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神々の遊戯 〜最下層からの下克上〜  作者: スガシラ
第一章 俺が1000年も、こもった訳
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第9話 起死回生のテレポート

「マリベール! どこだー!」



 俺は森の中を駆け回っていた。想像していた森よりもずっと険しい。

 草は腰のあたりまで伸び、密に生えた木々で見晴らしは悪い。もはや“ジャングル”と呼ぶべきだろう。

 こんな場所で狼の群れと戦っているのか。


 俺は、この世界をゲームのようなものだと思っていた。

 元の世界では有り得ないメニュー機能、俺の考えには意見することなく従ってくれるみんな。

 ゲームの駒を動かす、プレイヤーの気持ちになっていたんだ。


 みんなにだって“心”はあるんだ。ちょっと考えたらわかる、そんなこと当たり前だって。

 俺はついさっきまで“それ”に気づけなかった。だから大バカ者なんだ。

 けど、もう知ってるよ。さっき教えてもらったから。


 みんなを死地に追いやってるのは俺のせいだ。助けたいなんて言ったら痴がましいにも程がある。

 最大の敵は無能な仲間だ。つまり今の俺は……みんなの最大の敵だ。

 俺は……みんなの仲間になりたいんだ!


 会って数時間、話したやつなんか十数人しかいない。だけど、俺の作戦とも呼べない作戦に、誰一人反論することなく“信じて”実行してくれた。

 今も俺の言葉を“信じて”救援を待っていてくれる。

 “それ”だけで十分だったんだ。ずっと……孤独に生きてきた、乾いた俺の心には――。


 だから俺は俺にできることをするよ――仲間として、そして神として。



「マリベールー! みんなー! どこだー! 救援にきたぞー!」


「ワオォーーン」



 獣の雄叫びだ、近い。

 膝が笑っている。堕落した生活をしていた俺は、体力がないんだ。体に鞭を打って、獣の声の方に足を進める。


 茂みをかきわけた先に“そいつら”はいた。

 全身を黒い毛並みに覆われた“狼たち”は俺が知っている狼より二回りは大きい。

 みんなは棒を持って、怒声を上げて、視界に映るあらゆる所で、戦っていた。



「鑑定」




 【名 前】  な し

 【種 族】  森林狼

 【性 別】  オ ス

 【クラス】  騎 獣

 【職 業】  な し

 【世 界】 ダールデン

 【階 層】   1

 【能 力】  な し

 <体 力>   15

 < 力 >   20

 <魔法力>   3

 <耐 性>   4

 <素早さ>   25




 つよっ!? みんなより数倍はステータスが高いじゃないか……。

 だけど……俺には関係ない。神は死なないんだ。



「こっちだ、オオカミやろう!」



 俺は狼たちに負けず劣らず雄叫びを上げた。だが、こっちを見向きもしない。

 


「か、神様!? みんな、神様が救援にきてくれたよ!」



 木の高いところから“誰か”の声が響いた。

 下で応戦している者はそれに呼応するが、どこか弱々しい。

 その原因は一目瞭然だ。みんな、ところどころ赤く染めているんだから……。

 周りにはすでに倒れている者も少なくない。全部……俺のせいだ……。



「お前らの餌は、これだっ!」



 【道具】から“ケイブバットの死骸”を3つ取り出すと、狼に向かって投げつけた。

 狼たちは周りを警戒しながら“それ”に歩み寄る。

 これでわずかな時間は稼げた。後は今のうちに、



「転移4を削除。新しくここに転移結晶の作成」



 目の前に菱形の鉱石が現れる。メニューを操作し、名前を“転移4”と付ける。



「神様、これは一体どう言うことでしょうか?」



 肩で息をして近づいてきたのはマリベールだった。

 手には、転移結晶と同じくらいの長さの竹を持ち、頬や腕からは血が流れていた。



「マリベール、みんなを連れて、この転移結晶で“転移1”に飛んでくれ」

「えっ!? でも、狼たちが――」

「――作戦があるんだ。俺を信じてくれないか」



 俺はマリベールの瞳をじっと見つめた。他人の、しかも女性の目を、まじまじと見たのは初めてかもしれない。

 緑みがかった綺麗な色をしていた。そして、こんな時だがちょっとドキドキした。


 マリベールは俯いて「わかりました」と返事をすると、すぐに顔を上げて声を張った。



「みんなー、今すぐここにある転移結晶で、“転移1”にテレポートして! 動ける者は動けない者に手を貸して! 狼は……神様がやっつけてくれるって!」



 視界に映る狼たちは20匹を超えている。

 全て俺がやっつける? 無理だ。そんなこと出来っこない。俺にそんな力はないんだ。

 俺は……30年間、人の手を借りて生きてきた人間だ。

 だから――人の手を借りるのは大得意なんだよ!



「こいつらは俺に、“俺たち”に任せろ!」



 俺は虚勢を張って、狼に向かって走り出す。

 狼は赤い液体の付着した牙を向ける。刃物のように鋭く大きい牙だ。

 怖い、痛そう、死ぬ、頭の中を駆け回るのはそんな言葉ばかりだ。

 それもそうだろう。俺は体力だけじゃない、根性もないんだから。



「――いってぇ」



 先頭を走ってきた1匹に肩を噛まれた。

 物理の法則に従うように、俺は肩を噛みつかれたまま、後ろにふっ飛ばされる。

 食い込んだ牙がぎりぎりと音を立てて、さらに食い込んでいく。

 


『“神”の体に損傷を確認。損傷レベル1。10秒ほどで修復が完了します』



 頭の中に機械じみた声が響いた。

 なんの“お知らせ”か知らねぇけど、こっちは痛くてそれどころじゃないんだ。



「こいつを“転移2”にテレポートだ! いますぐ!」



 肩が喰いちぎられた、と錯覚するほどの痛みはすぐに引いていく。

 これが神の力、か。なんで痛みは消してくれなかったんだろうな。



「念話」



(ルイン、聞こえるか?)

(神様! 送るなら事前に連絡するって言ったじゃないですが!?)

(痛くてそれどころじゃなかったんだ。俺、()()()だから)

(なんの話ですか!?)

(今からどんどん送るってこと)

(わ、わかりましたよ)



 俺はここに来る前に“転移1”の場所を洞窟の入り口に、“転移2”の場所を、巨大コウモリ――ケイブバット――の掃討し終わった洞窟内部へと作り替えた。


 ルインにしたお願いは2つ。


 1つ目は他の場所への救援だ。

 1人でも多くの人を救って欲しいと伝えた。


 2つ目は洞窟内部に送られた魔物の退治だ。

 明るいところから急に暗いところに送られて、集団で襲われるんだから、逃げることはもちろん抵抗することも不可能だろう。



「さーて、次に殺されたいやつはどいつだ!」



 俺はさらに虚勢を張って凄んだ。

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