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読む自己で。
私も藤子ちゃんも入浴を済ませ後は寝るだけという状況になっていた――のだが、どうやらお酒を飲みたくて仕方がなかったらしく、遅めの晩酌に付き合わされていた。
「すまなかったな……」
「ん?」
私は私で炭酸を飲んでいたらいきなり謝られて困惑。
「好きだと言われた後にすぐに答えてやれなくて」
「いや……私なんか聞いてなかったしね……」
「……自分の中の変な気持ちと戦っていたらすぐに答えられなかったんだ」
変な気持ちってどういうのだろう。
あ、初めてと言っていたし嬉しかった、とかかな?
もしそうなら私も嬉しい。
「文葉、本当に私でいいのか?」
「藤子ちゃんこそ私でいいの?」
「そうじゃなければ好きなんて言葉をぶつけていない」
「私も同じー」
うーん、藤子ちゃんは私のどこを好きになってくれたんだろう。
私の藤子ちゃんの好きなところは、優しくて格好良くて綺麗で誰かのために動けるというところだけど、私は迷惑しかかけていないから少し不安だ。
「そういえば誕生日おめでとう」
「はえ?」
「ん? 私が出ていった翌日がそうだったろう?」
「あ~……自分でも忘れてたよ」
夕日ちゃんも柚希、玲奈先輩も私の誕生日は知らない。
というか藤子ちゃんにも教えたことはなかった。
これは担任のパワーだろうか、聞いてくれた方が気が楽だが。
「そこで、これをやろうと家に取りに帰ったんだ」
「あれ、これって……あ、やっぱり」
去年藤子ちゃんの家に入り浸っていたときに見つけた宝石箱。
去年開けたときは驚きすぎてすぐ閉じてしまったけど、今回は落ち着いて開いてみせた。
「おぉ、色褪せてないね」
光が反射してキラキラとしている。
「ずっと触っていなかったからな」
実は去年にちょうだいと願って「駄目だ」と即答された物だった。
多分、そんなに私には深い意味なんてなかった。
ただ単に綺麗だから欲しかったというだけ。
「それは母親から貰った物なんだ」
「え、なのにいいの?」
「ああ。そしてそれはもう文葉の物だ。飾るのもいいしつけてもいい、自由にしてくれ」
「ありがとっ。あ……」
「うん?」
奢ってもらう、車でどこかへ連れて行ってもらう、プレゼントを貰う――私はいつだって藤子ちゃんから、他の人から優しくしてもらっているのにこちらからはなにも返せていないのが気になった。
「私もなにかできないかなって……」
だからせめて恋人である藤子ちゃんには積極的に返していきたい。
私にできることってなんだろうか。
「それなら抱きしめてくれないか?」
「お、お酒を飲んでいるのに?」
「はは、やめるさ、そのときは」
「それくらいなら」
彼女は座ったままだったので頭を抱かせてもらった。
頬に触れる紺碧色の毛がくすぐったい――というか、全体的に雰囲気もこういう行為もこしょばゆくて仕方がない。
「どーお?」
「文葉は暖かくていいな」
「そんなに体温高いかな?」
どうして自分に触れてもそうだと分からないようになっているんだろう。鏡を見なければ自分の顔すら確認することができないなんて実に面倒くさい仕組みだと思う。
鏡に映る私は普通くらいの顔をしている気がするけど、他人から、藤子ちゃんからはどう見ているんだろうか。
「藤子ちゃん、私ってどんな顔?」
「んー、童顔、かな。中学の制服を来て中学に行ってもバレないくらいかもな」
「でも1歳1歳確実に歳をとってるからね……そろそろ藤子ちゃんに追いついちゃうよ」
「安心しろ、そしたらその分私も先へと進むからな」
「……ね、いつまでこの関係のままでいられるかな?」
きっかけが自分にしろ彼女にしろ、冷めるタイミングがきたら嫌だなって思う。
付き合い始めた初日に考えることではないのかもしれない。
でも、付き合ったら付き合ったで問題がないということでもないわけで……。
「ふむ、大丈夫とは言えないな、無根拠で無責任だからな。だからかわりに言うとすれば、私はいつまでもこの関係のままでいたいと思ってるぞ?」
「……うん、私も同じ気持ち。あ。あれ、ありがとね、お礼を言うの忘れちゃってた」
「はは、どういたしましてだ」
ところで私はまだ藤子ちゃんの頭を抱いたままだ。
私たちは今日、お互いに好きだと言って口にはしていないけど付き合い始めた。
そして付き合い始めたのならできることも増えたわけだ。
こうして抱きしめるとか、一緒にお風呂に入ったり寝るとか、キスとか――何度も言うがいま私と彼女の距離は近くて好都合。
「ねえ、お酒って美味しい?」
「そうだな、美味しくなければ飲んではいないな。ただ……酔うともうひとりの自分が現れるから嫌なんだよな」
「ね、ちょっと飲みたい」
「……まあ、少しなら……」
缶を受け取って中身をちょぴっと飲む。
お、おお、おお? なんかかあと熱くなる感じが私を後押ししてくれるような気がして、彼女の両頬を両手で掴んでそのまま口づけをしておいた。
「……んふふ、確かにそうかもぉ」
「ん……最低だな。普通……ファーストキスというのはもっといい雰囲気の状態でするものだろう? 例えば先程の箱根とかで夜景を見ながらとか、だろ……?」
「……そんなに高頻度でやることじゃないけどぉ、これからもやっていったらいいでしょぉ……?」
箱根でいい雰囲気になりかけたのに急発進したのは彼女だ。
あの景色は本当に綺麗だった。
恐らく意味はないけど写真を撮って残しておきたかった。
残念ながら記憶力が残念なのでいつまでも覚えていられる自信がないような、告白したんだしいつまでも覚えていられるような、そんな曖昧な状態で……。
「よっ……てるのか?」
「いや、なんか一瞬だけ熱くなる感じがしたんだけど、キスした瞬間に吹っ飛んじゃった。心臓に悪いや……お酒もキスも」
自分からしておいてなにを言っているんだという話だが。
でもまあ、一応藤子ちゃんも顔を赤くしてくれているので無駄ではなかったのだと捉えておこう。お酒効果だったとしても関係なし!
「なんだそれ……はぁ、しかもいきなり口移しとか下品だな」
「ち、違うって……やっぱり飲み込むのは良くないなって思っただけで……」
「ふっ、そうだな、そういう力に頼らない方がいい。……素面でしてくれた方が嬉しいからな」
「うん、次からはそうするね!」
今度は普通に抱きしめて柔らかな感触を味わった。
「いつまでもこうしてたい」
「文葉が愛想を尽かさなければ続けられるさ」
「うん、任せて!」
うん、それでも頻度は調節しなくちゃね。
だってこれでも恥ずかしいし、勇気のいる行為だから。
私にちょっと強い力で抱かれても文句のひとつも言わない藤子ちゃんにありがとうと内心で言って、その後も1時間くらい続けた私のだった。
読んでくれてありがとう。




