この聖夜を君と
「翼!クリスマス私に付き合いなさい!!」
僕のクラスに乗り込んで僕のことを指名する『女王様』もとい幼なじみ下川百合。百合は勉強、運動、家事などなどなんでもこなせる完璧超人。おまけに学校の文化祭で行われたミスコンで断トツで優勝する美少女ぷり。これだけを聞いたら誰もがすごいモテてると思うだろう。
しかし、彼女にはこれらの長所を一気に無にしてしまうほどの唯一にして致命的な弱点がある。傍若無人、唯我独尊、つまりありえないくらい自己中なのだ。そんな百合に人が寄り付くわけもなくついたあだ名が『悪役令嬢』や『女王』。誰がつけたのか知らないけどこのあだ名はかなり的を射ている。百合はとある大企業の社長の娘なのだ。まさに生粋の令嬢なのだ。悪役は知らないけど。僕の母はそんな下川家の家政婦をしており小さい頃から僕と百合は遊んだりするのだ。百合が自己中なのは昔からで散々振り回されて来たので今更僕は気にしないので関係はずっと続いている。噂であくまで噂で聞いた話なのだがそんな僕についたあだ名が『女王の使用人』なのだ。何故だ…
僕はため息をついて百合に返事をする
「いつも言ってるけど直接クラスに乗り込んで来るのはやめてくれないかな?」
「断固拒否するわ!」
拒否された。しかも何故か気持ちいいくらいのドヤ顔付きで。周りから視線を集めるからやめて欲しいのな…たまに思うが百合に羞恥心と言うものはあるだろうか?無くしてしまっているのなら是非とも見つけて欲しい。
「そんなことよりもクリスマス空いてる?」
「そもそも僕なんかに拒否権なんてないだろ?」
「あら、よく分かっているじゃない」
「伊達に長く女王様の相手をしてきたわけじゃないからね」
「それじゃぁークリスマスの日の18時にうち集合ね。絶対くるのよ?」
「はいはい、女王様のおおせのままに」
「うむ、苦しゅうない」
僕達は2人で笑いあう。こうやって僕の悪ふざけに付き合ってくれる時は普通の女の子みたいで可愛いのに勿体ないなぁ。
百合が教室を出ていこうとするとクラスの山田さんに声をかけられた。
「やっぱりぃ~2人ってクリスマスの夜に会っちゃうようなぁ~関係なのぉ~?」
妙な口調で妙なことを聞いてくる。すると何故か百合はドアの前に立ち止まった。
「ただの幼なじみだよ」
「えぇ~ほんとぉ~ですかぁ~?」
すると山田さんは僕に興味を失ったのかどこかへ行ってしまった。気づくと百合はもうクラスから居なくなってしまった。その後クリスマス当日まで僕達は話すことはなかった。いつもなら百合がうちのクラスに来るのに…
クリスマス当日久しぶりに百合から連絡が来た。
「クッキー焼いたからうちに来なさい!10分以内に来ること!」
お久しぶりの無茶振りをされた。うちから彼女の家までは歩いて15分、走っても10分で着くかどうかというところ。たが、百合のこういった無茶振りはいつものこと。こんなこともあろうかと百合の家の近くのカフェでスタンバイしていたのだ。出会った当初はよく百合の無茶振りに振り回されたが、もう10数年の付き合い。無茶振りへの対応は慣れたもの。直ぐに百合の家に向かう。着いた家は大豪邸。この家を見る度に百合はお金持ちの娘なのだと再認識される。3分もかけて百合の家の馬鹿みたいに広い庭を抜けて玄関に辿りつく。インターホンを押すと彼女がわざわざ玄関まで迎えに来てくれた。
「あら、早いじゃない。次からは5分で十分かしら?」
「君は僕になにか恨みでもあるの?」
僕は彼女にジト目を送る。
「あるわ!すごーくあるわ!なんでずっと連絡くれなかったのよ!?」
「いつもなら百合から連絡くるだろ。そんな君が連絡しないんだから一応社長令嬢なんだから忙しいのかなぁー?と思ったんだよ」
「一応は余計よ!これからは何があっても翼から連絡すること!わかった?」
怒らせちゃったかな?僕は自分の頭をポリポリかいた。僕達はリビングに着くとそこにはクッキーが置いたあった。
「ここに座って」
僕は椅子に座って置いてあったクッキーに手を出す。百合が作るクッキーは絶品だ。食べると口いっぱいにバターの香ばしい香りが広がる。
やっぱり美味しい。以前、金持ちの娘である百合が料理を上手い理由を聞いたら
「だ、だって結婚したい子は金持ちじゃないから必要になるから前田さんに教えてもらったの!あ、後しゅ、しゅきな子には手料理を食べさせたいの…あーもーう!!急に変なこと言うな!!」
普段のお嬢様口調を崩して噛み噛みでめっちゃ怒られたのだ。ちなみに前田は僕の名字つまり前田さんは僕の母なのだ。それ以降この話題は禁句になっている。
「やっぱり百合作るクッキーはうまいな」
「当たり前でしょ?誰が作ったと思ってるの?」
「はいはい、百合さんですよぉ~」
「それで今日はどこに連れていってくれるのかしら?」
「は?」
「何固まってるのよ。男がレディのエスコートするのは当たり前でしょ?どこに連れて行ってくれるの?」
僕は固まる。だってありえないだろ!!今まで百合と僕が出掛ける時は百合が完璧な計画を立てて僕を振り回すのがお約束。その百合が僕にどこに連れて行ってくれるかと聞いているのだ。ありえないだろ…僕が1人で混乱していると百合が急にイタズラに成功した子供みたいに笑いだした。
「はぁ~面白い!!最近の翼はどんな無茶振りをしてもなんなくこなしてくるからつまらなかったのよ。久しぶりに翼が慌てる姿を見て面白かったわよ♪︎」
こ、こいつ無茶振りって自覚あったのかよ…
「そんなこと言うなら僕は帰るぞ」
「あら?そんなことしたら前田さんに『翼に約束破られた』って泣きつくわよ。それでもいいなら帰っていいわよ」
「ぐっ」
基本的にはうちの母さんは百合の味方。そんなことされたら数日間ご飯抜きなど普通に普通にやって来るだろう。
「わかったよ。で、結局どこ行くの?」
「翼がなにも考えてなかったのは分かっていたから私が考えてあるわよ。着いてきなさい」
百合について行くと近所では有名にイルミネーション場に連れていかれた。もう18時でクリスマスの今日はもう真っ暗だ。木などに取り付けられたLEDがキラキラ光って幻想的な世界を作り出してる。
「少し寒いわね」
百合が寒そうに腕を摩っている。百合の格好は可愛いのだが薄着で防寒性能は低そう。風邪を引いても困るので僕は自分のコートを脱いで百合にかけてあげる。
「ふへぇ!?き、急に何するのよ!」
威嚇する子猫みたいに睨んでくる。
「寒いんでしょ?僕ので良ければ着なよ」
「え、えっと、その~ありがとう…」
「どういたしまして」
なんか調子狂うな。いつもなら絶対お礼なんてしないのに。僕と百合はイルミネーションを大方見終わった。頃合いかなぁ~と思い少し前を歩く百合を呼び止める。
「百合、メリークリスマス」
僕が百合にプレゼントしたのはヘアピン。少し前に百合と出かけた時に百合が可愛いと言っていたのだ。けど女王様が気に入っただけあってなかなかのお値段。ずっと連絡しなかったのは百合が忙しいと思ったのではなく僕がバイトで忙しかったのだ。
「い、いらない!!」
突き返された。僕は驚いて頭が状況に追いつかなかった。だが、だんだん追いついてくると怒りが込み上げてきた。
「いくら僕だからってそれは!」
「翼がいいの!」
「え?」
それはないだろ。と言おうとすると彼女に遮られた。
「翼が欲しいの!!翼が好きなの!!翼の特別で居たいの!!そしたら代わりに私は翼のどんなお願いだって聞く!…ダメかな?」
何を言われているか分からなかった。怒っていたのに頭がボーとしてでも心の中には暖かいもので満ちていく。そうか、僕は百合に告白されたんだ。そう気づくと頭が急にクリアになった。だって答えなんてずっと昔から決まっている。
「どうせ僕なんかに拒否権ないんでしょ?」
すると、百合は驚いて次に悲しそうになってでも最後は嬉しそうに
「あら?分かってるじゃない」
世界で1番可愛い笑顔をでそう言ってくれた。
「ちょっと目を閉じて」
「うん」
僕はプレゼントの封を切ってヘアピンを取り出した。雪の結晶の意匠が付いたヘアピンだ。それを百合の髪につけてあげた。
「やっぱり可愛い。似合ってるよ」
「当たり前でしょ?今度は私の番、目閉じて」
何をされるのか僕はドキドキしてると頬になにか触れた。湿っぽくてしっとりした何かが。僕の心臓はもうドキドキからバクバクへと突入した。慌てて目を開けるとそこには恥ずかしそうに俯いてる百合がいた。
すると急に白いものがひらひらと舞ってきた。雪だ。イルミネーションの光に反射して輝いている。まるで僕たちを祝福してくれてるように…
「寒いな」
急に寒気を感じた。そうだコートは百合に貸したままだったんだ
「こうしてれば寒くないでしょ?」
百合は僕の腕に抱きついてくる。こうして僕の自己中な女王様は僕だけの甘えん坊なお姫様になったのだ。
どーもむねたです。今回は私の中で起きているプチブーム〖お嬢様キャラ〗について書いてみました。後クリスマスも近いのでクリスマスについても。この作品を読んで少しでもヒロイン可愛い!とか面白い!と思ってるくれたら幸いです。ではまた次の作品で