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朝ごはんはお味噌汁とおにぎり。今日も幸福な一日を。

作者: 一戸瀬ユキ

 根菜のお味噌汁に、おかかのおにぎり。

 今日も、どうにか用意する事ができた――私がほっと息をついていると、良い匂いにつられるように、彼が二階から姿を現した。


「おはよう」

「おはよう」

 いつものようにちゃぶ台の前に座り、『いただきます』をして朝ご飯を食べる。

「一日の始まりに味噌汁を飲むと、なんか気分が上がるんだよな」

 そう言って満足げに笑う彼のために、毎日和食を用意したいと思う。しかし食料の備蓄次第では、そうも行かないのがつらいところ――それを申し訳なく思いながら、私は夜のうちに書いておいたメモを差し出した。


「はいこれ、今日のリクエスト」

「醤油、砂糖、味噌……何これ? 調味料ばっかり」

「半年前に探してきてもらったものが、一気に尽きたの」

「マジか」

「ちなみにこれが、最後のお味噌を使ったお味噌汁です」

「……もうちょっと味わっとけば良かった」

 空になった汁椀を見下ろして、彼はしゅんと肩を落とす。

「……うん。絶対に見つけてくる」

 けれどすぐに表情を引き締めて、ぽつりと呟きをこぼした。



 朝食を済ませた後、彼は一旦二階に戻り――そして身支度を整えて、居間に戻ってきた。

「じゃ、そろそろ出掛けてくる」

 背中には大きなバックパック、肩には猟銃。腰のベルトには拳銃も挟んでいる。

 完全装備の彼に、私は鞘に納めたサバイバルナイフを差し出した。

「これ、持って行って。()いでおいたから」

 弾が尽きた時に、一番頼りになる相棒。「ありがとう」と受け取ったそれを、彼は太腿にくくり付ける。


「駅前のスーパーを見て来る」

「うん」

「常温保存の食料なら、倉庫にまだ残ってるかもしれないからな」

「分かった。気をつけて」

「……必ず帰るから」

「うん、待ってる」

 最後に、互いのぬくもりを分かち合うように、私達はしっかりと抱き締めあう。

 こんな身体の私は、彼と『狩り』に出る事はできないから――その背中を見送って、ドアに厳重な鍵をかけた。



 終末が訪れて、壊れてしまった世界。

 滅びた街は、恐ろしくて危険なものであふれている。


 ――けれど、それでも。

 そんな場所で、わずかに残された食料を探し集めて。

 限られた備蓄をやりくりし、温かい食事を用意して。


 私達は今日も、ささやかで儚い、けれどとても幸福な一日を過ごしている。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほっこりな日常から徐々に雲行きは怪しくなり… 何だか色々と考えさせられた物語でした。 うーん、儚いです。。
[良い点] 「どうにか用意」に少し不穏なものを感じ、そのあとだんだんと世界の様子の深刻さが明かされていく感じがとてもよかったです。 完全装備な上にナイフを携えて、彼はこのあとどんな危険な目に遭うのだろ…
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