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◆1の1◆

 初めまして、あるいは前に読んで下さった方がいらっしゃったら、お久しぶりです。

 新しく連載始めました。

 書きたい気持ちとは裏腹に、なかなか筆が進まないのですが、思い切って投稿します。

 少しでも面白いと思われたら、ご支援よろしく。


 戦闘などに伴って残虐な表現もあり得るので、R-15とさせていただきます。

 ◆神聖歴千五百二十六年 五ノ月 第三日 北方辺境領 ルーヴェ街道◆


 初夏とはいえ、渓流に沿った街道に吹き下ろす風は冷たい。遙かの山並みの頂に見える残雪をかすめて来るそれに身をすくめた俺は、胸元のスカーフをかき寄せた。


 半年前、魔侯国の軍勢は南方に位置するフンギィリ平原の中央部、旧諸侯領にまで侵入した。だが王都を目指し西進していた奴らは、このノルティスの地にまでやって来ることはなかった。


 けれどもあの戦禍の残したものは大きく、渓流沿いをたどる街道には、北方を巡る荒涼とした風が吹きすぎるだけで、旅する人の姿は見られない。



 前夜宿泊した村を朝出立してから、すでに三刻も騎行を続けている。俺が鞍を置いている灰毛のブリーズは四歳の牝馬で、体力のある中型馬だが、さすがに疲れが見え始めていた。


 それに比べ、ブリーズの鞍頭に結ばれた長い端綱で引かれる大型馬のオヴェロンの方は、こもに包まれた長櫃チェスト二つを荷駄鞍に振り分けて運んでいるのに、いたって元気なものだ。


 この頑健な黒馬は、その昔全身鎧をまとった重装備の騎士を背に乗せ、戦場を駆けた巨馬たちの子孫であり、疲れを知らないように見える。


 訓練された戦馬であるオヴェロンには、実は曳き綱など必要ない。けれども、見る目があれば一財産とわかる馬がつながれていなければ、離れ駒だと言いがかりをつけて掠め取ろうとするやからは、今までも珍しく無かった。


 もっともオヴェロンに食指を動かす奴らは直ぐに、この戦馬に手を出したことを後悔することになる。手の指を喰い千切られるなら良い方で、運が悪ければ命まで失う羽目になるからだ。だが、そんなもめ事に度々あうことは好ましくないので、お守り代わりに付けている曳き綱なのである。



 やがて街道のかたわらが少し低くなって、河原に続いている場所に差し掛かった。茂みが踏み分けられた跡に気付き、路を外れ水場になっている川岸に降りる。流れの近くの地面に、馬を引いた多数の人間が踏み荒らした新しい跡が残っていた。


 馬と人間の足跡の数からみて、全員騎乗してここまで来たはずだ。その内二人の足跡は軟らかい川土に深くめり込んでいた。


「よっぽど重い装備……まあ板金鎧だな」


 そう呟きながら急いで街道に戻った俺は、ブリーズの鞍に立ち上がって、前方ではなく来し方に眼をこらす。


 馬を歩かせてきた街道は長い登り路で、両側に灌木が生えていた。だが馬上の高い位置から眺めると、かなり後方に二頭の馬を連ねて来る姿が見えた。


 俺が昨晩宿をとった村の酒場兼雑貨屋の親父は、

「ここしばらくは、他所から来る人間なんてさっぱりでぇ。この街道にゃ閑古鳥がないてまさぁ」

なんて言ってたが、それじゃあ、あいつらは、どこから沸いて出たんだ?


 いずれにしても、先行した人数の方が多い。待ち伏せということだが、後ろを来るのが二人だけだとしたら、戻るべきだろうか?


「しかし……この後クリュニィまでは一本道だからなぁ……」


 少し迷った末俺は、前に進むことにした。正面突破になる。


  俺は勇者であるロークスでも聖騎士のサティでもないが、奴らに『暁』を敵に回すとどんな目に遭うか教えてやることにしよう。


 まずオヴェロンの端綱を外し、俺たち、つまり俺とブリーズとは、少し距離を置いて進むように指示した。いくらこいつでも、重い荷を背負わせたまま乱戦の中に突っ込ませる訳にはいかない。まだ先は長いのだから、怪我でもされたら後が面倒だ。



 それからしばらく進むと、馬車がすれ違える程の幅の切り通しが見えてきた。路面を踏み荒らした跡が、うっすら残っている。どうやらこの向こうで待ち構えているようだ。


 予想に反して、そこを抜けるまで襲撃は無かった。


 開けた場所に出て、全身鎧の二騎に前を塞がれた。両方とも長めの手槍を持っている。その両脇の二人ずつは下馬し、金物を打ち付けた革の胴鎧を身に付け、長剣や短槍で武装していた。

 そして短弓をかまえた二人が、それぞれ道の両側の少し小高くなった位置にある低木の傍で、俺を狙っている。


 なるほど、切り通しを抜けるまで待ったのは、この二人の弓士がいたからか。俺が踵を返して逃げ出しても、切り通しを抜けるまで矢を避け続けることはできない。

 四十間ほどの切り通しは、全て短弓の射程距離内だ。俺に当てることはできなくとも、ブリーズを負傷させることは十分可能だ。


 騎乗したままの力押しなら全身鎧の騎士二人が、下馬しての手数なら胴鎧の四人が、そして距離を置いた攻撃なら弓士の二人が担当する。無表情に俺を眺める顔つきを見ても、この手の荒事に慣れた男たちなのだろう。


 後ろから迫っているはずの二人を含めれば都合十人。『暁』の一員とはいえ、単なる物資調達係あるいは荷運び程度にしか考えられていないはずの俺を抑えるためには、過剰すぎる手勢と思って侮っていても仕方ない。


 昼時を過ぎ、平地で暖まった大気が高地に向かって吹き上げ始めている。この切り通しでも、向きの変わった風は俺の背後から、奴らに向かって穏やかに流れていた。



 前回と相変わらず素人です。「この方が読みやすくなる」というご助言は歓迎します。ただ、自分なりにこだわりもあるので、ご助言どおりにできない場合もあると思います。その時は、ご寛容をお願いいたします。

 この書出しの部分は、ジェームス・フレッカーの詩の断片にインスピレーションを受けています。この断片については、2014年9月に『なろう』に投稿した『記憶 黄金の旅 その一 狙撃』に書いていますが、子どもの頃の記憶って、残るものですね。

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