全てを諦めた少女はもう何も諦めない
エリアスの1日はこの家の誰よりも早く始まる。
いやに羽振りのいいルタン男爵家の使用人にしてはボロボロの服を着て、今日も始まる。
「あら。エリアス、あなた本当に貧相ね。本当にこの家に相応しくないわ。なぜあなたみたいな子を旦那様は家で働かせているのかしら。」
「・・・・」
「何か返事をしたらどうなの!」
ガシャン
「・・・・申し訳ございません。奥様。」
エリアスはそう言って男爵夫人が割ったカップを片付ける。
パシンッ
「このノロマ!忘れないで。あなたは私たちに救われたの!恩くらい返しなさい。」
「・・・・申し訳ございません。」
毎日理不尽に叩かれて、エリアスの心はボロボロだった。
エリアスは10歳ごろからルタン男爵家の使用人である。
実はこの少女、どこかから攫われたらしく、男爵領内で男爵が奴隷商を捕らえたときに救われた少女だった。他の子達は孤児院や、親元へ帰されたが、エリアスはよっぽどショックだったのだろう、自分の名前以外の記憶がなく、親も生きているか分からず、身元もわからずじまいだった。本当は孤児院へ行く予定だったのだが、エリアスはとても整った顔をしており、男爵が気に入ったので、男爵が使用人として引き取られることになったのだ。
しかし、男爵夫人は自分よりも美しいエリアスが許せなかったらしく、男爵にも気に入られているエリアスをとことん嫌っていた。
男爵がいる前では使用人に優しい理想的な夫人を演じているが、使用人の前では癇癪や八つ当たりは当たり前、手を出すこともあるとても感情的な人だった。
エリアスはただ男爵家でお世話になっている恩を返さなければと、理不尽な仕打ちにも耐えていた。
そんなある日、
「エリアス。ちょっといいかい?」
「はい。旦那様。」
男爵に呼び出されたエリアスは男爵の執務室にいた。男爵はでっぷりとした体を椅子に沈める。
「そろそろエリアスの将来を考えなければと思ってな。まぁ、決まっているんだが。」
「・・・・」
エリアスは男爵が何を言いたいのか分からなかった。
男爵はずっとこの家にいてくれたらいいと言っていたので、ずっとこの家で働くつもりだった。
たとえ夫人からどんな仕打ちを受けても。
「・・・・私の将来、ですか。」
「エリアスにはわしの愛人になってもらう。」
「奥様がいらっしゃるではないですか!」
エリアスは珍しく声を荒げた。
男爵には感謝しているが、それとこれとは話が別だ。これ以上奥様の機嫌を損ねたくない、と。
エリアスは10歳からの7年間、夫人からの理不尽な折檻を受け続け、トラウマになっている。
男爵は立ち上がり、エリアスの前に立つ。
「わしが何のためにお前を引き取ったのか気づいてなかったのかい?はじめから愛人にするためだったんだよ。」
エリアスは目の前が真っ暗になった。
親切な男爵家が不憫な自分を引き取って働かせてくれていたと思っていた全てが覆った。
そして全てが腑に落ちた。
男爵夫人が特に自分に厳しいこと、他の使用人たちとは扱いが違うこと、他の使用人たちからの憐憫の視線の意味。
エリアスは涙が溢れた。
今まで信用していた人に裏切られ、自分には頼る人なんて1人もいないと自覚したから。
茫然とするエリアスを男爵は引きずるように寝室に連れて行く。
男爵夫人はお茶会で不在、使用人も男爵の執務室近くには許可なく入らないようにキツく言われているので逃げ道はない。
「やっとエリアスが手に入る。」
男爵のねっとりとした視線を感じる。
エリアスは絶望した。
ここで逃げても頼る人はもちろん、行く場所もないからだ。
ベットに倒され、押さえつけられる。
「エリアス」
顔が近づけられる。
エリアスの唇と男爵のそれが触れ合う直前。
バタバタと騒がしい音が聞こえる。
「何事だ?」
拘束が緩んだ時、エリアスは自分を叱咤し、何を捨ててでも男爵から逃げることを決意した。
男爵の下でもがいて抜け出すことに成功する。
「エリアス!貴様、わしが今まで生かしてやってきたことを忘れたか!」
反射的にビクッとする。大声を出され萎縮してしまう。
何も言わずに俯いていると、男爵が近づく。
「今のは目を瞑ってやる。次はないぞ。」
そう言ってエリアスの髪を引っ掴んだ。
「いっ・・・・!」
もう終わりだとエリアスが諦めた時、
バンッ
「ルタン男爵!我が国で禁止されている奴隷商人と繋がっている証拠を発見した!余罪も考慮して、今すぐ捕らえよとの陛下の命だ。」
「なんだと!わしはそんなことは知らんぞ!」
エリアスは男爵の髪を掴む力が緩んだ隙をついて部屋の隅へ隠れるように座り込む。
男爵は呆然としている。エリアスがそばにいないことも気づかないくらいに。
すぐに男爵は捕らえられた。
暴れていたが、鍛えられた騎士たちに敵うはずもなく、連れて行かれる。
エリアスは、部屋の隅で遅れてやってきた恐怖で震えていた。
「先程髪を掴まれていましたが、大丈夫ですか?」
男爵に逮捕状を突きつけていた男の人がエリアスを気遣う。
「大丈夫、、です。」
そう言いながら立ち上がろうとする。
しかし、足まで震えていて、立つことができなかった。
その様子を痛ましそうに見ていた男性はエリアスを抱え上げ、歩き出した。
「・・・・あの?騎士様、どこへ・・・」
「とりあえず私の屋敷で貴女の手当を。」
彼はエリアスの腕や足のあちこちにあるあざや打撲痕に気づいたのだった。
彼は安心させるように柔らかく笑う。
「あの、失礼ですがあなたは?」
「申し遅れました。私はラルク・イルスト。イルスト侯爵家当主。今日は王国騎士団長として参りました。」
そう言ってラルクは来る時に乗ってきたであろう馬に私を乗せて、その後ろに飛び乗った。エリアスをしっかりと抱え直し馬を進める。
「あ、あの!侯爵様。私は大丈夫ですから・・・・」
「とりあえず手当はさせて下さい。傷が残ってしまう。」
「ですが・・・奥様が帰ってきてしまいます。その時に私がいないと・・・」
また叩かれる。
男爵夫人は家に帰るとまずエリアスを呼びつける。すぐに行かないと叩かれた。だからエリアスは夫人が帰る時間にはすぐに駆けつけるようにしていた。ある種の強迫観念だ。
顔色が悪いエリアスに気づいてラルクは安心させるように腕に力を込めた。
「ご安心を。ルタン男爵夫人も罪を犯しているので捕まります。もうあの家には帰らなくていいのですよ。」
「そう・・・・ですか。」
エリアスは安堵よりも不安が勝る。
帰る場所がなくなるからだ。
どうしようと考えているうちに男爵家とは比べものにならないほどの大きさがある屋敷の前で止まった。
「着きました。どうぞ。」
そう言ってラルクは先におり、手を差し出す。
エリアスはおずおずとその手を取り、馬から降りる。
「では失礼。」
そう言ってラルクはエリアスを抱き上げる。
「・・・侯爵様!」
「貴女は怪我をしています。早く手当をしないと。」
そうこうしている内に屋敷の中に入って客室らしき部屋に通される。
「彼女の手当を。」
ラルクは侍女に指示を出す。
エリアスは屋敷の侍女に軟膏を塗ってもらった。
手当をしてもらい、暖かい飲み物まで出してもらって一息ついていた。ラルクもいる。
「あの・・・・」
「ん?何でしょう?」
「私はこれからどうすれば・・・・」
「君は・・・っと、名前を教えていただいても?」
「エリアスと申します。」
「・・・・エリアス?」
ラルクはそう言って考え込んだ。
「・・・・あの?侯爵様。」
「・・・ぁあ、すみません。何でもありません。エリアスさんはご実家はどこに?」
「・・・・私は、」
今までの事情を全て話す。
奴隷商人に売られる寸前だったところを男爵に助けてもらったこと、幼少期の記憶がないこと、そして、男爵家でのこと。
涙が溢れそうになったが、なんとか堪えた。
全て話すと、なんだかスッキリした。
エリアスは今までの1人で抱えるしかなかった自分の気持ちを誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。
「私にはもう・・・居場所がない!どうすればいいのか分からない!!」
「そうだったんですか。・・・・辛かったな。エリアス、よく頑張った。」
ラルクはそう言ってエリアスを抱きしめた。
もう我慢できなかった。
誰にも認められず、疎まれ、裏切られてズタボロになったエリアスの心が悲鳴をあげていた。
ラルクがその心の叫びを受け入れてくれたような気がしたからだ。
今までどんなに辛くても1度も泣かなかったエリアスが、ラルクの優しさに触れて涙を我慢できず泣いた。
「落ち着いたか?」
「はい。侯爵様、申し訳ありません。」
涙が上質な服に染み込んでしまった。
深々と頭を下げる。
「気にするな。あと俺のことはラルクでいい。」
「・・・ラルク、様?」
「それでいい。あと俺はこっちが素だ。さっきはエリアスが怖がらないように丁寧にしたんだが、これからエリアスは俺付きの侍女にするから。気を遣わないで接することにした。いいか?」
「いいのですか?私は身元がはっきりしていないのですよ?」
「ああ。これからは俺がエリアスを守るから。もう誰にも傷つけさせない。お前の居場所はここだ。」
それからの日々は幸せだった。
「エリアス。紅茶を淹れてくれ。2人分だ。」
「はい。ラルク様」
初めは紅茶を淹れるたびに文句をつけられて叩かれた男爵家での記憶がよみがえり、震えて紅茶を淹れられなかったが、今では完璧にできるようになった。
「どうぞ。」
エリアスは誰か約束でもしているのかとなんの疑問も持たずに紅茶を2人分入れ、テーブルの上に置いた。
「ありがとう。」
ラルクはそう言って休憩のためソファーに座った。
「・・・?何してる?エリアスも座れ。」
男爵家でも侍女と主人が同じ空間で座るなんてことはなかった。ましてここは侯爵家。座っていいのかとエリアスは戸惑い、しかし主人の言うことに従う。
「エリアスの入れた紅茶は美味いな。ほら、お前も飲め。」
ラルクは戸惑っているエリアスを見てフッと笑う。
言われるがままおずおずと手を伸ばす。
そしてゆっくりと飲む。
「・・・・ふはっ!」
ラルクが吹き出した。
初めてエリアスが戸惑っているところを見て、可愛いと思ったからだった。
「っっもう!笑わないで下さい。」
エリアスの方もラルクには心を開くようになり、表情も豊かになった。
「っはは!・・・悪い悪い。」
そう言ってエリアスの頭を撫でる。
「っっ〜!また子供扱いしてますね!」
エリアスはいつのまにかラルクに恋をしていた。頭を撫でられるのは純粋に嬉しく、撫でて欲しいと思うが、妹を甘やかすような仕草だったから少し嫌だった。1人の女性として見てほしい。今のエリアスの願いだった。
そんな幸せな日々も終わりを告げる。
ラルクの婚約者候補という女性がラルクが屋敷にいない時に押しかけてきた。
婚約者候補かはともかく、貴族令嬢なので丁重にもてなす。執事長や侍女長はラルクへの連絡や部屋の用意などで忙しそうだ。その上、その令嬢がエリアスに案内するようにと命令した。
「・・・お嬢様。こちらでございます。」
エリアスは俯きがちに案内する。
この令嬢に男爵夫人と同じような雰囲気を感じ怖くなる。
(大丈夫。もう弱い私じゃないわ。ラルク様だってすぐに帰ってきてくれる。)
特に何も会話せず侍女長に言われた応接室へ着いた。
「こちらです。」
そう言って退出しようと礼をする。
「・・・ねぇ、貴女。最近ラルク様が囲ってるって噂の方かしら?」
「・・・・なんなのことでしょう。」
おそらくその噂はエリアスのことだ。
今まで女性を誰も寄せ付けなかったラルクが専属侍女を持ち、仕事中もそばに控えさせているのでそんな噂が出たのだろう。
「しらばっくれないで!」
パシン!
令嬢はエリアスの頬を叩いた。
「わたくしは伯爵令嬢よ!どこの馬の骨かも分からない貴女なんてラルク様に相応しくないわ!わたくしの方が貴女なんかよりもふさわしいの!」
どこの馬の骨ともわからない、か。
久々に聞いた自分の出自への侮辱。エリアスはイルスト侯爵家がどれだけ優しい世界だったか思い知った。
しかしそれよりも傷ついたのは、『貴女なんてラルク様に相応しくない』という言葉だった。
エリアスは心の底でそのことは自覚していた。
しかしその気持ちよりもラルクを好きな気持ちが大きく、その卑屈な気持ちに蓋をしていた。
エリアスは決意する。
これ以上ラルクに迷惑はかけられない。この屋敷を出て行こう、と。
「今すぐ出ていきなさい!貴女なんて侯爵家に相応しくないのよ!」
ドンッ
そう言ってエリアスを突き飛ばした。
「っっ!」
壁にぶつかり、息が詰まる。
バタン!
「エリアス!」
息を切らしてラルクが走ってきた。
「!・・・エリアス!大丈夫か?・・・貴様!エリアスに何をした!」
そう言ってラルクは私を隠すように立った。
今まで聞いたことがないほど低い声だった。
「っっ!そこの女が悪いのですわ!わたくしは身の程というものを教えて差し上げたのですわよ!」
「・・・黙れ。」
「わたくしは悪くありませんわ!」
「黙れと言っている。貴様の言い訳など聞きたくない。そもそも貴様は誰だ?誰の許可を得てこの屋敷に入った?」
「わたくしはリズリーン・アリーナですわ!ラルク様の婚約者候補ですわよ。」
「俺は貴様など知らん。誰に吹き込まれたかは知らんが、このことは貴様の責任だ。これから貴族として生きていけると思わないことだ。・・・エリアスに手を出した時点でもうお前の貴族生命は終わったんだ。」
「なんですって?!なぜその女に手を出しただけでわたくしがそんなことになるのですか!その女が出ていけば全て解決なのに!」
「・・・エリアスに手を出しただけ?エリアスが出て行く?貴様・・・これ以上罪を重ねたくなかったら大人しく帰ることだな。このことはアリーナ伯爵家に正式に抗議させてもらう。」
呆然としたリズリーンは使用人たちに囲まれて部屋から追い出される。
「エリアス。立てるか?すまない。・・・守れなくて。」
「いえ・・・ありがとうございました。」
リズリーンと言う令嬢は帰ったが、エリアスの心に刺さった言葉は消えない。ラルクの顔を見てしまったら意志が揺らぐと言葉少なに自室に戻った。
エリアスは急いで出て行く用意をする。
(ラルク様。ごめんなさい。)
体調がすぐれないと言って、侍女仲間に仕事を代わってもらった。
あまり持ち出すものはない。
最低限の衣服と、以前ラルクと街へ出た時、『俺の気持ちに答える気になったらこれを付けてくれ。』と照れ臭そうに言われてプレゼントされたネックレスだ。本当はラルクにもらったものは置いていかなければならないはずなのに、これだけは手放したくなかった。
【勝手にいなくなってごめんなさい。ラルク様。身分違いにも恋をしてしまいました。私はラルク様を愛しています。でも、ラルク様に迷惑をかけられません。私の勝手を許してください。】
思いの外長くなってしまったメモを机の目立つところに置き、真夜中を待つ。
夜、暗闇をまるい月が明るく照らす頃、エリアスは荷物を持ち、人目を避けるように窓から出て行こうとする。
(さようなら。大好きでした、ラルク様。)
コンコンッ
「っっ!?はい。どなたですか?」
悲鳴を抑え、静かに返事をする。
「俺だ。ラルクだ。」
えっ!と驚きの声をあげそうになった口をふさぐ。
「どうしたのですか?こんな夜中に。」
「すまない。体調が悪いと聞いたものだから心配で。どこか痛いところはないか?夜中にすまない。」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。私は大丈夫ですので。」
「・・・そうか。」
「はい、・・・おやすみなさいませ。」
さすがに夜、女性の部屋に来るのはまずいと感じたのかラルクは素直に引き下がる。
「ああ、おやすみ。また明日。元気な顔を見せてくれ。」
エリアスは返事ができなかった。
涙がこぼれそうになるのを必死に抑え、嗚咽を堪える。
ゆっくりとラルクが去って行く。
完全に気配が消えたのを確認し、エリアスはくずおれる。
(ラルク様・・・ごめんなさい。)
次の日の朝、エリアスの部屋には誰もいなかった。
あったのは涙が溢れた跡がついた手紙だけだった。
「エリアス!洗濯物を取り入れてきてくれるかしら?」
「はい!院長先生。」
今、エリアスはイルスト侯爵領の隣の領にある孤児院に身を寄せている。
エリアスはもっと遠くに行こうと思っていたが、外に出たことがないエリアスにはきつく、途方にくれているところに院長に声をかけてもらった。
そこで歳をとり子供達の世話が大変な院長のお手伝いとしておいてもらうことになったのだった。
「エリアスー!どこいくの?あそぼーよ!」
「ぼくもー!」 「わたしもー!」
「ええ。洗濯物を取り入れてからね。」
「ぼく手伝うよ!」 「「わたしもー!」」
「ふふっ。ありがとう。」
可愛い子供達に癒されながらエリアスは平和な日々を過ごしていた。
しかし、心の傷は癒えず、夜には男爵家での出来事、男爵夫人にお前さえいなければ!と詰られる悪夢を見るようになってしまった。
エリアスにはがっかりしたよ、と失望され、婚約者の元へ行ってしまうラルクの夢も・・・。
この孤児院に身を寄せて1年。
エリアスの心にはぽっかりと穴が空いている。
これはもう埋まることはない。
・・・はずだった。
「エリアス!お客様よ。貴女を呼んでと仰っているけれど、知り合いかしら?」
「どなたでしょう?」
「確か・・・ラルク、と。名前を言えばわかると言ってらしたわ。」
ラルク・・・
エリアスは悩んだ。
勝手にいなくなっておいて、迎えにきてくれたからとどんな顔をして会えばいいだろうと思ったからだ。
「・・・・。」
「エリアス?大丈夫。顔色が悪いわよ。」
「・・・いえ。大丈夫です。その方は今どこに?」
「お庭にいるわ。子供たちはお昼寝の時間だから気にせず行ってちょうだい。」
「ありがとうございます。」
エリアスは深く礼をして院長に言われた通り庭に行く。
庭に行くとそこには懐かしい姿があった。
「エリアス。」
「ラルク様・・・。」
無言で抱きしめられる。
懐かしい香り。懐かしい暖かさだった。
「エリアス。すまなかった・・・。俺が・・・俺のせいで!」
「ラルク様のせいではありません!勝手にいなくなってごめんなさい。でも、私は・・・・・・。」
ラルクはエリアスの言葉を遮り、エリアスの前にひざまづく。
「エリアス。俺と結婚して欲しい。」
「っっ!・・・・だめです。ラルク様。私とでは身分が違いすぎます。」
「エリアス。すまない。もっと前からお前に言っておけばよかった。」
そう言って庭に置いてある椅子に2人で座る。
ラルクが語り出したのは、エリアスの出自のことだった。
ラルク曰く、エリアスは公爵家の令嬢だったらしい。
病弱で公爵領で療養していた頃、エリアスを疎まれて公爵領で軟禁されていると勘違いした借金を抱えた使用人が奴隷商に売り飛ばしたのだ。その男はとんでもない男で、親に疎まれてまともな保護者がいない子供を狙って売り飛ばしていた。そのあと奴隷商に口封じとして殺されたらしい。そのあともエリアスの行方は分からなかった。
それもそのはず、奴隷商はその時すでに男爵に捕まっており、エリアスは男爵家に囲われていたからだ。
男爵はその時から奴隷商と繋がっており、その奴隷商とは仲間割れで秘密裏に男爵が口封じをしていた。
男爵はエリアスが公爵令嬢だったと知っていたが、手放す気がなかったので、使用人たちにはキツく口止めし、エリアスに外出禁止を命じ、エリアスを囲っていた。
エリアスの父である公爵は今までエリアスを必死に探していたが、男爵の隠し方が巧妙で今まで見つからなかった。
ラルクの所属する王国騎士団が男爵の罪を暴き、エリアスを保護したことで、公爵令嬢誘拐事件も解決に近づいたみたいだ。
公爵とラルクは親しく、エリアスという娘がいたが、誘拐されて行方不明になったという話を聞いたことがあった。
ラルクはエリアスの名前を聞いた時、公爵の面影がエリアスにあることに気づき、エリアスのことを調べていたのだった。
そしてエリアスが出て行ったあとに公爵家の娘であると明確な証拠が男爵家から発見された。
公爵はエリアスが今回は自分の意思でいなくなったことを知り、深く悲しんだ。
しかし、エリアスが生きてくれているならと探さなかった。
ラルクはリズリーン伯爵令嬢を問い詰め、エリアスへした無礼を公爵令嬢への侮辱ととり、リズリーンを社交界から永久追放した。伯爵家はリズリーンを見捨て修道院に行かせた。リズリーンは元々格下の令嬢に陰湿な嫌がらせをしていたらしく、そのことも加味され、今回の処遇となったようだ。
その後ラルクはエリアスの居場所を見つけ出した。
半年後のことだった。しかし、ラルクはエリアスの孤児院での子供たちへ向ける微笑みを見て、その微笑みを奪うことになるかもしれないと、怖くてエリアスを迎えに行くことができなかった。
しかし、エリアスの部屋だった場所に行った時ふと思い出した。
ラルクは部屋中探す。
そして確信する。
エリアスはあ・の・ネ・ッ・ク・レ・スを持って出て行ったと。
ラルクはそのあと孤児院に行き、エリアスの首元に光るネックレスを見つけ迎えに行く決心をしたのだった。
「・・・・そうだったのですか。」
「今まですまなかった。」
「私こそ、何も知らず勝手に傷ついて出て行って・・・・すみませんでした。」
「・・・あの、さ。エリアスがそのネックレスつけてるってことは俺の気持ちと一緒ってことでいいんだよな。」
「・・・はい。私はラルク様を愛しています。ずっとそばにいたいです。もう、この気持ちは諦めません!」
「フッ、そうか。俺もエリアスのことを愛している。結婚してくれるか?」
「はいっ!」
エリアスはやっと心からの笑みを浮かべることができた。
FIN.