第7話 狩場でなにかあったようです
【マップ】上に新しく追加された青い丸、“それ”をタッチすると名前が浮かび上がった。『転移2』と。
「この場所にはルインとシエラの2グループで向かってくれ。こっちの場所には……」
俺はリーダー10人を交えて、【マップ】を前に持ち場を決めていた。どのグループをどこに配置するか。“その”全てをなんとなくで決めた。
リーダーがエルフだから森の近くがいいだろう、獣人は魚を採るのが上手そうだ、など自分でも浅はかな考えなのは実感している。
これが画面越しでプレイするゲームであったならば、適性等を考慮したうえで計画を立てていただろう。実際はそう簡単なものじゃなかった。
仮に全員に“鑑定”をおこなった場合、1人につき1分、約60秒の時間を要する。1万人なら60万秒という途方もない数字に目眩がする。ただでさえ、元々は他人任せのだらけきった性格だ。
それに今の俺達には、その日食べるものすら持ち合わせていない。そんな時間はないんだ。
「リーダーのみんなは俺と、【友達】になってくれ!」
ん? なんかニュアンスがおかしい気がする……。
リーダーたちは揃って驚いた表情を浮かべている。
「い、いや、そういう意味じ――」
「――ぜひお願いします!」
「――私なんかで良ければ!」
俺は揉みくちゃにされた。
その後“念話”のために【友達】になって欲しいと伝えた。
俺が話しかける場合は【友達】にならなくてもいける。逆の場合は“念話”を持っていないリーダーたちには無理だ。
“念話”を持っている人と、【友達】登録しておけば、“念話”の催促ができる! らしい。
そうして俺は友達が10人できた!
「では転移2から順に移動を開始してくれ」
ひとり、またひとりと青い結晶に吸い込まれるように姿を消していく。
現在の時刻は13:43。全員の移動が終わるまで、思ったより時間はかからなそうだな。
日が暮れる前に何か収穫があればいいんだけど。
俺もどこかのグループに混ざって参加するつもりだった。
リーダーたちに「どんな危険があるかわからないから、神は残っててください」と止められ、草原でひとり寂しくお留守番だ。
連絡がくるまで、まだ使っていない機能の確認でもしていようか。あとは……【道具】に【順位】に【メモ】か。
まずは……【メモ】からいこうか。
【メモ】を選択すると画面に『新規メモの作成』『メモの編集』『トレース』『メモの削除』と4項目現れる。
ほとんど想像通りだけど……トレースってなんぞや? こういう時は【ヘルプ】先生に……。
ほうほう、なるほど。活字、記号、線で作られたものを写すことができるのか。まぁ、使うことはなさそうだな。
とりあえず『新規メモの作成』をして
・担当場所
転移1 なし
転移2 ルイン、シエラ
転移3 ワーワー
転移4 マリベール
転移5 アンジェ、シバザキ
転移6 モコモコ
転移7 キース
転移8 バルデラ
転移9 フィロル
よし、こんなもんか。忘れないうちに作っておかないとな。
次は……【順位】は多分幼女の言ってた戦争ゲームのやつだよな。どうせ1階層だし、まだ見なくていいか。【道具】を見ておくか。
俺が【道具】を押そうとした時だった。
『ルインから“念話”の申請を確認しました。ルインから“念話”の申請を確認しました』
機械じみた、感情のない声が頭の中に響く。
こういう風に知らせてくれるんだな。俺は「念話」と唱えるように声に出した。
(ルイン、聞こえるか?)
…………。返事が……ない? 俺の使い方、間違ってるのかな。
(ルイン、聞こえないのか? 何かあったのか!?)
(聞こえてまーす! 使い方がわからなくて普通に喋ってました)
(そうだったのか。何かあったのか?)
(ダールデン様、マップ通り滝と洞窟を発見しました! これから洞窟の中を探ってみます)
(そうか、気をつけて探索してくれ。また何かあったら連絡してくれ)
(了解しました!)
ひとまずは収穫ありだな。後から俺も行って水を調べてみないとだな。
さて、続きをやるか。
【道具】をタップすると、“収納”と“取り出し”の文字が現れる。
俺は“収納”を選ぶと、まるで異次元への入り口のように――画面が歪んだ。
ノイズのように渦巻いた画面からは、中の様子を見ることはできない。
「この中に……入れるの?」
半信半疑だった。雑草を毟って、恐る恐る投げ入れる。
吸い込まれるように中に消えていった。
“その”画面には不釣り合いに、はっきりと書かれた『戻る』のボタンを押すと、メニュー画面へと戻る。
次は“取り出し”を選んで見た。
画面には『雑草×1』とだけ書かれている。どうやら成功だったようだ。
俺はまた“収納”を選ぶと、石やら草やら、草で作られた丸い塊などを次々と投げ入れた。
そして“取り出し”画面を見てみる。
雑草 × 18
石 × 52
草の塊 × 1
試しに石を選んでみると、個数を選択できるようだ。とりあえず1つ取り出してみると、画面が一瞬歪み、そこから吐き出されるように石が現れる。
【ヘルプ】でも確認してみると、生き物は収納できないみたいだ。動かせるものなら、たとえそれが大きくても収納が可能。中のスペースは際限がないようだった。
“収納”スペースには時間の概念がなく、食べ物を入れても腐ることはない。と書いてあった。
必要以上に食料を確保しても、腐らせる心配がないのは非常に役に立ちそうだ。
一段落ついたところで、また頭の中に機械じみた声が響く。
『マリベールから“念話”の申請を確認しました。マリベールから“念話”の申請を確認しました』
(マリベール、聞こえるか?)
(か、神様、聞こえます!)
(何かあったのか?)
(私たちは今、狼の群れと交戦中なのですが……その……差し出がましいのですが、他のグループから援軍を送ってもらえないかと)
(わかった。すぐに援軍を送ろう)
(あ、ありがとうございます!)
狼の群れか。人手が余ってそうな場所は……アンジェとシバザキのグループは2000人いるのか、ここからなら。
(シバザキ、聞こえるか?)
(あ、神様。ちょうど良かったっす)
(そっちは今どんな様子だ?)
(いまワイバーンと戦ってんすけど、ちょっとばかり手が足りなくて困ってたんすよね)
(そうか……援軍を……送ろう)
(あざーっす!)
他に手が余ってそうな場所は……。
『モコモコから“念話”の申請を確認しました。モコモコから“念話”の申請を確認しました』
『ワーワーから“念話”の申請を確認しました。ワーワーから“念話”の申請を確認しました』
『フィロルから“念話”の申請を確認しました。フィロルから“念話”の申請を確認しました』
頭の中に一斉に機械じみた声が響いた。
「ぜ、全部繋いでくれ! 念話」
(神様ー、ジャイアントベアーに襲われてますー! 助けてください!)
(ダ、ダールデン様、仲間が、仲間が喰われちまったよー! 俺はどうしたらいい!?)
(こちらフィロル、こちらフィロル。至急お願いがあります!)
一体何が……どうなっているんだ……。