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読む自己で。
ファミレス店内に入ってからもう30分を越えようとしている。
そしてなぜか私たちは結構相性がいいのか盛り上がることができていた。
とはいえ、私はほぼ聞く専門、だって私の情報なんて価値がないもの。
「へ~双子さんなんだぁ」
「そうね」
双子には見えないけどなぁ……って、そこじゃないよ!
「せ、せせ、先輩さん……」
「あ、いいわよ別に。でもまあ、リボンの色で分かると思うけどね」
「あはは……そ、それならこのままで……」
確かに柳色だもんね、髪とか瞳とかが。
双子に思えなかったのは柚希さんがちょっと気が強そうだからだと思う。
「で、あんた本当に渋谷先生と住んでるの?」
「うん、ちょっと一時期食欲もわかない、慢性的な睡眠不足、謎の腹痛及び倦怠感に襲われていたときにね」
「どうせ夜ふかししてたからでしょ?」
「はい……」
それと夕日ちゃんが藤子ちゃんとイチャイチャしていて気になったのもある。
なぜそれで吐き気に繋がったのかはいまでも分かっていないけど。
「ふぅん」
「や、やっぱ駄目かな?」
「いや、別にいいんじゃない? だってあんた嫌じゃないんでしょ?」
「それは当然だよっ」
一緒にいると安心感しか感じないし好きなんだ。
だけど残念、彼女に気になる人がいると分かった以上、あまり甘えることもできなくなってしまった。
うーん、ただ、それならなんで家に住もうとするんだろう。
もうあのときみたいな失態は犯さない自信がある。
彼女が他の子とイチャイチャしていたところで、こっちは大丈夫なのに
「だけど残念ね、渋谷先生に気になる人がいて」
「べ、別に残念じゃないよ。初めてだって言ってたし、寧ろめでたいことで……」
「ふっ、顔に出てるよ?」
「……と、というかどうして知ってるの?」
あのときは確かにふたりきりだったはず。
それにこの子とは外で会ったんだ、物理的に不可能である。
「だって廊下で聞いてたし」
「いやいや騙されないよ!? そんなこと不可能だよ!」
「ふっ、ばれたか。おねえちゃんから聞いただけよ」
「それも嘘だよ! だって玲奈先輩と帰ったじゃん!」
「これもばれたか、女の勘よ」
女の勘って凄い!
実際そのとおりだしね、なにも言い訳できないよ。
「で? あんたははいそうですかって諦めるわけ?」
「しょ、しょうがないじゃん……初めての体験って言っていたし邪魔できないよ」
聞いておきながら邪魔をするとか悪女じゃんか。
私はそれなりにいい子でいるつもりだ、そんなことはできない。
「……こいつの家に住んでおきながら他の人間が? ああ、なんだそういうこと」
「え? だ、誰か分かるの?」
怖いけど気になる。
せめてどんなタイプなのか聞ければそれとなく協力できるかもしれないからだ。
「女の勘よ。でも、あんたに言うわけにはいかないわね、だってこれを聞いたら傷ついてしまうかもしれないわよ?」
「え、じゃ、じゃあ、いい……」
「そうそう、そうしておいた方がいいわ」
このタイミングで藤子ちゃんから電話がかかってきたので出てみたら、
「文葉、どこにいる?」
「あ、柚希さんとファミレスに来てるの」
「……ひとりじゃ寂しいんだ、早く帰ってくてくれ」
なんていつもどおりの彼女だった。
甘えてくれるのは嬉しいけど、気になる人とはいいのだろうか。
それとももう動いたけど失敗してやけ酒とか? 不器用そうだもんなぁ……。
「うん、それじゃあいまから帰るよ、じゃあね」
「渋谷先生?」
「うん、お酒を飲むと途端に弱々しくなるんだ。でも、ふふ、そこが可愛くてさ。だけど気になる人と結ばれたら甘えてくれる時間も減るんだなって、悲しいかな」
悲しいって、悲しいのか私。
なんだかんだ言っても私を好いてくれるなんて考えたことがあったからなぁ。
だって教師だから、で説明がつかない行動だってしているもん、藤子ちゃんは。
「ふっ」
「え?」
「いや。あたしが払っておくから行ってあげなさい。それと、そういう素を見られるのはあんただけなんだから、素直になりなさい」
「うん……ありがと」
「ほら行ったっ」
「う、うんっ」
そりゃ見せてくれるのは現状、私だけだろうけども……。
夜は寄り道せずに帰ってきてくれるしさ……。
柚希さんには来週お金をきちんと払おうと決めて夜道をひとり走り出す。
だが、
「ねえキミ」
「ひゃっ!?」
家までもう少しというところで知らない女の人に腕を掴まれて無理やり車に連れ込まれてしまった。
「ふへへ……私好みの可愛い子ゲット~」
「ちょ、お、降ろしてください!」
「ちょっち黙っててねえ」
「なに――」
「あ、これ私の下着だった……こっちこっちー」
「……って、これも下着なんですけど……」
あと、なんで敢えてそれをかぶらせてくるの?
普通、口に突っ込んで話させないとかじゃないの?
「あれぇ? うーん、まあいいや。お家まで送ってあげるね~」
「え? し、知っているんですか?」
「うんっ、大丈夫!」
「そ、それならよろしくお願いします。いま家に寂しがり屋がいるので」
「知ってるよ~」
え、知ってるの?
だったら普通に一緒に帰ってくれればいいのに。
――どういうわけか分からないけど家まで本当に送ってくれた。
そしてなぜかその人も家に中にまで入ってきた、と。
「姉さーん、連れてきたよ~」
「……マキか……ありがと」
「ちょっとちょっとっ、私は下手すりゃ犯罪者扱いされるところだったんだよ? なのに姉さんはこの子の家でのうのうとお酒を飲んでいるだけなんてさ~」
確かにやり方だけで見たらだいぶ不味い。
下着突っ込みさんはまきさんという名前らしいけど……。
「……ごめん……ふみはぁ」
「あはは……はーい、なんですか?」
「ぎゅーだ」
「わぷ……もう、ほんとに私がいないとだめなんだから」
でも、素面に戻ったら必要にされることはない。
なんか前なら純粋に嬉しかったのに、虚しさだけが込み上げてくる。
その人に甘えればいいのに、それかもしくはまきさんとかにさ。
「おぉ、仲いいね~」
「でもこの人には気になる人がいますから。お酒を飲んだときだけですよ、こんな甘えてくれるのって」
「ふへへ、そういうことか~」
まきさんは柚希さんと同じような反応をした。
なんだろう、なんかモヤモヤするぞ、この反応は。
「そっかそっか~、文ちゃんは姉さんのことが好きだけど~、この人は気になる人がいるとかって言ったんでしょ~?」
「……べ、別にそういうつもりで好きだとは……」
悲しくならなくて、悲しくなって、いまは困惑ばかりで。
この温もりを感じられなくなったら嫌だなって思うけど、彼女には自分の気持ちを優先してほしいのだ。
「いいっていいって! いまだって大切そうに抱きしめてるじゃん」
「だ、だって……ちゃんと抱きしめといてあげないと多分倒れちゃうから……」
「ふへへ、ふ~ん? ふーん?」
「……藤子ちゃんっ、この人怖いっ」
姉妹らしいけど藤子ちゃんの方が好きだ。
こ、この好きはちが――くはないかもしれない。
「ん……マキやめろ……文葉を困らせるな」
「えぇ、そうやって抱きしめている方が困らせてるでしょ。だってそうでしょ? 他に気になる人がいるのに抱きしめられてたら悲しくなるでしょ~」
「……そうかもな。ふぅ、そろそろ楽になってきたし……やめ――」
「だめっ! あっ……い、いまだけは私の……」
なぜか抱きしめるのが申し訳なくなって離してしまった。
彼女はなんとも曖昧な笑みを浮かべている。
「いつだって私は私のだぞ?」
「違うもん、この家にいる限りは私が自由にできる権利があるもんっ! きょ、拒否するなら出てってよ!」
「ふむ、ま、そろそろいいか」
「え……」
「もう元気になったしな、文葉が」
片付けようと掴んでいた空き缶をぐしゃりと握り潰す。
「……そうだね、それがいいよ」
「ああ」
「え、ちょ、姉さんいいの? もしかして本当に違う子が気になってたの?」
「帰るぞ。マキ、送ってくれ」
「え、えぇぇ!?」
「文葉」
叫んでいる妹さんを放ってまで私にまだ話したいことがあるようだ。
「……なに?」
「ちゃんと飯とか食べるんだぞ。あと、暖かくしてすぐに寝ろ、いいな?」
「……言われなくてもするし」
「ふっ、それならいい。じゃあな、おやすみ」
「……おやすみ」
ふたりはすぐに帰っていった。
私はひとり後片付けをしてから、お風呂場に直行する。
「これで良かったんだよね」
誰に指示されたとかじゃないけど、気になる人がいるならその人に一生懸命になるべきだ。私になんて構っている場合じゃあない。
まきさんが来てくれて良かった。もし来てくれていなかったら1日滞在期間が増えるところだったし、そうなると引き止めたくなっただろうから。
「ベッドに広々寝れるしね~」
不思議と悲しさは感じなかった。
ワンパターンだな。




