス・ローレライ
18歳 一人っ子
親は田舎町で農業をしていたらしい
どうやら魔物に襲われたのか、突然死してしまっている。
ダラスはなぜこの街にいるのか
親と一緒に死んでいないのか?
手帳を読み進めていく。
どうやらダラス・ローレライは善良な一般市民のようだ。
目立った特技や悪行はなく、普通の青年で身内や親戚はどうやらもういないらしく、キャンパの町で1人暮らしていたのだ。
「・・・・」
わからない。
理解の範疇をとうに超えている。
このリアルな夢について、思考を巡らしながら外へ出る。
トボトボ歩いているうちにある結論に辿り着く。
「・・・・まさかな」
手帳を最後の部分だけ読み返す
「そんな.....」
ダラスは自殺を図っていた。
身寄りがなくなり、頼るあてもない。キャンパに行き着いたものの、これといった生き甲斐はなく、ただ毎日を消費して、最後はどうでも良くなった。
投げやりな若者の考えだが、実行できる人は数少ない。
「そうか、そこに俺が入ったのか...」
ベンチに座り、虚脱感に襲われる。
もうどのくらいこのベンチに座っているのかわからない。
1〜2時間だろうか、それとも30分程度なのだろうか。
「おや、お兄さん。浮かない顔してますねー何か困り事ですか?」
「・・・・」
「私でよければ相談に乗りますよ?」
「君は・・・」
「私はシアン。シアン・レイよ」
「シアン?」
シアンっていう青っぽい色が確かあったな
「そう。シアン!何か思い詰めているみたいだけど、どうしたの?」
急に馴れ馴れしいな。
「色々と複雑で人に話す気分じゃないんだ。」
「ふーん、まぁ生きていれば悩みごとなんてたくさんあるもんね。ところで君の名前は?」
「俺の名前...」
「言いたくない?」
少し考えた。
「・・・ダラスだ。ダラス・ローレライ」
佐藤翔平ではなくダラス・ローレライと答えた自分に少し違和感があった。
「ダラス!いい名前だね!ダラスは普段何をしているの?」
「・・・何もしていない。両親が死んでからこの街に出てきたが、何もできずに過去を引きずっていたところだ。」
今の自分に起きたことではないが、昔の自分に起きたことを話した。
「・・・そっか。大変だったね。」
シアンがそっと肩に手を添える。
「ねぇ、ご飯食べ行かない?」
文章を書くことって楽しいですけど大変ですね。
地道に少しずつ時間のある時にカタカタしていきます。
スローペースですけど、お付き合いください。