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018作品目  作者: Nora_
1/14

01話

「片桐ちょっと来い」

「はーい」


 読書を楽しんでいたら担任の渋谷藤子(とうこ)先生に呼ばれたので前の方に移動する。


「どうしましたか?」

「片桐、いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」

「そ、それじゃあ悪いニュースで……」


 な、なんだろうか。

 先生も怖い言い方をしないでほしい、不安で読書を楽しめなくなったらどうしてくれるんだ。


「片桐、貴様だけ課題のプリントを出してないから放課後に私の手伝い決定だ」

「えぇ……今月に入ってもう三回目ですよ?」


 私が助けを求める瞳で(多分)見ても先生の意思は変わらないようだった。


「それならいいニュースはなんですか?」

「放課後に私の手伝いができるということだな」

「お、横暴だあ!」


 ってまあ、悪いのは私なんだからいいんだけど。

 それに案外寂しがり屋な人でもあるので相手をしてあげなければ可哀相だ。

 とにかく私、片桐文葉(ふみは)はいつも先生にお世話になっている、お世話になっている点で言えば他の子たちもそうだけど私は特にだ。

 喉が乾いたときにジュースを買ってもらったり、お手伝いをしているときはちょっとしたお菓子をもらったり、たまに車で送ってもらったりと、特別親しいというわけではないのに寄生虫みたいに生活しているのが自分だ。


「なにが横暴だ、嫌ならきちんとやってこい」

「はーい……」


 それでも先生は優しいから嫌じゃないんだよね。

 とりあえず現時点では解放してくれるらしいので本を読む作業に戻った。




 放課後。


「これ、頼んだぞ」

「はーい」


 胸を叩いて私に任せてくださいとアピールをする。 

 これくらいの作業量なんてことはない、そして終わった後にジュースでも買ってもらえれば――なんて考えたところで「あ、今月は金欠だから奢るのは無理だぞ」と言われ落胆。

 そんなぁ……あれだけが楽しみだったんだよ!? ……だけど偉い私はせっせと仕事を終わらせていく。


「学校は楽しいか?」

「んー、断言することはできませんね」


 二年生になっても親しい友達がいるわけじゃないし、授業は結構難しいし、変に班を組ませるし、同じ委員会の子は掃除をしてくれないし、部活をしているわけじゃないから放課後は暇だしと、中学生のときに思い描いていた高校生活とは全然違った、その理想とかけ離れすぎていて断言することはできなかった。


「二年にもなって友達といないのは問題だな」

「はいっ、そうですね!」

「褒めてないぞ。日高とかどうだ?」

「あ~……」


 授業中とかも騒がし――賑やかな子って少し苦手なんだよね。

 いくら周りの子から好かれているのだとしても切り替えがしっかりできない子は駄目だと思う、その点私は盛り上がれるような子がいないし真面目でいいと思う。


「私とも普通に話せるということはコミュニケーション能力が欠如しているというわけではないよな?」

「担任の先生とくらい話せるに決まっているじゃないですか」


 周りの子が変に遠慮をしてしまうのは単純に藤子先生が大人だというのと、格好いい及び綺麗だからだ、「その割には避けられている気がするんだが……」などと呟いている先生がちょっと可愛かった。


「藤子先生とは全然話せますよ、だって去年からお世話になっていますし」

「片桐が全く成長してなくて私としては悲しいぞ」

「む、身長や体つきだって少しくらいは同年代の女の子らし……く、ぐはぁ!?」


 目の前の豊満さんを見て吐血した。

 私と違って胸を張っているわけじゃないのに、しかも服の上からでも分かるえげつなさ、世の中不公平だ!


「まあいい、無理しても上手く行かないしな」

「はい……」

「もう帰っていいぞ、手伝いありがとな」

「今日も先生のお家に行きます!」


 毎日というわけではないけど結構な頻度でお世話になっている、家に帰っても誰もいないので寂しい私は先生くらいしか頼れる人がいないのだ。


「今日もお父さんはいないのか?」

「はい、遅くまで働いてくれていますからね」

「ふむ……それならしょうがないか。ただ、あと一時間くらいは待ってもらわないと無理だぞ」

「大丈夫です、春ですし外で待っていても問題ありませんよ」


 夜桜を見られるというのもなかなか悪くない時間だ、学校外で待つのは怖いけど学校で待つぶんにはメリットしかない。


「いや、車の鍵を渡すからそれに乗ってればいい。片桐を外で待たせているとどこかに行きそうだし、不審者が来ないとも限らないからな」

「それなら車の中で待たせてもらいます」


 まず職員室に寄って先生から鍵を借り外へ。


「あ、もう結構暗いな」


 教室からも見えていたから分かっていたけど。

 駐車場へ行ったら車の鍵を開けて中に乗り込む。


「はふぅ……ここが家でもいいよ~」


 ただまあ、たまにはお父さんとごはんが食べたいし一緒にいたいから無理だ。

 藤子先生の車に初めて乗ったのは去年の今ごろ、まだその頃の私はういういしく不慣れだった。

 だから、美化委員会の仕事で教室の掃除をした際に色々ぶちまけたり、びしょ濡れになったりして帰りが遅くなったのがきっかけだ。

 私もそれまでは怖い先生だと思ってた、だって目つきが鋭いし、最初は話しかけた後に間があったから。

 だけど濡れていても普通に車に乗せてくれて、家に着いたらお風呂に入らせてくれたしご飯も作ってくれた。

 特に緊張しなくていいんだと素の私を出していくと、先生も間を作ることがなくなったというわけ。


「うーん、だけど私は迷惑しかかけてないなあ」


 課題のプリント、必要なプリントの提出を忘れたり、こうして先生の厚意に甘えてしまったりと、先生に対して借りが増えていくだけだ。

 だからって先生を喜ばせられるなにかをしてあげられるわけじゃないと。

 私が友達と普通にいられるようになったら安心してくれるのかな?


「待たせたな」

「ひゃ!? え、もう一時間経った?」

「ああ、なんなら三十分超過している、すまなかったな」


 藤子先生に鍵を渡して敢えて助手席に座り直した。


「藤子ちゃん、いつもありがとっ」

「はぁ……他の生徒にも同じように接しろ文葉」


 そう、こういう切り替えが大切なんだ。

 二人きりになったときは敬語はやめて名前呼びをするようにしている。

 いや、これはあくまで彼女が希望したからではあるけど、なんかいい感じがしてこの時間が好きだった。




 夜。

 二十一時を過ぎても帰る気が起きなくて彼女の家のソファに張り付いていた。


「まだ帰らないのか?」

「んー……眠い」

「別に泊まっても構わないがきちんと連絡はしろ」

「……する」


 お父さんに今日もまた泊まる旨の連絡をして再び張り付く。


「やれやれ」


 藤子ちゃんは紺碧色の髪をガシガシと掻きつつこちらを見ていた。

 確かに甘えすぎかもしれないけど……誰かがいてくれるのが嬉しいんだもん。


「風呂に行ってくる、寝るなら私の部屋で寝ろ」

「……うん」


 一人暮らしのくせに何故か一軒家なので贅沢にも二階があった。

 彼女の部屋に行きベッドにダイブ、それからお気に入りのぬいぐるみ(私が置いた)を抱いて目を閉じる。


「迷惑かな」


 もしそうなら頻度を考え直さなければならない。

 月に一回とか――教師と生徒ということを考えれば一回すら良くないんだけど。


「よしっ、明日から先生の家禁だ! だから今日は味わっておこ!」


 空気とかベッドの感触とか匂いとか、ここには好きが詰まっている。


「ふぅ……って、また中央に転んで……」

「あれ、お酒は飲まないの?」

「酒禁だ、金欠だからな」

「そっか、じゃあ一緒に寝よ!」

「ああ、もう寝るしかやることないからな」


 端っこに寄って彼女を迎える、お風呂に入ったばっかりだからか彼女からは熱気を感じた。


「ねえ藤子ちゃん」

「ん?」

「明日から家に来るのやめるね」

「ふっ、いつまで続くかね」


 本当にそれ。

 いつまで続けられるのかなっていまから不安になっているくらいだ。


「藤子ちゃんこそお酒禁止を守ってよ?」

「それなら文葉は家禁、乗車禁だな」

「……だけど藤子ちゃんとお話しすることだけは禁止にしたくない」

「必要ないだろう、そんなことは」

「うん、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 よし、本人に言ったことで守れる可能性大だ。

 それに無理になったら彼女に説明して堪能させてもらえばいい。

 頑張るぞ、私!

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