第11話 本気を出してもへたれはへたれ
“それ”は唐突に起こった。いや、事前に告知されていたのだから必然なのかもしれない。
『ティン』と聞き慣れた通知音で、俺は目を覚ました。
メニュー画面に記された日付と時刻は2/2、0:00を指していた。
“お知らせ”に追加された3つの内容は全て物騒だ。
『シルベルの世界より戦争の申請が届いています』
『ロダンの世界より戦争の申請が届いています』
『タナカの世界より戦争の申請が届いています』
睡眠を邪魔した上に、初心者の神相手にひどい仕打ちだな。
1ヶ月前の俺なら『タナカの世界』とは何も考えずに“承諾”を返していたかもしれない。なんとなく、親近感が湧く名前だから。
焦る必要はないんだ。俺にはまだ72時間の猶予があるんだから。
これはニート時代に付いてしまった悪い癖かもしれないな。
つまり、“明日から本気出す”ってことさ。大きな欠伸を一つ挟むと夢の世界へと帰還した。
○
1ヶ月の生活で、1日の流れは大体固定化されていた。
朝起きたらまずは朝食作りからはじまる。10グループで当番制になっているので、早起きをするのは十日に1回のはずなんだが……俺は毎日といっていいほど強制参加だ。
食材の鍵は俺が握っているのだから、仕方がないんだけどね。
朝食が終わるとリーダーたちと俺で、その日の役割を確認する。
狩りに行くグループ、採取に行くグループ、スキルで鍛錬をするグループに分かれる。
スキル構成は“テレポート”、“鑑定”、“念話”を固定として、もう一つを“剣術指導”、“槍術指導”といったなにかしらに当てていた。
お目当てのスキルがいつになるかわからないこともあり、狩りや採取のグループにいても、鍛錬したいスキルの日は優先的に参加してもらうようにしていた。
逆に興味がないスキルの日には、狩りや採取に参加してもらっている。
スキルとは凄いもので、鈍臭い俺でも、まるで“その”達人であるように体が機敏に動く。
ただし、対人戦と動かない的に限る……。
試しに“剣術指導”をとって狼に向かっていったことがある。結果は、なすすべなくやられた……。
“指導”とつくだけに、教えること以外はからっきしなのだろう。
今日この日ばかりは、リーダーたちと役割を確認した後に、1万人全員に草原に集まってもらった。
戦争についての大切な話をしたかったからだ。
あの日のようにみんなは円を作って俺を囲った。
1万人の視線はそうそう慣れるもんじゃない。足が震える。
「みんなに聞いてほしいことがあるんだ」
普段はくだけた感じなのに、この時ばかりは静けさに包まれている。
「俺は……他の世界と戦争をしようと思ってる。出来ることならしたくない。みんなと精一杯生きてる、今の生活だけで満足なんだ。でも……俺は神だから……。戦争からは逃げることができないんだ」
誰の顔を見ることもできなかった。知らず知らずのうちに俯いて話していたからだ。
俺の声は震えていたかもしれない。
「ダールっち、顔を上げて」
静まりかえったその場に、メリハリのない女性の声が響く。
この声は、フィロルかな。
「なにいってるか聞こえねーぞっ」
ガラガラ声に、この口の悪さはワーワーだな。
「このへたれーっ!」
間違いない、ルインだ。
『へ・た・れっ! へ・た・れっ!』
ルインの言葉に続くようにへたれコールが始まった。
「みんな、うるさい!」
俺は、はにかみながらそう言った。内心は嬉しくて仕方がなかったんだけどね。
「戦争は俺一人じゃ無理だ。だから……みんな力を貸してくれ!」
『当たり前だっ!』
泣きそうになった。心の中で何回も「ありがとう」って言った。
ううん、本当は泣きながら声に出して「ありがとう」って言ったんだ。
その日、俺は2階層『ロダンの世界』に“承諾”と返事を返した。戦争形式は初めてでよくわからないから、フリーバトルでね。




