第13話 足りないものは契約でした。
5階層世界。
「他の階層で聞いたんだけど、お前聞いたか?」
「何をだ?」
「1階層のやつらの話だよ」
「午前中の戦争か! 傑作だよなー」
街中で人目を憚らず、大声で話すのは“獣人”と“人”の
男だ。
「自分の神があんなんだったら俺は死ぬね」
「恥ずかしすぎて死にたくなるよな」
高らかに笑い声を響かせる2人に、1人の男性が歩み寄る。
男性はシルクハットを被り、紺色のスーツを着ていて、スラっとしている。手に持たれたステッキでカツカツと音を立て、礼儀正しい姿勢から弾き出される足取りは、気品を感じさせる。
「なにやら面白そうな話をしていますね」
「「へ、ヘレナイン様!?」」
男たちは驚いた顔をして声をあげた。
「今の話、詳しく聞かせていただけませんか?」
ヘレナインと呼ばれた男性は、作ったように満面の笑みを浮かべる。
「い、いや、大したことじゃないんですけど、1階層の連中が、“契約”も知らずに何もしないで負けたらしいんですよ」
たじろぎながら答えたのは獣人の男だ。
「へぇー、そんなことが……」
ヘレナインは暫し何かを考えるそぶりをすると、クックックと不気味に笑い声を漏らした。
「なるほど……今度の神は――バカなのか」
○
「“契約”とは、毎月一定の賃金を払うことにより、特定の人物・魔物の“思念体”の権利を得ることができる。賃金は“契約”した階層によって変動するが、それ以降は再契約をしない限り変わることはない。“契約”をした特定……」
闘技場から逃げるように帰ってきた俺は、草原で1人寂しく、難しい言葉を並べて勉強中だ。
何よりみんなと顔を合わせづらい……。
俺たちの初めての戦争は惨敗だ。
なにもせずに負けた。さっきまではなんで負けたのかさえよく分からなかった。
【ヘルプ】との、ほとんど独り言といっていいやり取りでようやく見つけたのが、神のスキル“契約”の存在だ。
毎度のことながら思うが、【ヘルプ】の説明は不親切極まりない。
“戦争について”では確かにテレポートを用いて戦うと書いてある。でも出来なかった。
“テレポート”の説明では自分の権利をもつ“思念体”を闘技場に移動できると書いてある。うん、これは1か月も前に見た内容だから頭の片隅にも残っていなかった。
“思念体”とはなんぞや? と、どんどん調べていって行き着いたのが“契約”だった。
俺のステータス画面に書かれた世界の人口は10000人。“保有兵士数”は0のままだった。
世界の人口がそのまま兵士の数になると思っていた俺は負けて当然だったんだろう。
“保有兵士数”を増やすのに必要なのが、“契約”だった。
一生使い道がないと思っていたGは、このためにあったんだな。
加えてもう一つ分かったことは、“魔法兵”なのに魔法が使えない理由。単にレベルのようなものが低いからだと考えていたが、全く関係はなかった。
それにも“契約”が必要だったというわけだ。
これは“魔法兵”に限ったことじゃない。他のクラスも何かしらの“能力”を得ることができる。
今まではイージーモードがあるのに、ハードモードで生活していた感じなのだろう……。
幼女も初めて会った時に契約くらい教えてくれればいいのに。とは思ったが、戦争する前に、他人の戦争を何回か見学するのが普通だ、と言われた。
世界間転移結晶を1日前に作った俺には、到底その考えには行き着かないだろう。
今日とったスキルは“テレポート”、“念話”、“鑑定”、“弓術指導”。
“契約”は明日までお預けかな……。いや、明日は“格闘術指導”か……。
ううん、やっぱり明日は“契約”にしよう! シエラには土下座で謝ろう。
ぐぅーっと腹の虫が鳴った。時刻は11:45を示していた。
さて、みんなには何て謝ろうか。
食材の鍵は俺が握っているんだから、その名の通り、それを餌に許してもらおうかな。
俺は、誰かはいるであろう洞窟へ向けて、テレポートした。




