プロローグ
よろしくお願いします。
第二話、夕方頃投稿します。
「ここがレイチェル様の住む場所です」
資源に乏しいシリル国が隣国ドーラン国に攻め入って始まった戦争は、三か月で終わりを迎える。
敗戦国であるシリル国から馬車に揺られること半月。賠償品に関する書類を持って勝利国ドーランにたどり着いたレイチェルが休む間もなく連れて来られたのは、王宮の端にある手入れされていない古びた建物。
書類に書かれた賠償品の品目の中にはレイチェル・シリル王女の名前。書類を受け取った国王は暫く眉を顰めた後、侍女を呼びレイチェルを王宮の端にある今は使われていない屋敷へ案内するように命じた。
「では私はこれで失礼いたします」
蔑むような目線で冷ややかに言い放って、侍女は出て行く。それをレイチェルは黙って見送った。
レイチェルはシリル国王の血を引く、といえば王女の立場ではあるけれど、彼女の扱いはそれとは程遠いものだった。理由は一つ、彼女の母親が平民の踊り子で国王の寵愛を失ってからは塔に隠されるように育ったから。そして、まるでずっと使っていないオモチャを体よく押し付けるかのようにドーラン国に送りつけた。
レイチェルは足でサッと床の埃を払う。床はおそらく大理石。だけれど、埃が被って元の色すらよく分からない状態。窓には蜘蛛の巣がはっていて、壁も天井も薄汚れている。
大きなシャンデリアと埃まみれの調度品が、もとはそこそこ身分のある人が住んでいた屋敷であることを物語っている。が、人が住まなくなってかなりの時間が経っている。
夕陽が差し込んでいるので今はまだ部屋は明るいけれど、春の夕暮れはそれほど長くはない。
「ピット、明かりをつけて」
レイチェルは何もない空中に向かって言葉を放つ。すると、シャンデリアの小さな蝋燭にいっせいに火が灯る。
『レイチェル、褒めて褒めて!』
小さな龍の聖霊かポンと、突如現れたかと思うと、その金色の鬣をレイチェルの前に突き出した。
「ありがとう、ピット。凄いね」
レイチェルがその鬣をふわりと撫でれば、尻尾を左右に振って喜ぶ。大きさはレイチェルの両手のひらに載るぐらい。水の精霊で、蛇に似ている、と言われるのを本人は一番嫌がっている。
「明日から大掃除だね」
『俺、頑張る! 頑張ったら褒めてくれる?』
「うん、一緒に頑張ろう」
レイチェルが拳を握れば、ピットは黄色い瞳をキラキラさせて宙でくるりと回った。
※※※※※
レイチェルはシリル国王と平民の踊り子の母との間に産まれた。国王と王妃との間に産まれた兄が 一人いるらしいけれど会ったことはない。当然ながら彼と同じように育てられることはなかった。
母親は異国の血が混じった踊り子で、シリル国では珍しいピンクブロンドの髪と、淡い紫色の瞳を持っていた。踊りもさることながら、国王は珍しいその容姿を気に入って、暫く手元におくことにした。
気まぐれのような寵愛が一人の娘をこの世に呼んだ。娘は母親と同じピンクブロンドの髪と淡い紫色の瞳を持っていた。しかし、娘を産んで体調を崩した母親はあっさりと国王の寵愛を失った。
母娘は王宮の敷地内にある塔で暮らし始め、国王の足は次第に遠のくことに。レイチェルが五歳の時、母親が流行病でなくなってからは、国王の記憶からも消え失せたようで誰も来なくなった。
シリル国は王の独裁国家。王の機嫌を損ねたらたとえ宰相とて首をはねられる。だから皆レイチェルをいないものとして扱った。それでも最低限、飢えぬよう食事は運ばれ、服も成長に合わせ一年に二枚ほど新調はしてもらえたが。およそ王女とも思えぬ暮らしぶりだったけれど、時折訪れる牧師に読み書きを習い、庭に花を植え本人は特に不満もなく暮らしていた。
それも全てピットのおかげ。母親が死んで突如現れた水の精霊はいつもレイチェルの傍に寄り添い、助けてくれた。話し相手であり遊び相手、眠るときは一緒に眠る。母のいない寂しさをピットはずっと埋め続けている。
シリル国は貧しく、頻繁に飢饉と洪水に見舞われる。
レイチェルが十七歳の時、大飢饉が国を襲い、あちこちで内乱が起きた。それを鎮めるため、国王は豊かな隣国、ドーランを攻めると宣言した。多くの臣下の反対を押し切ったこの侵略は、多数の犠牲を払い失敗に終わる。
戦いに勝ったドーラン国は、シリル国の領土の四分の一と、毎年一定額の税を納めることを要求してきた。
シリル国は領土は東西に長く、その真ん中を山脈で分断されていてる。西側が砂漠、東側は川の多い平地となっている。当然、ドーラン国は平地を望んだ。しかし、平地を半分奪われては、国が傾く。
シリル国王は、娘レイチェルに一方的に作った協議書を手渡し、ドーラン国に向かわせた。協議書には賠償品についての項目もあり「シリル国西側半分と、山脈、それから娘を献上する」と記されていた。属国となり二度と歯向かわない証として、自分の娘を賠償品として差し出したのだ。
当然、ドーラン国王は当惑した。しかし、賠償品については王子であるフェンシルに任せており、そのフェンシルはシリル国からまだ戻っていない。賠償品だけならねじ伏せることもできたが、一国の王女を差し出されては無茶なこともできない。とりあえずフェンシルの帰りを待った上で議会の判断を仰ぐこととし、レイチェルはひとまず離れにある屋敷をあてがわれた。
お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!
☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。




