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第19話 最下層からの下克上

 怒声が響く闘技場で、俺はただモニターを眺めていた。



「8階層はあんなもんか。30分もあれば終わりそうだな」



 独り言のように呟いた言葉は、モニター越しに映るワイバーンの咆哮にかき消される。


 長い時間をかけた国づくりは、とうの昔に俺の手を離れ、今もまだ成長を続ける。

 あの時から1000年という区切りを迎え、俺は戦う決心を決めた。そして最終段階とも言える敵戦力の把握のため、連日闘技場に通い詰めていた。



「やっほ〜、最近ここでよくキミと会うね〜」



 創造神ユリア。ふざけた服にふざけた口調、幼い見た目はあの時から変わらない。

 袖をぶらぶらと揺らして近づいてくる。


 とはいえ俺の服装もあの時のままだ。

 神の衣装と呼ばれる俺たちの衣服は、そこそこ面倒な手順を踏まないと着替えることはできない。

 時間が経てば汚れや匂いは取れ、ほつれなども直るから便利と言えば便利だ。

 俺が着替えないのは“戒め”でもあるが、幼女(ユリア)の場合は性格なんだろうな。



「幼女様はこんな低階層の試合も見るんですね」

「どしたのキミ? そんな硬い言葉で? シャルルに何か吹き込まれた?」

「べーつーにー」



 嫌味で言ったつもりでも、幼女(ユリア)には効果はいまひとつだったようだ。

 引き合いに出された人物の名に、俺はさらに表情を曇らせる。



「あ〜、わかった。シャルルと喧嘩したんでしょ?」

「当たらずも遠からずってところかな」



 「ふ〜ん」と言って俺の隣へ腰掛ける。



「キミはこの遊戯、ど〜見える?」

「新しい神の方?」

「うん」

「1000年前の俺より10倍強い」



 今の世界は全部で100階層まで到達している。連敗に連敗をつぐ俺の世界は、貢献度がマイナス。

 新しい神が入ってきても必然的に1階層が俺の世界となる。



「けど今のキミならど〜だい?」

「簡単に……勝てる」



 俺の答えが意外だったのか驚いた表情を浮かべる。



「まさか、やっと戦う気になったのかい?」

「うん、そろそろ登ろうと思ってるよ」



 あいつのいる階層まで。

 1000年の間にあいつはプラチナランク、85層まで登った。狡猾に、貪欲に。

 必ず――追いついてやる。



「本当かい! シャルルは、やっと……帰ってくるんだね!」



 俺の心境とは裏腹に幼女(ユリア)は「わーい」とはしゃいでいる。

 それにしても、これだけ喜ぶ姿は初めて見たかもしれない。シャルルさんは幼女(ユリア)にとってもそれだけ大切な人なんだろう。



「あ〜、けどキミとシャルルって結婚してるよね? そこらへん、ど〜するの?」

「それはシャルルさんが決めることだから」



『神、モンテンハイムペペラトリーヌの本陣が制圧されました。勝者、神、ロダン』


 遊戯終了の機械じみた声が響いた。


 いや……新しい神の名前なげぇよ……。



「シャルルにはいろいろ伝えてはあるから、ま〜、ゆっくりそ〜だんしてみて」



 幼女(ユリア)はひらひらと手を振ると、どこかへ去っていった。

 相談も何も俺に決定権はない。俺と彼女は上辺だけの関係なんだから――。



「あのー、ダールデンさん、お話いいですか?」



 背後から忍び寄る影が、俺に話しかけた。







 2階建てのログハウスに作った一室。ここが、俺の神としての仕事場だ。それと、



『みなさーん、こんにちは、こんばんはー。いずれはプラチナランク、56層の神、レトルトでございます』

『そして、いずれは全世界の女神! 21層の神、ローランにゃん』



 軽快な音楽とともに、映像と声を届ける“それ”を、ぬいぐるみを抱きしめ、(かじ)り付くように見る女性――シャルルさんの娯楽部屋でもある。


 机が2つに椅子と本棚しかない質素な空間は、部屋の真ん中を境に煌びやかな空間へと早変わりする。

 豊富なぬいぐるみが置かれ、玩具箱にはボードゲームやカード等が丁寧に物が詰められている。壁に貼り付けられているのは紛れもない、ダーツだ。

 ここ数百年で編み出してきた玩具の数々を、シャルルさんの「やってみたい」の一言で徐々に集まって出来上がったのが、この部屋というわけだ。


 100年ほど前に特殊な鉱石を使って作った“テレビ”は、少しずつ他の階層に浸透し、四六時中とはいかないまでも、見れる番組が増えてきた。



 シャルルさんは俺たちが初めて会った500年ほど前からほとんど変わらない。

 すらりとしたスタイルに、黒いワンピースを見に纏う。長く赤い髪は1つに結え、瞳もまた赤い光を放っていた。

 その色とは反して冷たい印象を感じるのは、少しばかり吊り上がった目尻に、抑揚の少ない声のせいだろう。

 変わったことがあるとすれば、表情と言動が柔らかくなった。気がする……。



「……シャルルさん、それ見るの……何回目ですか?」

「えっとー、5回目? だったでしょうかね?」



 頬に指を当て暫し考えると、ゆったりとした声で答えた。

 ……見過ぎでは?



「よく飽きませんね……」

「今回の内容にはユリア様とダールデンさんが出でいるのですよ。何度でも見てられます」



 シャルルさんが今見ているのは、先日行われた『2層と8層の神の、遊戯中継』を録画したものだ。

 幼女(ユリア)は途中まで特別ゲストとして適当に解説者をしていたらしい。そして会場に偶然居合わせた俺のコメントみたいのが、終盤にちょろっとだけ流れている。



「神さまーーっ! いますかー⁉︎」



 外から俺を呼ぶ声が聞こえる。どうやら客人のようだ。

 俺が椅子から立ち上がろうとした時、



「私、お連れしてきますね」



 そう言ってシャルルさんが立ち上がると、ドアノブの音を響かせて、「はーい」と声を上げて出て行ってしまった。

 部屋にはテレビの音声だけが聞こえてくる。



『ユリア様、新しい神はいかがでしょう』

『あ〜、初めてにしてはい〜んじゃない。ただ、低層の戦いってわいば〜ん頼みなところあるから大変じゃないかな〜』



 幼女(ユリア)の言う通りだ。

 俺が見た限りでも30階層以下のいわゆる低層の戦争は、制空権を握った物がほとんど勝利を収めていた。

 だから俺は最初の相手は、ビギナーランク1のワイバーンの使い手と呼ばれるようになった、ロダンに決めている。

 負債に負債を背負った貢献度を返すならこいつしかいない。1000年前の借りもあるからな。



「ダールデンさん、交渉のようです」



 シャルルさんはそう言って客人を招くと、定位置の柔らかそうな長座布団に正座し、またテレビに目を向けた。



「今日はどのようなご用件でしたか?」



 不安そうな表情を浮かべる若い男性に、俺は訪ねた。



「娘が、3日前から熱が下がらなくて……。手元にあった薬草を飲ませてたんですが、一向に良くならなくて」



 男性はそこで話を切ると、肩にかけていた鞄から布の袋を取り出し机に置いた。



「全部で100G(ガルド)あります! これで薬を譲って貰えませんか?」

「薬ですね。ちょっとだけお待ち下さい」



 まずは、鑑定っと。

 名前は……ヘラクレスさんか。なかなか強そうな名前じゃないか。

 次に俺は【メモ】を開いた。

 【メモ】の中身は――膨大な情報の山。


 俺の世界には義務が何個かある。そのうちの一つが鑑定だ。

 テレビを作るときにも使った鉱石――ドクメント鉱石。

 これを使うことにより、神のスキルを微弱ながら封じることに成功した。


 全世界のあらゆる場所で鑑定が可能になり、その結果を毎週役場に提出する。集められた鑑定結果は俺の元に集められる。

 【メモ】のトレース機能を使えばコピーはすぐに終わるので、実質俺は手間いらずだ。


 ヘラクレスさんを……検索にかけてみて……あ、あった。更新は4月29日か。1週間以内だな。

 俺は【道具】から“黄色い花”と“細長い茎”と布の袋、果実を数種類取り出す。



「ヘラクレスさん、この“黄色い花”を煎じて飲ませてあげてください。それで熱が引かないようでしたら、この茎をそのまま噛ませるか、細かく切り刻んで食べさせてみてください」



 俺はそう返事を返し、「果物つけときますね」と付け加え、袋に詰めて渡した。

 そしてG(ガルド)の入った袋から銀色のコインを10枚だけ抜くと、



「俺はどんなことでも一律10G(ガルド)で請け負いますので」



 G(ガルド)の入った袋も返した。



「神様、ありがとうございます」



 ヘラクレスさんは、そう言葉を残して、颯爽と帰っていった。

 最近は交渉に来る人もだいぶ減ったし、ずいぶん暇になったな。



「ダールデンさん、きますよ! ダールデンさんのかっこいいところ!」



 シャルルさんは何やら興奮気味に話しかけてくる。

 俺のかっこいいところ、とは?

 あ、テレビの話ね。



『今や知らない人はいないでしょう! 1階層の支配者! そして、このテレビを作った張本人でもあります、その名も――神、ダールデン!』

『あ、どうも。ダールデン……です』



 ぬいぐるみを抱きしめながら立ち上がり、音楽に合わせて体を左右に揺らすシャルルさんを横目に、俺はそっと耳を澄ませた。



『それじゃあー、ローランが聞いちゃうぞっ。さっきユリア様と話していたことは本当なのかにゃん?』

『あー、本当です。とりあえず……プラチナランクまでは登ろうと思って……ます』

『『おぉ!』』

『でましたぁー! ダールデンさんの衝撃発言! 全世界の神々よ、震えて待て。第1層からの下克上だぁ!』



 シャルルさんはガッツポーズを決めた。

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