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ジェンダーギャップ指数と日本の教育問題



◇ジェンダーギャップ指数 Gender Gap Index:GGI


 2021年3月、世界経済女性フォーラム World Economic Forum:WEF は、男女格差を計るジェンダーギャップ指数を発表しました。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成されており、完全平等を1、完全不平等を0として表示されます。日本の総合スコアは、0.656でした。これは、156か国中、120位というものでした。なお、前年は、153か国中、121位で、ほぼ横ばいの結果でした。

 各分野ごとに見て見ると、経済0.604(117位)、政治0.061(147位)、教育0.983(92位)、健康0.973(65位)となっています。2021年の世界の平均スコアは、経済0.583、政治0.218、教育0.950、健康0.957です。世界の平均と比較して見ると、とくに政治のスコアの低さが際立っています。



挿絵(By みてみん)



 実は、前年の政治のスコアは0.049でした。わずかに改善しているのですが、順位にすると144位から147位へと下がっています。また、経済に関しては、0.604ですが、順位にすると156か国中117位となっています。

 教育について、さらに詳しく見てみると、識字率と初等教育の2項目に関しては、ともに1.000ですが、中等教育(中学校・高等学校)で0.953(129位)、高等教育(大学・大学院)で0.952(110位)です。

 政治については、女性の国会議員の数の割合は9.9%、大臣は10.0%であり、過去50年間における首相は存在しないことが指摘されています。また、経済分野に関しては、女性管理職の割合が少ないこと(14.7%)、パートタイムの職に就いている女性の割合が男性の約2倍であり、女性の平均所得が男性より43.7%低くなっていることが指摘されています。

 2006年と2021年のスコアを比較して、この15年間の変化を調べてみると、総合では、0.645から0.656と改善しています。個別の項目で見ると、経済に関しては、0.545から0.604に改善されていますが、教育では0.986から0.983、健康では0.980から0.973、政治では0.067から0.061へとわずかながら悪化しています。




◇政治・経済分野だけではない日本の問題


 ジェンダーギャップ指数を見ると、大きく分けた4項目のうち、教育と健康がほぼ1に近いように見えます。そして、経済が真ん中より少し上、そして極度にゼロに近い政治が目を引きます。たしかに、大きく見ればその通りなのですが、もう少し細部にも注意して見る必要があります。

 それは、教育の項目です。教育分野は、識字率、初等教育、中等教育、高等教育の4つの項目で評価されています。識字率と初等教育が1.000であるがゆえに、そこに隠れてしまって見えにくくなってしまっている事実があります。中等教育というのは、中学校や高等学校に相当しますが、ここの指数は0.953です。数字自体は、1に近いように感じられますが、順位にすると129位です。また、大学や大学院などに相当する高等教育の項目では、0.952です。この順位は、110位です。1に近いかどうかよりも順位の方が、身近な問題としてわかりやすいかもしれません。

 実は、海外では、高等教育の進学率が女性の方が高い傾向にあります。男女共同参画白書令和4年版によると女性の大学進学率は、51.7パーセント、男性は58.1パーセントでした。G7各国で男女別の大学進学率を比較すると、日本だけが男女で逆転していることがわかります。



挿絵(By みてみん)



 大学院の進学率では、男女の差は格段に広がります。女子で5.9パーセントです。男子の14.6パーセントに比べると、はるかに少ない進学率です。これは、女性研究者の少なさにも直結する問題です。女性研究者の割合の国際比較のグラフを下に示しました。日本だけ極端に少ないことがわかります。



挿絵(By みてみん)



 女性の政治家や管理職の育成という面からも、大学院の進学率の格差問題は、もっと検討されるべきであるように思われます。

 男女共同参画白書では、女性のとくに理系分野での進学率の低さが指摘されていました。しかし、理科系に限らず、大学院を修了した後の就職という問題を考えると、かなり厳しい現実があります。

 実は、文系分野と理系分野とでは、大学院をめぐる問題が微妙に異なっています。まず、文系分野では、博士課程に進学して、標準とされる5年で博士号を取得できる人は、ごく一部にすぎません。理系分野で「ポスドク」といわれるポストドクターの任期制による身分の不安定さが問題となっていますが、文系分野では、そのポスドクにすらなれない、博士号が習得できないという問題があります。「単位取得満期退学者」などと呼ばれ、このことは、文部科学省によって改善の促進が提唱されています。さらに、理系とは異なり、公的な研究機関はほとんどありません。

 そして、文系、理系を問わず、博士号を取得してもすぐに大学の教員や研究所の職員になれるのは、ごく一部に過ぎません。研究者の道を選択すると任期制という数年単位の身分しか確保されず、経済的に非常に不安定な立場に追いやられることになります。修士課程修了者の就職率は、常に博士課程修了者を上回っています。



挿絵(By みてみん)



 人口100万人あたりの博士号取得者数の国際比較は、下のようになっています。



挿絵(By みてみん)



 イギリス、ドイツ、韓国、アメリカ合衆国、フランスに比較すると、日本は、最も少ないことがわかります。

 博士課程を修了することは、就職の機会を低下させるという厳しい現実があります。日本においては、男女を問わず、学問を修めたということへの評価が正当に行われていないのではないでしょうか。普段、大学を卒業した人のことを「大卒」といいます。博士や修士ほど知られていないかもしれませんが、四年生の大学を卒業すると「学士」になります。大学を卒業しているかどうかが単なる差別や企業で採用する際のふるい分けとして使われているために、逆に、学問の中身をきちんと評価するということがおろそかになっているように思われます。就職という点だけに限定すると、名の知れた四年制大学を卒業したということだけが有利に作用しているように見受けられます。



 修士号取得者について見てみると、さらに日本の特異性がよくわかります。



挿絵(By みてみん)



 人口百万人あたりの修士号取得者数は、イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国、フランス、韓国に比較すると、日本は非常に少ないことがわかります。日本においては、学問をするということが社会で生き抜くための武器になり得ていないのではないかと考えざるを得ません。




◇『科学技術の状況に係る総合的意識調査』に見る研究者をめぐる問題



 文部科学省 科学技術・学術政策研究所が実施している調査に『科学技術の状況に係る総合的意識調査』があります。研究者や有識者、約2,300名を対象に同一の回答者から5年に渡って回答を得るというものです。2022年8月に公表された回答結果を見ると、現役の研究者たちの置かれた厳しい状況がわかります。


 全体を通して伝わってきたのは、男女を問わず、研究者たちは、疲弊しきっているということでした。特に不満のない人は、自由記述欄にわざわざ記入しないことを考慮しても、たいへん悲惨な状況に置かれていることがわかります。任期付きの不安定な地位、低収入、雑用の多さなど問題は、山積みです。とくに女性の場合、研究を続けるためには祖父母やパートナーの手厚い支援が必須で、出産、育児によって、研究者の道を断念せざるを得ないこともあるということでした。印象的なのは、「今の研究者たちが楽しそうでないから、若者たちは博士課程に進学しないのだ」という意見です。


 設問自体に疑問を投げかける意見も見られました。とくに「女性研究者」という線引き自体に違和感を唱える意見は多く、男女に関係なく研究者として評価すればいいのではないかという見解が複数見られました。また、ライフステージに合わせた支援を男女関係なく受けられる仕組みが強く求められています。


 例外はあるものの男女で意見が分かれる傾向にあったのが、女性への理解、支援に関するものでした。「女性研究員への支援・理解は十分すぎるほど充実しているので、これ以上進むと、男性研究員とのバランスが崩れかねない」という男性からの意見がある一方、「制度があっても産休、育休がとれない」「夜間でも預けられる高額な保育所を利用してまで仕事を続けることは難しい」という女性からの切実な訴えもありました。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って民間企業では在宅ワークが普及したことを踏まえ、研究者の在宅ワークについての意見も見られました。「今後、子育ての時期を迎えるが、研究活動と出産、育児との両立に現実味が持てない。研究者であっても、在宅ワークができるような環境整備が必要である」という切実な声に耳を傾けてほしいと思います。そして、これらの問題の根底にあるのは、任期制という問題です。数年という限られた期間内に成果を出さないと次につながらないため、出産、育児によってキャリアが中断すると、その次につなげることは難しいという厳しい現実があります。


 さらに、問題を複雑にしていると思われるのが、「数合わせ」としか言いようのない急激な女性職員の増員を図ろうとする女性優遇問題です。ポストを公募する際に、女性に限定してしまうなどの過度な女性優遇は、結局、男性研究者の不評を招き、男女間で軋轢を生むという不幸な構図になりかねないと感じました。「女性研究者を採用するという号令が優先されすぎているように思う」という意見がありました。十分な土壌がないのに急激に女性職員の数だけ増やすことの危険性を指摘しておきたいと思います。また、女性の頭数をそろえるために数少ない女性研究者が会議に出席しなければならなくなり、研究時間が確保できないなど、首をひねりたくなるような状況も見受けられました。




◇女性議員の割合


 日本のジェンダーギャップ指数をもっとも押し下げているのは、女性の国会議員の数の問題です。かつて、日本でも女性議員が多数、生まれた時期がありました。しかし、結局、それは「マドンナ旋風」などともてはやされたものの、一過性のブームに終わってしまいました。頭数をそろえることに終始してしまい、人材を育てるという視点が欠けていたと言わざるを得ません。


 ここで、G7各国の女性議員の占める割合を比較してみたいと思います。1番多いのは、フランスで39.5パーセント、次いでイタリアの35.7パーセント、イギリスの33.9パーセント、ドイツの31.5パーセント、カナダの29.6パーセント、アメリカ合衆国の27.3です。日本は、9.9パーセントでした。世界の平均は、31.2パーセントです。日本の女性議員は、格段に少ないことがわかります。




挿絵(By みてみん)




 次に、日本における衆議院における女性議員の占める割合の推移を見てみたいと思います。

 1996年(4.6%)、2000年(7.3%)、2003年(7.1%)、2005年(9.0%)、2009年(11.3%)、2012年(7.9%)、2014年(9.5%)、2017年(10.1%)、2021年(9.7%)となっております。1996年以降、全体としては増加傾向にありましたが、2009年の11.3%をピークに、一挙に下落、2012年には7.9%まで落ち込みました。その後、少しずつ回復する傾向が見られましたが、2021年には、9.7%となり、再び1割を切る結果となりました。



挿絵(By みてみん)




◇女性の活躍が期待できる社会


 ここ数年、炎上広告の騒動が度々発生しています。その背景を探ると、日本の抱える様々な問題が見えてきます。


【美少女アニメの功罪】

 日本では、アニメに関する視聴年齢制限が機能しているとは言い難い現状があります。男女を問わず、幼いころから無自覚に、テレビ等を通じて美少女アニメなどを視聴する機会が多く、性的表現に対する感覚がかなり麻痺しています。あの国民的アニメのドラえもんのしずかちゃんの入浴シーンが問題視されるようになったのは、ほんの数年前からです。

 セーラームーンなどの女児向けと考えられてきたアニメが、悪と戦う女性像を描き、少女たちに希望を与えた一方、成人男性からは、違った意味で高い評価を得ました。このことは、女児に女性は肌の露出によって男性から高い評価を受けることができるというメッセージを伝え続けているように思えます。そして、美少女アニメが成人男性に評価されることがわかってからは、女児向けと言いながら、実際は成人男性の欲望の権化のような作品が多数生まれるようになってきました。

 近年、動画配信サービスの普及により、海外のアニメを視聴することが身近になってきました。機会があれば、ぜひ海外の子ども向けアニメを視聴してみて下さい。日本のように裸が出てくることがなくて、その違いに驚かれると思います。日本で子ども向けと言われているアニメは、成人向けに指定すべきではないかと思われる作品が少なくないことに気付かされると思います。


【小説家になろうのアダルト広告問題について】

 実は、本人が知らぬ間に性的コンテンツに触れて、感覚がマヒしている状況を作り出しているという事実のもっとも象徴的な存在は、当サイトだと思います。広告欄を見る気がなくともいやでも裸の女性のイラストが卑猥な言葉とともにひっきりなしに出てきます。

 最近では、さすがにあからさまに性行為を表現した動く広告こそ姿を消しましたが、かえって、巧妙化してきたようにも感じられます。

 例えば、ゲームの宣伝で、少女のイラストとともに「プレイする」という言葉を表示する際に、わざわざプレイだけを赤字で表示して、レイプという言葉を想像させるなどの手口です。いくら表面上は、ジェンダーに配慮したように見せかけても、結局、その網をかいくぐるようなことが横行する現実があります。

 また、別の広告では、人体としての構造上の整合性は無視され、不自然に身体を折り曲げた女性の胸や股間を表示するイラストもあります。

 この原稿を書いている時、一番下の広告欄には、ミニスカートを下から覗くような角度で肌色の太ももが大きく描かれ、その横に少女の小さな顔が描かれていました。皮肉にも、あの月曜日のたわわの全面広告の女子高生のミニスカートの脚の部分を連想させる構図です。右上には、アルファベットでNIKKEとあり、その右にIの字を連想させる細い線があります。

 当サイトのアダルト広告問題について私は、運営、内閣府、国連女性機関、政治政党などの各種団体、マスコミ等に改善の必要性を訴え続けてきました。皆様もどうか、当サイトにエッセイや感想等を投稿することで満足することなく、実社会の団体に意見を送ってください。ほとんどの団体はメールを24時間受け付けています。内輪で盛り上がっていても、何も変化は起こせません。星の数とか、ランキングなどに一喜一憂するよりも、有意義な活動になると思います。


【多数決の弊害】

 専門家でなくともアンケート調査を外部に発注できるようになりました。その解釈をめぐって、アンケートをまるで多数決のように捉えて、過半数の意見を正義であるとし、過半数に満たない意見を持つ人を差別する書き込みが見られたのは、とても残念なことだと思います。小学生の頃から、学校では、多数決で決めるという方法を徹底的に教え込まれます。多数決で決めれば、時間がかからずに効率的なのかもしれません。多数派の意見を正義であると考え、過半数に満たない意見を持つ人をまるで悪者であるかのように差別したり軽蔑したりする価値観を育てる要因のひとつに、この学校教育があるのではないかと思います。


【正解が与えられる教育】

 自分の判断に自信を失い、正解を多数派の意見に求めるようになっているのかもしれません。「正解」を与えられて満足する習慣は、子どもの頃からの教育に原因があると思います。じっくり時間をかけて考えを深めるという教育が軽視されてきた結果なのではないでしょうか。自分の考えに自信がないから、多数派に所属することで満足してしまい、結果として、少数派を差別することで自尊心を保つという構図が出来上がっているように思われます。


【未来に希望を託す】

 結局のところ、女性を蔑ろにすることで自らの自尊心を保つしかない社会が、差別的な広告を生んでいるのではないでしょうか。性的なアダルト広告にしか興味を示さない大人たちを大量に生み出している今の日本を救うのは、知的レベルの向上ではないでしょうか。あまりにも低俗なコンテンツが大量に生み出されているのに、何にも対策を講じようとしない現状を憂慮しております。

 大人たちが、価値観を変えることは難しいかもしれません。しかし、子どもたちには、それが可能ではないでしょうか。女性を蔑ろにするような価値観を子どもたちに漫然と押し付けるような環境は、改善してほしいと思います。十年後、二十年後には、女性たちが苦しまない社会になっていることを強く願っています。


【知性を重んじる社会】

 先進国の中でも、群を抜いて低い日本の大学院修士課程、博士課程修了者の割合が、知性が軽んじられているという我が国の現状を象徴しているように思われます。大学院の博士課程に進学すると定職につけなくなるからやめておいた方がいい、という通説がなくなる社会であってほしいと切に願っております。知性を重んじる社会は、女性の活躍が期待できる社会でもあると信じてやみません。






次回は、炎上リスクを診断する簡便な方法を提案し、炎上の構造を解明してみたいと思います。

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