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読む自己で。
「で、選ばれた場所がここ?」
現在の場所はいつものファミリーレストラン。
19時を越えたくらいではあるが平日のため来店しているお客さんの数は少なかった。適度な音量のBGMがなんとも心を落ちかせる。
「ああ、安くて美味くていいだろう?」
「そうだけど……もう少しくらい雰囲気のいい場所でも……」
だ、だってこれってデートみたいなものでしょう?
なのにいつでも行ける近場のファミレスて……。
「というかもう食べ終わっただろう」
「そ、そうだけど……」
ただ談笑しているだけで終わってしまったから気になるんだ。
好きな人といるからなのか、単純に私の食欲などが勝ったのか分からない。
「よし、今日はまだ酒を飲んでないし夜景でも見に行くか。箱根とかどうだ?」
「えっ? ここから30kmくらいあるよ?」
「別にいいだろう。夜に行く箱根というのも乙なものだろう?」
「まあ暇だしね、私は乗っているだけだから別にいいけど」
――というわけで箱根へと向けて車を走らせ始めた藤子ちゃん。
だけど奢ってもらったのがなんか申し訳ないぞ。
「飲み物とかいるか?」
「ううん、藤子ちゃんが欲しければ自分のだけ買えばいいよ」
「そうか」
唐突だが私は藤子ちゃんが運転しているところを見るのが好きだ。
時々光に照らされ鮮明に見える彼女の顔はいつになく真剣で、その横顔をぼけっと眺めて会話がないのに心地が良くて。でも食後だからか眠気も襲ってきて、それに抗って見続けた。
そして赤信号で止まったとき、彼女が不意にこちらを見てきて複雑な笑みを浮かべる。
「ガン見しすぎだ」
「あっ……ご、ごめんっ」
逆方向へと視線をやりながらそりゃそうだよねと内心で呟く。
私だってじっと見られてたら怖いって思うし言いたくなる気持ちはよく分かったから。
青になって発進。
時間も時間だからか私たちくらいしか山の方へと向かう車がいない。
「どうして見てたんだ?」
今回はあくまで前を向きながらの問いだったので、「格好良くて好きだから」と答えておいた。
願望通り、いまこのときだけは彼女のことを独占できる。
誰にも邪魔されない、寧ろ信号とかで止まれば止まるほどその時間が増えるためいまは嬉しい。
ただ、彼女にとってはどうかな? って不安になるんだよね。
「大丈夫だぞ」
「へっ? な、なにいきなり……」
「ふっ、いや」
――結局それから山頂に着くまで会話がなかった。
着いたら私たちは車外へと出て夜風に当たる。
「ふぅ、残念ながらここだとあんまり見えないな。帰りにはよく見えるんだが」
流石に喉が乾いたのか自動販売機で飲み物を買った藤子ちゃんが飲んでいるのを見てほしくなった私は、横からかっさらってそのまま口をつけて中身を飲み干す。……無糖のコーヒーのはずなのになぜか甘くてこそばゆくてしょうがない。
「お疲れ様」
「はは、帰りもあるけどな」
「これ、捨ててくるね」
「ああ、頼む」
頼むもなにも勝手にぱくって中身を全て飲み干してしまったため申し訳ない。……するなよって話か。
捨てて戻るとえらく真面目な顔の藤子ちゃんがいた。
「文葉の気になる人を教えてくれないか。ここなら邪魔者もいないだろう?」
「……じゃあ言うけど、それはあなた……に決まってるじゃん」
それに別に夕日ちゃんたちが邪魔なんて思ったことはない。
というか私は気になる人のことを彼女たちには既に説明してある。
「教えてくれてありがとう。さて、帰るか」
「……待って、藤子ちゃんの気になる人って?」
「車の中ででもいいだろう? 少し冷えてきたし文葉に風邪を引いてほしくないからな」
そういうのじゃないんだよなあ、お預けをくらわされる方が嫌なんだよなあ私は。
それでも乗らないとこんなに薄暗いところで過ごさなければならなくなるので、大人しく乗車。
車は発進し、相変わらず会話はなかったものの、左側――ちょうど助手席側に広がった景色が綺麗で見とれていた。
そしてなぜかそこで彼女が車を止める。
「文葉」
「うん?」
「あ……えと……」
「あはは、どうしたの? あ、後続車こないかな?」
「ここだけは広くなっているから大丈夫だ」
「そっか」
でも夜景が綺麗でいいなあここ。
これを見せたくて連れてきてくれたんだとしたら、凄く嬉しい。
これで彼女の気になる人も私ならいいのに。
「好きだ」
うーん、その可能性って有り得るのかな?
だってもし私がそうなら前にも言ったように出ていったりはしないだろう。
それでも藤子ちゃんは出ていった。私がそう仕向けたようなものかもしれないけれども。
あのときだって本当はもう少しくらい逡巡してほしかった。
元気になったけど寂しがり屋なんだと分かってほしかった。
もうそういうの抜きにしても一緒にいてほしかったのだ。
お金とかはどうでもいい。
ただただいつものようにお話しができて、お互いに甘えたり、甘えられたりができればそれで良かった。
――うん、私やっぱり諦められない。
こうしてお出かけしてくれるということは付き合ってはいないだろうしいまは雰囲気もいい、頑張ってみよう。
「文――」
「私、藤子ちゃんのことが好きなのっ」
なにも言わせない。
箱根に連れてきてもらった、そして頑張って告白した、たったそのふたつの結果だけでいいのだ。
藤子ちゃんはいきなり車を走らせはじめて答えはもらえなかったけど、後悔はしていなかったのだった。
「じゃあな、夜ふかしするなよ」
「うん、藤子ちゃんもね、あと気をつけてね」
「ああ」
家に着いたらそのまま解散の流れとなった。
私としてはこのまま家に泊まって愛を確かめあって抱きしめてキスして――って感じだったんだけど……どうやら違ったみたい。
やっぱり一方通行だったんだ。
後悔はしていないとか考えていたくせに現実に引き戻されて意見が変わった。
箱根に連れて行ってもらった、頑張って告白した、でも、受け入れてはもらえなかったの3つとなる。
「辛いなぁ……」
ひとりでとぼとぼと家に入って、リビングのソファにではなく床に直接寝転んだ。
なんで敢えてあのタイミングで私の気になる人なんて聞いたんだろうか。
お風呂にも入る気が起きない、部屋へと帰る気も起きない。
だから私は暗闇に包まれたリビングの中で天井を見上げながらぼうっとすることだけに専念していた。
「……もしもし?」
「家の鍵、開けてくれ」
「え? 帰ったんじゃないの?」
「ちょっと家に忘れ物をしてな」
「うん、分かった」
玄関に行って扉を開けると大きなバッグを持った藤子ちゃんが立っていた。
「そ、それは?」
「ああ、泊まろうと思ってな」
「1日泊まるだけでそんな量?」
「これから毎日、かな」
「え……」
出ていったり戻ってきたり忙しい女の人だ。
だがいまは……。
「い、いいだろう?」
「……でも、藤子ちゃんは受け入れてくれなかったし……」
「は? おいおい……もしかして聞いてなかったんじゃないだろうな?」
「へ?」
「文葉が好きだと言ってくれた前に好きだと言ったぞ」
「えぇ!? き、聞いてなかった……」
夜景に目を奪われていたのと、色々と考えるのに忙しくてスルーしてしまっていたのか。
なんだい、だったらちゃんと言ってくれればいいのに。
せめて私が好きだと言ったことで嬉しいとかそういうのをさ……。
「は、入ってもいいか?」
「……もう1回好きだと言って」
「はぁ……? ……好きだ」
「うん、じゃあ入っていいよ」
「くそ……私だけ恥ずかしいじゃないか」
いやいや、私はモヤモヤと戦う羽目になったんだから許してほしかった。
「待て文葉」
「ん?」
「貴様も言え……」
「好きだよ、藤子ちゃんのこと」
「……き、貴様……恥じらいもなくそんなことを言いやがって……」
「えぇ!?」




