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【電子書籍化】敗戦国から賠償品として来ましたが、王太子殿下は優しく甘えん坊の精霊もいるので、幸せに暮らしています。  作者: 琴乃葉


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聖夜祭は忙しく楽しいものです.1


 本格的な冬が始まり、木々の葉もほとんど落ちたというのに、街はどこか浮き足だっている。

 この国には聖夜祭というものがあり、それを皆が楽しみにしていると教えてくれたのはパン屋のアルル。


「また広場に屋台が出るのですか?」

「いや、屋台はでないよ。皆が親しい人と家で美味しい物を食べながら楽しい時間を過ごすんだよ。だからパン屋は当日忙しいし、花も各家庭で飾るからレイチェルも忙しくなるよ」

「そうなんですか、それなら仕入れる花を増やさなきゃ」


 籠も用意して、海綿も作らなきゃと段取りを考えているレイチェルから、アルルはいつものように花を買うと「風邪が流行っているから気をつけるんだよ」と言い足早に帰っていった。



 そして、聖夜祭一週間前。


 綺麗で長持ちすると評判のリーチェ花屋の花籠は、小さな街でこの冬一番の話題となっていた。


 サイネリア、プリムラ・ポリアンサ、スノードロップ、カレンデュラ。


 冬に咲く花は少ないけれど、無いわけではない。フェンシルが紹介してくれた花屋は異国の花も取り扱っていて、それなりの種類が店頭を彩っている。


 最近はアレンジメントを教えて欲しいという常連客もでてきて、沢山の花が咲く春から始めようかと考えたりも。


 客足が途絶えた昼過ぎ、レイチェルは隣のパン屋で買ったクロワッサンとベーグルでお昼をすますことに。大分手慣れた様子でスープを温めていると、ピットが肩に乗ってきた。


『うるさい奴に呼ばれたから、ちょっと行ってくる。聖夜祭には帰るから、絶対フェンシルを二階に招き入れちゃいけないよ』

「うるさい奴?」

『うん、精霊王ともいう』

「えっ! 精霊王に会いに行くの?」


 精霊王が実在したこと、精霊王とピットに親交があったことに驚き瞳を瞬かせるレイチェルに、ピットは力なく頷く。行きたくないとその表情が如実に語っている。


 レイチェルが精霊王について詳しく知ったのはドーラン国にきてからのこと。精霊王の怒りをかった当時の国王は、精霊王に関する文献を全て燃やしてしまった。雨が降るのを精霊の気まぐれと言う日常に溶け込んだ言葉こそ残ったけれど、精霊王がなんたるかを公に語る者はいない。


 ドーラン国の文献によると、遥か昔、精霊王に気に入られた娘の一族が、精霊王の力を借りて動乱を治め一つの国として纏めたのがシリル国らしい。


 その娘が亡くなってからは、数十年から数百年ごとに精霊王の加護を受ける娘が現れ、その時代の王の妃となった。加護を受ける娘が不在の間は王家が国を治めていたのだが、数百年前の王太子が精霊王の加護を受けた娘を蔑ろにし、精霊王に刃向かったために怒りをかい天変地異が起き、豊かな国が砂漠と洪水の多い土地となってしまった。


 それ以降、精霊王の加護を受ける娘は現れず、精霊王は今も王族を嫌っているらしい。


「ピットは精霊王の家臣なの?」

「違うよ。そういうんじゃない。確かに精霊王の方が力はあるけれど、俺は精霊王のような力を欲しいとは思わない」


 ふーん、とよく分からないままにレイチェルは返事をする。この質問をするのは初めてではないし、はっきりした答えが返ってきたこともない。


 ただ、ピットのような精霊は他にはいないらしい。

 この世に存在する精霊が、精霊王とピットだけとなれば何かしらの関係があると考えるのが普通で。


 普段はしつこいぐらいに付き纏い話しかけてくるピットだけれど、この話題になると口が重くなるので、レイチェルも深く詮索しないようにしている。


ピットは戸締りをしっかりすること、火はちゃんと消すこと、フェンシルを部屋に入れないことをレイチェルに約束させると、何度も振り返りながら飛び去っていった。


 その姿が見えなくなるまで手を振ると、途端に不安が込み上げてくる。台所の隅にある作業台に温めたスープを置き、端に置いてあった椅子を持ってきて腰掛け食事を口にするもどこか物足りない。

 

(……心細い)


 一人になるのは実はこれが初めて。

 成人しているのだから一週間ぐらい一人で留守番できて当たり前なのだろうけれど。

 なんだか胸がぞわぞわ、ぽっかり穴が空いたようで落ち着かない。

 これが寂しいということかと、レイチェルが小さなため息をついた時、花屋の玄関扉に付けているベルがなった。


「こんにちは。ここで花籠を作ってくれるって聞いたのだけれど」

「あっ、はい! 承っております。どのようなデザインにいたしましょう」


 レイチェルは食べかけのベーグルはそのままに、返事をしながら廊下に出て花屋に繋がる扉を開けた。


 店内には、白髪頭の優しそうな老女が立っていて、赤い花の花籠が欲しいと言うのでレイチェルは花を選ぶことに。その後もひっきりなしに客が訪れ、ベーグルの残りを食べるのは夜になってしまったけれど、寂しさは幾分か紛れることができた。



 

 そろそろ店を閉めようと思った時、サナがシュトレンを持って現れた。


「沢山作ったからおすそ分けに」


 レイチェルの作った花籠がプロポーズに使われたこと、サナの雇い主が花籠を気に入ってくれたこともあり、そのあともリーチェ花屋を頻繁に訪れてくれて今ではすっかり友達に。


「ありがとう。……ねぇサナ、シュトレン、って何?」

「知らないの? ナッツとかドライフルーツ、スパイスそれからバターをふんだんに練り込んで砂糖をまぶした聖夜祭のお菓子よ。日持ちするからゆっくり食べてね」

「分かった。ずっしりとしていて随分重いのね。これだけで朝食になりそう」


 まだほんのり温かいシュトレンを机に置きながら、早くピットが帰ってくれば良いのにと思う。

 一人で食べる食事はなんだか味気ない。


 フェンシルはレイチェルの心配をよそに、ピットの存在を知ってからも三日に一度は訪れてくれるし、その度に珍しい果物やお菓子、時には髪飾りなども持ってくるようになった。

 食事の際は、それまで向かいに座っていたけれど、机の真ん中に陣取るピットでレイチェルの顔が見えないと、最近ではテーブルの角を挟むようにして座るように。


 でも、この時期は年内に片付けなければいけない書類が山積みで、聖夜祭まで来れないと昨日会った時に言われている。


 だから、ピットはずっと断り引き伸ばしていた精霊王への訪問を、このタイミングですることにしたのだけれど、もちろんそんなことレイチェルは知らない。


「ねぇ、明日、お店お休みだよね?」

「ええ。お客様も多いから開けた方が良いのかもしれないけれど……」

「だめだめ、忙しい時ほどちゃんと休まなきゃ。あのね、明日聖夜祭のプレゼントを買いにいくのだけれど、レイチェルも一緒に行かない?」

「聖夜祭のプレゼント……?」


 それは何、と首を傾げるレイチェルにサナは鳶色の瞳を丸くする。


「えっ、もしかして聖夜祭のプレゼントも知らないとか? レイチェルってもしかして異国から来たの?」


 鋭い質問にうっと言葉を詰まらせる。

 シリル国にも聖夜祭はあるし、神父様がクッキーをくれたこともあるけれど、ずっと塔にいたから世間一般的な風習は知らない。


「……すごく田舎に住んでいたから。聖夜祭は知っているけれどクッキーを貰ったぐらいで特に何かしたことはないわ」


 苦し紛れの言い訳だったけれど、レイチェルのことを擦れていないちょっと世間知らずなところがある、と思っていたサナはあっさりと納得した。

 それから、アップルパイを食べたり、シュトレンを作ったり、プレゼントを贈り合うことを教えてくれた。


「レイチェルもプレゼントを用意しなきゃ。きっとフェルは準備しているわよ」


 フフフっとサナは笑いながら意味深な目をレイチェルの指輪に向けて来る。


 ラピスラズリの指輪と収穫祭での踊り、それから頻繁に訪れて来るフェルは、レイチェルの恋人に違いないというのがご近所さん達の暗黙の了解となっている。それはフェンシルの思惑通りで、レイチェルも特に否定はしていない。


(恋人のふりをしてくれていると分かっているけれど、普段からプレゼントを贈ってくれるフェンシル殿下なら、聖夜祭のプレゼントも用意してくれているかも。貰ってばかりでは申し訳ないわ)


「……サナ、私、誰かにプレゼントを贈ったことがないのだけれど……どうしたらいいかな?」


 頬を染め小さな声で呟くレイチェルにサナは「まぁ!」目を細める。


「恋人への初めてのプレゼントなのね。分かった、私に任せて!! 明日の午後誘いに来るから準備して待ってて」

「ありがとう、サナ」

「いいよ、気にしないで。あ~、その初々しい反応、私までドキドキしてきちゃう!」


 何がいいか楽しそうに話すサナを見ているうちに、レイチェルも聖夜祭が楽しみになってきた。


 

聖夜祭、ほぼイコール、クリスマスです。

緩い設定ですのでお許しを。


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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