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神々の遊戯 〜最下層からの下克上〜  作者: スガシラ
第一章 俺が1000年も、こもった訳
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第15話 本当の初陣

 遊戯盤に備え付けられた、メニューによく似た画面――神台(しんだい)

 神台に表示された“10”という数字は、時計の秒針と同じ速さで数を減らしていく。

 やがて現れる“START”の文字を皮切りに、淡白だった神台の画面は豪華なものへと変わる。


 鮮明に映り出される地形。手前半分はうっすら赤く染まり、その一点を指で触れた。

 俺の視界がゆっくり変化する。指で触れた、その場所に立っているように――。


 はは……、ほんとに変わったよ。予習しといて良かった。


 これが闘技場スキル“神々の目”の効果、自軍の領土内と自軍の兵士のいる場所なら好きに見ることができる。


 指を離すと、視界はまた闘技場の光景へと戻った。

 次はこっちを……こっちはどうかな……本陣はどうなってるかな……。


 何度もやっていたら、酔いそうになった。

 短時間に、頻繁には変えない方が良さそうだな。


 次は兵士を出してみるか。

 俺は自軍の右上にある小さい四角を指で触れる。お互い6つ持つ拠点の1つだ。

 

 拠点は5メートルほどの高さの城壁で囲われていた。門はなく、人が何十人も通れそうな穴が空いている。

 中に入ると、2階建ての簡素な建物が無数に並んでいる。


 守るなら、城壁に遠距離部隊を、内部に白兵戦が得意な部隊を配置するのが良さそうかな。

 いきなり守りからはいるのもなぁー。うん、攻めてみよう。


 闘技場のテレポートの使い方は、普段の使い方とは大きく違っていた。

 “神々の目”が発動中には、視界の両脇に同じ単語が縦に並んでいる。


 上から“保有兵士”、“テイマーモンスター”、“スキル”と書かれている。

 両脇にあるのは、神台を触れる指が、左右どちらでも対応できるようにするためだろう。


 俺は空いている指で“保有兵士”を触れると、選択肢が枝分かれする。

 上から“歩兵”、“突撃兵"、“魔法兵”、“弓兵”と書かれ、その下にリーダーたち10人の名前が書かれている。

 事前登録が必要な、俺の“オリジナル編成”だ。


 俺はその中からモコモコとルインを選択した。

 正面に小さく




   <テレポートを開始します>


     YES  /  NO




 と、表示された。

 もちろん“YES”だ。


 湧き出るようにモコモコとルインの部隊、合計2000人が現れる。

 念話を使い指示をだす。



(モコモコは周辺を警戒しながら敵の拠点を目指してくれ)

(りょーかい!)


(ルインはモコモコの部隊の後ろに続いてくれ)

(分かりました!)



 みんな視線を合わせてくれないのは、本来の俺がその場にいないからなんだろう……。ちょっと悲しい。


 ルインの能力は“剣術初級”。モコモコも戦闘スタイルは近接メインとくれば、遠距離持ちも入れるか迷いどころだなー。

 部隊は俺が初日作った、ごちゃ混ぜグループのままだからなんとかなるかな……。

 それにまだ、戦争は始まったばかりだ。


 俺は神台から一度指を離した。

 守りにも兵を割かないといけないな。中央上段は地形が森林か。ここなら――。


 神台にまた指を触れると、“保有兵士”からフィロルとアンジェを選択した。

 そして“YES”と。



(フィロルは森を使って罠を仕掛けて)

(了解)


(アンジェは敵がきたら魔法で近づけさせないで)

(が、頑張ります!)



 フィロルの能力は“罠設置初級”、アンジェは“風魔法初級”。敵がきてもしばらくは持ち堪えてくれるだろう。



「ワオーン!」



 近いような、遠いような場所から聞こえる、獣の雄叫びに思わず神台から指を離した。


 今の声はどこから?

 闘技場を見渡すと“それ”はすぐに見つかった。

 空に大型の液晶テレビを何個も貼り付けたように、映像が流れている。

 この映像は……遊戯盤の中の様子か! 観客の神々はこれを見るのか。


 映像の1つにモコモコたちが狼と戦っている様子が流れている。

 俺はすぐに神台に目を戻すと、右上の拠点と相手の拠点との間に、剣と剣が交差しているマークが付いていた。


 ここで戦ってるのか。ゴクリと唾を飲むと、神台の中へ視界を潜らせた。


 狼は……50匹くらいいる。モコモコの部隊はまばらに散っていた。

 ルインの部隊は……まだ距離が離れているか。

 これが――素早さの差なのか。


(モコモコがんばれ! もうちょっとでルインがくるぞ!)

(うん、言われなくても。ただこの狼、いつもより強い)



 いつもより強い? 俺は鑑定を使った。




 【名 前】  な し

 【種 族】  森林狼

 【性 別】  オ ス

 【クラス】  騎 獣

 【職 業】  な し

 【世 界】 ヘレナイン

 【階 層】   5

 【能 力】  威 嚇

 <体 力>   30

 < 力 >   25

 <魔法力>   6

 <耐 性>   9

 <素早さ>   35

 <戦闘力>   F




 本当だ……。これが階層レベルの差なんだろう。



「………………ンさん」



 必死に戦ってるなか、俺は歯痒い思いで見てることしかできないのか。

 こういう時に神のスキル、“攻撃強化”や“素早さ強化”が使えたらな……。

 モコモコ、頑張ってくれ! ルイン、急いでくれ!



「ダールデンさん!」

「は、はい!?」



 咄嗟に神台から指を離した。今の声は、遊戯盤の向こうのヘレナインさんだよな?



「戦争中話しかけるのはあまり良くはないんですが、練習ですし」

「どうかしましたか?」

「いえ、神台を見ていただければお分かりになるかと」



 俺は神台に目を向けると、左上の自軍だった拠点は青く変わっていた。



「すみません、ありがとうございます」

「練習なんですから、リラックスして、頑張りましょう」



 適度に全体も把握しておかないと、隙があるところは一気に攻め込まれるのか。

 これをボードゲームだなんていったのは誰だ……。これはまさしく――リアルタイムストラテジーだ。


 左下は守りを固めないと一気に攻め込まれる。2人じゃきっと足りない。


 ワーワー、マリベール、キース、頼む。



(ワーワーは敵がきたら足止めをお願い)

(まかせとけい!)


(マリベールはワーワーが足止めした敵を個別に倒していって)

(はい!)


(キースは傷ついたみんなの回復をしてくれ)

(承知した)



 ワーワーの能力は“鉄壁(小)”、マリベールは“槍術初級”、キースは“回復魔法初級”。

 持久戦を視野に入れた耐久型の布陣だ。少しでも時間を稼いでくれ。



 目まぐるしく動く戦場。攻めると決めた右辺は敵の拠点には到達したが、少なくなる度に送られてくる敵の兵士に今一つ攻めきれない。


 中央、左辺はなんとか持ち堪えているけど、如実に現れるステータス差にジリジリとみんなが削られていく。


 “デスマッチ”の勝敗は3パターン。どちらかの本陣を制圧、どちらかの兵士保有数が0になる、タイムアップ時の兵士撃破数。

 俺が勝ちを狙うなら、本陣強襲しかない……。


 神台に変化が訪れる。モコモコとルインたちが攻めていた右の敵拠点がうっすらと赤く変わった。

 勝負を仕掛けるならここしかない!


 神台の中央下段に指を置くと、そこにバルデラをテレポートさせる。



(バルデラ、ここに守りのみんなを集結させる。みんなを鼓舞してあげて)

(やってやるよ!)



 指をつい今し方落としてくれた拠点に置き換えると、シアラとシバザキをテレポートさせた。



(ルイン、モコモコ、シアラ、シバザキ、みんなで敵本陣までいっきにお願い! フィロル、アンジェ、ワーワー、マリベール、キースは交戦しながら中央下段まで退却。守りはみんなに任せたよ)



 遊戯盤に一度テレポートさせた兵士は、再びテレポートさせることはできない。

 後はみんなに動いてもらうしかないんだ。

 だから俺ができる最後の命令。ううん、お願いだ。



(みんな、勝ちに行こう!)

((まかせとけ!))

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