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魔女の私と聖女と呼ばれる妹〜隣国の王子様は魔女の方がお好きみたいです!?〜  作者: 海空里和


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18/39

18.約束です

「ここだよ」


 オリヴァー様に連れて来られたのは、街から少し離れた薔薇園。


 アーチ状の黒い門の奥には、色とりどりの薔薇が咲き誇っている。


「薔薇がこんなに!」

「ここは鑑賞用なんだけど、サンブカ気に入ると思って」

「うん! 連れてきてくれてありがとう!」


 オリヴァー様に興奮してお礼を言えば、彼は口に手を当てて俯いてしまった。


「オリヴァー様?」

「! 中に入ろう!」


 気付けば繋がれたままの手を引かれて、薔薇園に足を踏み入れる。


 近くに寄ると、薔薇の甘い香りが一気に鼻をかすめた。


「幸せ……!!」

「そうか、良かった」


 食い入るように薔薇を見つめる私に、オリヴァー様は嬉しそうに言った。


「ハーブとして加工される薔薇は、多くの領で栽培されている。この近くだと、マーク領かな」

「! 希少な薔薇も作る所だね!」


 オリヴァー様の話に思わずキラキラした目で見てしまう。


「……いつかサンブカを連れて行くよ」

「本当?!」

「ああ。約束だ」


 薔薇を見れる嬉しさに思わず嬉々として答えてしまったけど、社交辞令なんじゃないのかな?そうふと考え直す。


「約束だ、サンブカ」


 オリヴァー様は真剣な瞳で私の手を取った。


「う、うん。ありがとう……でも、私、オリヴァー様に充分すぎるくらいしてもらったよ? 私にもう時間なんて割かないで、もっと大切な人に……」


 真剣すぎる瞳に耐えきれず、私は何かを話してないと落ち着かず、一気にまくしたてる。


 真剣なオリヴァー様の瞳が一瞬、揺れた。


「サンブカ、俺は結婚した……。けど……」


 大切な人、を『エルダー』だと私に勘違いされたと思ったのだろう。彼の表情は暗い。


 好きな人がいるのに、友人に勘違いされるのは辛いかもしれない。


「オリヴァー様、奥様を愛していないんですね……。 私で協力出来ることがあれば言ってくださいね」

「!」

 

 『エルダー』としては身を引くことしか出来ないけど、平民の『サンブカ』なら出来ることもあるかもしれない。お相手もオスタシスの平民らしいし。


「サンブカ……! 俺は……」


 私の言葉にオリヴァー様は泣きそうな表情をしていた。


 『エルダー』の存在が彼を苦しめているのだと、胸が痛んだ。


「俺が好きなのは………!」

「オリヴァー殿下」


 オリヴァー様が私に何かを伝えようとしていたけど、それはロジャーによって遮られてしまった。


「お前……! どうしてここに……!」

「殿下の行動は把握しております」


 ちっ、とオリヴァー様はロジャーに舌打ちをすると、私の手を開放した。


「サンブカ、どうやら時間のようだ」

「はい」

「約束、忘れないで」

「はい」


 眉を下げて笑うオリヴァー様に私は何とか笑顔で返事をした。


『俺が好きなのは……』


 その続きは?


 ーー聞きたくない。オリヴァー様の好きな人なんて、知りたくない。


 ロジャーが来てくれて良かった。


 私はドキドキする心臓を押さえ、ふうー、と息を吐いた。


「私がサンブカ様を送って行きます」

「……頼む」


 オリヴァー様はそう言うと、「またな」と護衛と一緒に薔薇園を後にした。


 私は彼の後ろ姿が見えなくなるまでぼんやりと見つめていた。


「エルダー様も戻りましょうか。一旦お店に顔を出しますか?………っ!」


 私の方を向いたロジャーが固まる。


 私が涙を流していたからだ。


「ご、ごめん……何でもない、から……っ」


 心配そうな表情をするロジャーに私は慌てて目を擦る。


 ロジャーは私の手を取って、擦るのを止めさせると、そっとハンカチを押し当てた。


「エルダー様……いえ、サンブカ様、率直に聞きます」

「何……?」


 ハンカチで涙を拭いながら真剣に問うロジャー。


「あなたはオリヴァー殿下……ロズのことをどう思っていたのですか?」

「!」


 本当に率直すぎた。


 思わず涙が引っ込んでしまう。


 でも、ロジャーの真剣な問いに、私も正直に話すことを決した。


「……最初は良い友人だと思っていたの。思っていた、けど……彼に想う人がいると知って、悲しい」


 口にすると、涙か再び溢れてきた。


「さっき、オリヴァー様が想い人のことを友人として打ち明けてくれようとして、嫌だと思ってしまったの……!」


 決壊したように涙が次から次にと溢れ出す。私の想いも口にしてしまうと、もう止まらない。


「私、ロズが……! オリヴァー様が、好き……!」


 言ってしまうと、感情が溢れ出て、私は子供のように泣いた。


 ロジャーは何も言わず、ただ涙を拭いながら、そこにいてくれた。


『エルダー』として彼と仮初の夫婦を過ごした後は、友人の『サンブカ』に戻る。


 彼の幸せを願っている。それは嘘じゃない。


 でも胸がこんなにも痛む。


 オスタシスにいた頃とは比にならない。報われない想いがこんなにも辛いものだと、私は初めて知った。

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