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2.幸せは人それぞれです

 旦那様になる方には、想われている方がいるのか。その方のために努力なさっているなんて、素敵な方なんだろうなあ。


「そういうところが…」


 私がぼんやりと考え事をしていると、目の前の義母がこちらを睨んでいた。


「とにかく、この支度金は渡りに船……じゃなかった。おまえにとっても良い話だろう!」

「……そうですわね」


 うっかり口を滑らせた父に、にっこりと気付かないふりをして微笑む。


 華美なサロンに、義母と義妹のきらびやかな全身を見て、悟った。


 この小さなジンセン伯爵領が急に羽振りが良くなるはずもなく。


 義母と義妹が派手にお金を使っている、と噂では聞いていた。


 屋敷にいたメイドの数が明らかに少なくなっているのは、そういうことだろう。


 あの支度金が私に使われることは無い。豪遊の支払いに充てられるのだと。


「お話はわかりました。私はいつから赴けば良いのでしょうか?」

「三日後だ」

「みっかご……」


 急な話に思わず固まってしまう。


「あの、お店もありますし、支度だって……」

「ああ、あの店はもう畳めば良いだろう。最近は廃れているだろう。伯爵家の娘がいつまでも平民の真似事など……。それに支度も必要ない。身一つで来て良いとあちらが言っているのだ」


 父は私が王都の店に身を寄せているのを、見て見ぬふりをしていた。それを、今更……。


 店は母の形見なのに……


 それに、身一つで良いと言われているものの、支度金を貰っておいてそれはないんじゃないだろうか?


 あの支度金は本当に私に一銭も使われないらしい。


「ジェム殿下とは幸せになりますので、ご心配なく」


 父に言われるがまま、ソファーに腰を沈め、俯いていると、隣のティナがくすくすと笑った。


「今代の聖女がティナだなんて、本当に誇りだわ!」


 ティナと同じストロベリーブロンドの髪をかき上げ、義母が微笑んだ。


 そう。ティナは13歳の時に、突如として聖女の力を発現させた。


 それまで私の婚約者であるこの国の第二王子、ジェム殿下とすでに親しげにしていた彼女は、これを機に一気に殿下の婚約者へとすり替わったのだ。


「あなたの店のハーブが王室御用達とかで調子に乗っていたようだけど、ジェム殿下のご不興も買って、この国に居場所は無いのだからちょうど良かったんじゃない?」


 私から話しかけると無視をする義母は、嬉しそうに、一方的にまくし立てた。


「お荷物のあなたがこの家のためになるのですから、喜びなさい」

「はあ……」


 色々と言いたいこともあるけど、追い出されたとはいえ、今まで好きにさせてもらってきた。そこは感謝している。


「今までありがとうございました。ご恩を返せること、嬉しく思います」


 私がそう言って礼をすれば、義母の顔から笑みが消えた。


「お前の、そういうところが嫌いなのです!!」


 義母は立ち上がると、勢いよくドアを開けて、サロンを出て行ってしまった。


 嫌われているのは知っていたけど、面と向かって言われると、悲しくはある。


「では、使者殿が迎えに来てくれるから、三日後にまた来なさい」


 そう言うと、父は慌てて義母を追いかけて行った。


 父は義母にべた惚れしている。いわゆる、愛人だった義母は、母が亡くなってすぐに、この屋敷にやって来た。


 母を蔑ろにした父には軽蔑したが、一つ年下の妹には罪も無いし、むしろ可愛くて仲良くしたいと思った。


 仲良くやっていけると、思った。


 しかし、正妻だった母の娘である私を、義母は毛嫌いし、近付かなかった。


 子供だった私とティナは、最初は仲良くしていた。ティナも私を姉と慕ってくれていた。


 でも、それを義母が許さなかった。次第に引き離され、ティナは徐々に私を蔑むようになった。


 聖女の力が発現し、ジェム殿下の婚約者になってからは一層それに拍車がかかり、私は家に居づらくなり、追い出された。


「魔女であるお姉様が結婚出来るなんて、良かったですわねえ」


 サロンに残された私とティナは二人きり。


 ティナは嬉しそうに言った。


「私なら、平民の愛人なんて許せないけど、お金にだけは困らなさそうね」


 私が結婚することで、隣国からの仕送りを期待しているのだろうか。


「ティナは王家と結婚するのだから、贅沢し放題じゃないの?」

「もちろん、ジェム殿下は贈り物を沢山してくださるわ。でも、殿下の自由になるお金は少ないんですもの」


 ティナは頬に手を付きながら息を吐いた。


 充分な宝石を手にしてもなお、足りないと言う。この可愛い顔をした妹は随分、我儘になったようだ。


 我儘と言えば、ジェム殿下も第二王子ということで、ずいぶん甘やかされているし、本人も怠惰だった。


 この二人、お似合いだけど、国にとっては困ったものね……。


 そんな二人の行く末を案じていると、目の前の妹が怖い顔をしていた。


「ハーブだけが取り柄だったお姉様がそれを失って、婚約者も失って、お飾りの結婚をする! 一方の私は、聖女としてみんなに愛され、この国の第二王子様と結婚するの!! 私の方が幸せなのよ!!」


 力一杯の幸せマウントに、うんうん、と頷く。


 確かに傍から見れば、ティナの方が幸せなのかもしれない。でも、幸せって、比べる物じゃないからね。


 私は私で案外幸せなのだ。


 しかも、ロズイエ王国と言えば、自国で薔薇を栽培している。薔薇は美容のハーブとして多くの女性に喜ばれるのだ。しかも、ハーブの加工方法を独占している!


 どんな所だろう、とうっとり考えていると、ティナの鋭い眼差しが再び注がれた。

 

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