占い師
「あなたの運勢は最悪です」
今になって、ここに来たことを後悔した。ちょっとした好奇心で迂闊に来る所ではなかったのだろう。怪しげに装飾されている部屋の中を見て、改めてそう思った。
「では、どうすれば良い」
この選択も迂闊だった。相手は待ち構えていたかのように嘲笑い、そして坪を取りだしこう言った。
「この坪を買いなさい。あなたの運勢は必ずや上がる事でしょう」
失礼ながら溜め息がでる。胡散臭く、そしてまた怪しい。
「まったく…誰がこんな坪を買うんだ、馬鹿馬鹿しい。こんな古ぼけた坪、傘立てにもなりやしないじゃないか!」
勢い良く立ち上がり、帰ろうとした瞬間。占い師は強情なことに、泣きじゃくりながら私に助けを求めた。
「お願いします…もう生活が出来ません。食費は切りに切り詰めているんです…五百円、いや百円でも良いです。とにかく今日生きていける分のお金をください…」
足を掴み、離さないといった様子で、占い師は咽び続けた。流石に薄情者だと思われそうで、私はほんの数百円、占い師に渡した。
「ああ、ありがとうございます。どうぞこの坪を貰って下さい…」
強制的に押し付けられた坪はほこり臭かった。
帰宅後、もう一度坪を見た。相変わらず埃が被っていて、ひびの入っている不良品だ。立派なことに蓋が付いている。取ってやろうとふたを開けたらもくもくと煙が出てくる。なんと坪の中から不思議な格好をした男が顔を出したのだ。
「やあ、どうも」
「誰だお前は」
「お前とは失礼な、私はとてつもない力を持った魔神だというのに…」
不定形な体をゆらゆらと動かし、自称魔神はそう言った。
「坪から出してきたお礼として何か一つ願いを叶えよう。何でも言いなさい」
色んな欲が脳をよぎったが、どうも信用できない。ここは一つ、賭けに出るとしよう。
「では私のこれからの人生に失敗と言うものを無くしてくれ」
「承知しました…はい、これであなたは人生きっと上手くいくでしょう…では」
魔神はその場から姿を消した。夢のようで実感が湧かなかったが、数日も経つと確かに、仕事の調子は良くなっていった。
しかし私は今、失敗したと思っている。少なくとも今はそう思っている。何故なら…
「…ああ、そこは右に行って、近道をしてはなりませんよ。時計を見るのもダメです。バスが来ますよ、気を付けて歩いて下さいね…あっ、それと…」
失敗の選択をすると、あの魔神が耳元でとやかく言ってくるのだ。毎日がうるさくて仕方ない。